2007-02-25

「善き人のためのソナタ」回復の回路

弱冠33歳のフロリアン・ヘンケル・フォン・ドーナスマルク監督による監視国家の真実を描いた傑作「善き人のためのソナタ注・内容、台詞、ラストシーンに触れています。物語・1989年ベルリンの壁崩壊前の東ベルリン。国家保安省(シュタージ)局員ヴィースラー(ウルリッヒ・ミューエ)は反体制の疑いをもたれている劇作家ドライマン(セバスチャン・コッホ)と同棲相手の舞台女優クリスタ(マルティナ・ゲデック)を監視して証拠をつかむよう命じられる。ドライマンのアパートに盗聴器をしかけ、徹底した監視をはじめるヴィースラー。しかし…。2時間18分、まったく途切れることのない緊密な空気。サスペンス的にケレン味たっぷりに描いてしまうところを品位と気高さを持って描く。役者は演技を感じさせずカメラはカメラの存在自体を感じさせない演出(時折、挟み込まれる俯瞰で撮った道路が効果的)。ヴィースラーがドライマン、クリスタのふたりが喧嘩をしてしまうようにし向ける意地の悪い行動をおこすシーンがある。しかし、その後ヴィースラーが盗聴機越しに聞いた会話は…(この辺りを境にヴィースラーは目覚めていく)。タイトルのソナタはひとつのアイテムだが物語自体が音楽のような主旋律とコーダ部分(ベルリンの壁崩壊後のエピソード)を含ませて忘れがたい余韻を残す。

Das Leben der anderen. Geschwaerzte Ausgabe.

ラスト、これ以上はない幕切れ。
ヴィースラーがふと、目にする書店の広告。
ドライマンの著書「善き人のためのソナタ」
その本に記された献辞。
… HGW XX/7へ捧げる …
(HGW XX/7はシュタージでのコードネーム)
「ギフト包装しますか?」
「いや、これは私のための本だから」

追記
アカデミー賞外国語映画賞受賞

善き人のためのソナタ
http://www.yokihito.com/

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2007-01-30

「ユメ十夜」こんな夢を見た。

夏目漱石原作の短編「夢十夜」を10組11人の監督によって映像化した「ユメ十夜」。夢なんだから物語が迷走しても全然、大丈夫大丈夫。原作に近い雰囲気のものから大きく脚色し直した派手なものまで「いろいろな夢の形」を見せてくれます。これだけバリエーション(豪華なキャストも含めて)があると自分の好みにあったものに出会えるのでは ? 注・以下、各エピソード内容、台詞に触れています。

文鳥・夢十夜

プロローグ
清水厚・監督
まずは掴み。漱石先生が書き出すところから始まります。「時間」についての取っ掛かりでもあります。「この作品がわかるまでには100年もの歳月がかかるであろう」

第一夜
実相寺昭雄・監督
小泉今日子、松尾スズキ

さすがにテイストが近い題材を演劇的ケレン味演出で見せてくれます。サラサーテの「チゴィネルワイゼン(映画クレジット表記通り)」が使われていて一瞬、鈴木清順監督の「ツィゴィネルワイゼン」を思い出しました。小泉今日子のの着物が涼しげで綺麗〜。

第二夜
市川崑・監督
うじきつよし、中村梅之助

モノクロ、サイレント !! 90歳を超えても尚アバンギャルドにしてスタイリッシュ。短刀の鞘(さや)のみ
が使われている。漱石原作では「こころ」と「吾輩は猫である」を撮っている。

第三夜
清水崇・監督
服部圭亮、香椎由宇

やはり、ここは清水監督ということでホラーテイスト満開の「ユメ十夜」中、屈指の怖さ。悪夢が続いた際のもどかしさ「夢なら覚めてくれ」感が最も出ている作品。

第四夜
清水厚・監督
山本耕史、菅野莉央

懐かしい光景。セピア風画面。墜落する飛行機が上空を飛んでいく。駅の伝言板。「思い出」もまた「夢」。師である実相寺監督のトーンを受け継いでいて今後楽しみな監督。

第五夜
豊島圭介・監督
市川実日子、大倉孝二

原作の天深女(あまのじゃく)が出てきますが、ほとんど「ケムール人」か「T2」ノリでビックリ。まさに悪夢とよべる「夢」。市川、大倉ふたりが出ていると演劇的でもあり映画的でもある。

第六夜
松尾スズキ・監督
阿部サダヲ、TOZAWA

モノクロ、BBS風字幕、英訳。アニメーションダンサーTOZAWAによる運慶ハイパーダンス。10分という制約を逆にMUSIC VIDEO仕立てに作りあげた。どう締めるのかと思っていたら「木彫りの熊オチ」って…、まさに松尾スズキ監督。

第七夜
天野喜孝、河原真明・監督
Sascha、秀島史香(共にVoiceCast)

3DCGアニメーションによるファンタジー。ファンタジーなのだから「まさに夢」。紫の色調で整えられたピアノのシーンが流麗。

第八夜
山下敦弘・監督
藤岡弘、、大家由祐子、山本浩司

原稿用紙にむかう漱石のイメージ世界。シュール。石原良純のシーンは夢オチ ? 「書いちゃえ」の一言が本オチ?

第九夜
西川美和・監督
緒川たまき、ピエール瀧

最も「映画らしい映画」。個人的には、この「第九夜」が最もよかった。緒川たまきの佇まいが美しい。お百度参りのシーンとピエール瀧演じる出征しようとする夫との確執シーンとの色彩対比も極めて美的。

第十夜
山口雄大・監督
松山ケンイチ、本上まなみ、
安田大サーカス、板尾創路、石坂浩二

最後の最後に弾けまくった ! 本上まなみの「あっ!」と驚く「ぶひっ」から突然平賀源内、豚丼まで「何でも有り」のまさに「夢の脈絡のなさ」を体現。

エピローグ
清水厚・監督
場所は現代。ビルの広告パネルの「時間」が激しく流れていく。戸田恵梨香扮する女学生が「まだ100年かかるのかな〜」と呟いて、雪。
そして、エンドクレジット。

ユメ十夜
http://www.yume-juya.jp/

夢十夜

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2006-10-05

夜のピクニック

恩田陸の第2回本屋大賞に輝くベストセラー小説「夜のピクニック」の映画化。物語・1000人一緒に24時間夜を徹して、80キロを歩く伝統行事「歩行祭」。今年で最後の歩行祭を迎える甲田貴子(多部未華子)は、密かに賭をしていた。それは一度も話したことのないクラスメイトの西脇融(石田卓也)に話しかけるということ。そんな簡単なことができない、親友にも言えない、特別な秘密が2人にはあった…。( ここまでフライヤーより抜粋 )。注・ここより物語のラストに触れています。ただ歩くだけ、気がついたら、この「だらだら感」が実は心地良い(前半、アニメの挿入含めて、どうなることかと思いましたが、結果2時間という長さは必要だったということでしょうか)。明け方、朝もやの中を歩く4人を捉えた風景もよい。ラスト、「ゴール」のゲートを4人一緒にジャンプした後カメラがパンすると反対側の「スタート」を映して新たな旅立ち(本当のスタート、秘密だった「わだかまり」を越えた2人にとっても)を祝福して終わるあたり、「青春映画の王道だな〜」と納得。多部未華子(好演)以外の今後の日本映画界で活躍するであろう俳優陣も素晴らしい。

夜のピクニック
http://www.yorupic.com/

夜のピクニック 「夜のピクニック」INSPIRED BEST ALBUM

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2006-08-13

ユナイテッド93

「ボーン・スプレマシー」の(というよりドキュメンタリータッチで描かれた「ブラディ・サンデー」のというべきか)ポールグリーン・グラス監督による2001年9月11日のテロで犠牲になった4機の飛行機中、ただ1機ターゲットにたどり着かなかったユナイテッド93便の機内で起こった出来事を時間軸に沿って淡々と描ききった「ユナイテッド93」。リアルという表現では捉えきれない監督とスタッフの真摯な態度が垣間見られる。本当にその場にいた管制官や軍関係者たちのやりとり、無名の役者を使った乗客の混乱と悟り…(監督は役者に対して同じ座席に座ることのみ指示されたとか)。見終わった後の気分は複雑だが、これも「映画のできること」のひとつ(何かを知ること)。すでに予告編が流れはじめているオリバー・ストーン監督「ワールド・トレード・センター」も実話だが「ユナイテッド93」とは対極的になりそうです(あくまでも予告編とシノプシスからの私見ですが…)。

ユナイテッド93

http://www.united93.jp/

オリジナル・サウンドトラック「ユナイテッド93」

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2006-07-24

火花散る演技「ゆれる」

注・物語の構成に触れています。西川美和監督「ゆれる」のプロットを最初聞いた時は「Rashomon Approach」をベースとした物語かと思っていました。しかし、そのあたりのところを西川監督は見事に裏切ってくれて前半かつてのATG系の映画(「遠雷」など‥)を彷彿とさせる映像とリズムで登場人物たちの関係性を巧みに紡いでいきます。そして吊り橋の一件(実際には観客には何も見せていない。よって、この物語には客観的な事実は存在しない)をはさんで、ほぼピッタリ1時間ほど経過したところから法廷を主体としたドラマに変調し、最後のコーダとして約15分間、その後(7年後)、そしてラストワンショットが描かれるという秀逸なオリジナル脚本には、本当に驚かされました(法廷でのカメラ位置も印象的)。また、演じるオダギリジョー、香川照之の火花散る抑制の効いた芝居は見応え十分!!脇を固める伊武雅刀、蟹江敬三、木村祐一(法廷でのモテない話の時は本人の話?かと‥)、新井浩文、真木よう子も素晴らしく今年公開作品中、屈指の一本。

ゆれる
http://www.yureru.com/

ゆれる ゆれる オリジナルサウンドトラック ゆれる

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2006-06-16

DVDには、なっていないけれど_6

前述(2006-06-11)にも書きましたがウディ・アレン監督・主演、ミラ・ソルヴィーノがアカデミー助演女優賞を受賞した「誘惑のアフロディーテ」も日本では未DVD化の作品。〜以下ビデオ解説より抜粋生まれたばかりのベビーを養子に迎えたワインリブ夫妻。ルックス、IQ、性格の三拍子揃った息子マックスの成長ぶりに、夫レニー(ウディ・アレン)は鼻高々。しかし一方で夫婦仲は崩壊寸前。そこでちょっとした浮気心から息子の実の母親探しに熱中し始めたレニーは、驚くべき真実と直面する。抜粋ここまで〜探し当てた母親(実は娼婦、でも純粋)を演じたミラ・ソルヴィーノとアレンのやりとりが最高におかしい。オチもきいていて素晴らしい。もう一本、ウディ・アレンのもう一つの顔、クラリネット奏者としてニューオリンズ・ジャス・バンドを率いての23日間18都市を巡るヨーロッパツアーの完全密着ドキュメンタリー映画「ワイルド・マン・ブルース」も自身の監督作ではないが未DVD化。素顔のウディ・アレンが見られる貴重な作品。演技なのか素なのか、わからないジタバタ度がおもしろい。

ワイルド・マン・ブルース

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2006-06-13

白い世界「雪に願うこと」

「嫌われ松子の一生」は映画全体で2000カット撮影されたそうですが(通常は全体で700カット)、「雪に願うこと」(根岸吉太郎監督)はその逆に、ゆったりとしたカット割りで丹念に、ばんえい競馬に携わる人々のドラマを紡いでいきます(方法論は違えど、どちらも傑作)。白い雪景色に、白く立ち上がる湯気、白い息‥。主人公(伊勢谷友介)の傷ついた心を癒すのは「輓馬」だけではなく、この真っ白な世界でもあるわけです(それは、吹石一恵演ずる女性騎手にとっても‥)。佐藤浩市、小泉今日子が、厩舎の中でそれぞれ父親的、母親的な意味合いを感じさせる役柄で好演(本当に素敵!!)。

雪に願うこと
http://www.yukinega.com/index.html

雪に願うこと (CLUBKS.COM)
http://clubks.com/snow/
佐藤浩市ファンサイトの1コンテンツです。

輓馬 雪に願うこと プレミアム・エディション

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