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2006-09-22

アメリカ,家族のいる風景

アメリカ,家族のいる風景」かつては西部劇のスター俳優。しかし、今はすっかり落ちぶれてしまったハワード・スペンス。彼は新作の撮影中に突如、現場から逃げ出し、長く帰っていなかった故郷を訪ねる。そこで30年ぶりに再会した母から、驚きの事実を聞かされる。20数年前、彼の子供を身ごもっているモンタナに住む女性から連絡があったというのだ。ハワードは、まだ見ぬ自分の子供を捜し出すため、彼がスターダムにのし上がるきっかけとなったデビュー作の撮影地、モンタナ州ビュートへ向かった。そして、時同じくして自分の父を求めてビュートへ向かう、また別の娘がいた。
最初、このビュートへ向かう娘が、連絡のあった母親の子供かと思って見ていると、実は違っていて、また、別の母親の間に生まれた娘だとわかってきます。自分の娘(スカイ)だという事にも気づかないハワード。そんな存在さえわかってもいない父親に優しく接するスカイ。また、突然目の前に父親と兄妹(スカイ)が現れた事に対して苛立ち取り乱すサムの息子アール、そしてアールの母にしてハワードの昔の恋人ドリーン。ラスト、二人の子供とハワードの間に訪れる和解の距離感が素晴らしい余韻として残ります。

アメリカ,家族のいる風景―オフィシャル・フォトブック

アメリカ映画なのだが、何処か悟りのような慈愛に満ちた作品となっている。(ヴェンダース監督の敬愛する小津安二郎監督の影響が自然とにじみ出たと言えるかもしれません)

キャストはハワード役にサム・シェパード、かつての恋人ドリーンにジェシカ・ラング(実生活通りの夫婦競演!!)スカイ役に「死ぬまでにしたい10のこと」での好演が印象的だったサラ・ポーリー、息子アール役にガブリエル・マン。また、ティム・ロスがハワードを撮影現場につれて帰る探偵役で、ハワードの母親役に「北北西に進路を取れ」の名女優・エヴァ・マリー・セイントがそれぞれ脇を固めている。

そして、美術面ですが、これがもうワンショット、ワンショットが一枚の写真として成立する位に美しく決まっています。(写真家としても個展を開く位ですから、当たり前と言えば当たり前なのですが‥)
エドワード・ホッパー(※1)の絵画をモチーフとした色彩と構図。特にモンタナ州ビュートの街の色彩のヴィヴットさ!!(もちろんアメリカ西部の砂漠の風景もシネマスコープサイズいっぱいに広がって感動的)。ホッパーの絵画における「人のいない風景」が映画でも再現されていてハワードの孤独を浮かび上がらせる形となっています。撮影はフランツ・ラスティグ。(ナイキのCMやミュージッククリップの超売れっ子監督)
尚、ホッパーの絵画は同じヴェンダース監督の「エンド・オブ・バイオレンス」(※2)ではメインキービジュアルを含め、まるっきり引用されていました。

アメリカ、家族のいる風景

※1エドワード・ホッパー( Edward Hopper 1882-1967 )
都市(アメリカ)の孤独を描いたといわれるアメリカの現代絵画作家。

※2「エンド・オブ・バイオレンス」での引用
ホッパーの代表作「夜更かしの人々( Nighthawks )」を引用。誰一人歩いていない深夜の街に浮かび上がるダイナー(現代においての「深夜のコンビニ」のようなイメージか)ガラス張りのダイナー越しには年老いた定員とカウンターに座る男女、少し離れて中年の男性がひとり。見事なまでの「孤独の心象風景」と呼べる一枚。

Edward Hopper: 1882-1967, Transformation of the Real (Basic Art)

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