山下敦弘・監督『マイ・バック・ページ』Have You Ever Seen The Rain?
注・内容、台詞に触れています。
川本三郎がジャーナリスト時代の経験を記したノンフィクション『マイ・バック・ページ』を『リンダ リンダ リンダ』『松ヶ根乱射事件』『天然コケッコー』の山下敦弘監督が映画化。主演は妻夫木聡、松山ケンイチ(初共演)。他に忽那汐里、石橋杏奈、韓英恵、中村蒼。そして、まるで本物?と思わせる脇を固めた長塚圭史、山内圭哉、古舘寛治、あがた森魚、三浦友和。脚本は向井康介、撮影は近藤龍人という監督の盟友ふたり。
物語・1969年、新聞社の週刊誌編集部で働く記者・沢田(妻夫木
聡)は全共闘運動が激しい中、理想に燃えながら日々活動家たちの取材を続けていた。それから2年、取材を続ける沢田は先輩記者・中平とともに梅山(松山ケンイチ)と名乗る男からの接触を受ける。そして彼が語る武装決起に疑念を抱きながらも不思議な親近感を覚え次第に引きこまれていく。そして、事件は起きる…。(ブルー部分・プレスより抜粋)
原作、脚本(撮影稿)ともに読んだ上で感じるのは「あの時代」を描いているのではないということ。脚本(撮影稿)から本編でカットされたシーンをみると多くは梅山の登場している部分(ここが入っていると偏った感じになったかも…)
ラスト、沢田の流す涙は懐かしさでも悔恨の念でもない、なんとも表現しがたい涙。青春の終わりとも取れるし、何者ともしっかり接してこれなかった「にせもの感」漂う自分、もう戻ることはできない場所…いろいろな思いが込められている。(後述、映画を見に行ったシーンでの「涙」についての会話とも繋がる)
そして監督インタビューでよく目にする「実際、人がひとり死んでるんでしょう」という事実。そこは突出して長く克明に描かれていることでも、本作へのスタンスがよくわかる。
※MEMO1
原作と映画の間で
川本三郎・著「マイ・バック・ページ」目次
『サンソレイユ』を見た日
69年夏
幸福に恵まれた女の子の死
死者たち
センス・オブ・ギルティ
取材拒否
町はときどき美しい
ベトナムから遠く離れて
現代歌情
逮捕までⅠ
逮捕までⅡ
逮捕そして解雇
色変え部分が主なエピソード
(もちろん全体から様々な部分も)
●原作からそのまま使われた台詞
倉田眞子(忽那汐里)と映画を見に行くシーン。
『ファイブ・イージー・ピーセス』
「男の人が泣くのを見るのは好き」
「『真夜中のカーボーイ』でもダスティン・ホフマンは『怖い、怖い』っていって泣いたの。覚えてる?」
「いや、覚えていない。泣く男なんて男じゃないよ」
「そんなことないわ。私はきちんと泣ける男の人が好き」
●「ギター弾くんですか」
「弾いていいですか?」
「Have You Ever Seen The Rain?」
「おー、雨を見たかい」
「これナパーム弾の事なんですよね」
CCR(Creedence Clearwater Revival)の歌と宮沢賢治「銀河鉄道の夜」この2点だけで沢田は梅山のことを信用してしまう(原作にも、そう書かれている)
※「これナパーム弾の事なんですよね」という妙な知ったかぶり台詞に梅山の胡散臭さも出ているのでは?
●原作には映画に出てこない1971年中津川フォークジャンボリーを取材したことも。サブステージでの「はっぴいえんど」の事(「現代歌情」)が書かれていますが、拓郎ファンとしては、やはり「人間なんて」の演奏が…。
思えば「わたしたち」から「僕」への分岐点。
※MEMO2
●撮影は16ミリを35ミリにブローアップ(フィルムの増感は約倍増感だそうです)。近藤龍人は「海炭市叙景」や「パーマネント野ばら」もそうでしたが、どこかATG映画のような趣のフィルムルックを持っていて、今1番いいなぁと思っている撮影監督です。
●映画館で沢田が見ていた映画(画面にシーンが映るもの)は川島雄三監督「洲崎パラダイス 赤信号」。会話の中や音声のみで出てくるものに前述の「ファイブ・イージー・ピーセス」「真夜中のカーボーイ」。そしてラスト(テロップはでないが1979年)試写会場での「十九歳の地図」。また部屋にいろいろな映画ポスターが貼られている。
●主題歌「My Back Pages」はBob Dylanの名曲(Dylanの原曲は「ハッティキャロルの寂しい死」的ですが…)を真心ブラザーズ+奥田民生がカヴァー。
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