アスガー・ファハルディ監督『別離』(Nader and Simin, A Separation)
注・内容(あるシークエンスは詳細)に触れています。
第84回アカデミー賞外国語映画賞、第61回ベルリン国際映画祭金熊賞など世界中の映画祭で賞を獲得した『別離』。監督は前作『彼女が消えた浜辺』が一昨年公開されたアスガー・ファハルディ監督。出演はペイマン・モアディ、レイラ・ハタミ、ペイマン・モアディ、シャハブ・ホセイニ、サレー・バヤト、サリナ・ファルハディ、他
物語・シミンとナデルはテヘランに住む夫婦。娘のテルメーとナデルの父と4人で暮らしている。シミンは娘の将来を考え、家族揃っての国外移住を考えていたが、夫ナデルの父がアルツハイマーに罹ってしまい、夫は介護の必要な父を残しては行けないと主張してきかない。娘のためには離婚も辞さないと言うシミンは、実家に戻ってしまう。ナデルは家の掃除と父の介護のために、敬虔なイスラム教信者のラジエーという女性を雇う。
※Memo
●原題は「ナデルとシミンの別れ」
●冒頭、裁判所のシーン。ナデルとシミンがカメラに(裁判官・調停員)に向かって、それぞれの言い分を語る。(かなりの状況説明だったのでもう少し長いと思ったが実際、タイトル「別離」と出るまでで5分)
●そして30分経過したところで問題のシーン(ナデルの父親が外に出てしまい車が往来する中を歩いている)←この部分が観客にミスリードを呼び同時に最後まで物語を引っ張っていく核となる。
ゴミを「出して」と娘に言うラジエー。酸素マスクをいじる娘。困るナデルの父親(苦しんでいるようにも見える)。ゴミ袋を引きずりながら階段を降りて破いてしまい汚す。服を汚して怒るラジエー。「お爺ちゃんがいない」のひと言に慌てて階段を降りる。通りの向かい側の新聞売り場にいるのを発見。ひっきりなしに通る車。道路を渡ろうとする。それを見てラジエーが…(クラクション)→そこでパッと場面が変わってサッカーゲームに興じるナデルとテルメー、父親、ラジエーの娘。あー、無事だったんだと思わせながら実は!(ここが脚本としてのポイント)。続くシーンは具合が悪い様子でバスの中で倒れそうになるシーン。(この後に問題の父親が倒れていたり、階段へ押し出すシーンなどが続く←約15分)。この問題のシーンから階段までの一連のシークエンス。いったい何が起こっているのか何が起こるのかわからないままスクリーンに釘付けになった。あるポイントを見せない(隠す)ことで構築されるドラマ。
●ほんとに上手い役者が多くて驚いた、前作「彼女が消えた浜辺」に出演していた俳優が多数。メイキング映像を見ると入念なリハーサル含め緻密な演技への指示を出しているのがわかる。(あ、それと最初のコピー機の撮影やガラスの割れるシーンのアナログ的手法、いい!)
撮影はマームード・カラリ(キアロスタミ監督作品他イラン映画界を代表する撮影監督)。ナデルが父親を涙ぐみながら浴槽で洗うシーンでカメラをのぞき込みながら涙するシーンがあった(それぐらい悲痛さに溢れた場面だった)
●編集(これまたスゴイ)は前作に続きハイェデェ・サフィヤリ(他に「ペルシャ猫を誰も知らない」など)
●娘テルメー役を演じたサリナ・ファルハディは監督の実娘(これまた実に上手い)。このテルメーの視点(視線)がもうひとつのキーポイントになる。ドアの隙間越しに見えるテルメーの姿(逆にテルメーの視線)それらが実に巧妙に映しだされている(2回目を見たときに、その伏線のはり方の妙に驚愕した)
映画『別離』公式サイト
http://www.betsuri.com/
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ナデルにペイマン・モアディ。
シミンにレイラ・ハタミ。
ホジャットにシャハブ・ホセイニ。
ラジエーにサレー・バヤト。
テルメーにサリナ・ファルファディ。
判事にババク・カリミ。
教師ギャーライにメリッラ・ザレイ。
監督、製作、脚本に「彼女が消えた浜辺/2009」のアスガー・ファルハディ。
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原題 JODAEIYE NADER AZ SIMIN/NADER AND SIMIN, A SEPARATION
製作年度 2011年
上映時間 123分
製作国・地域 イラン
脚本:監督 アスガー・ファルハディ
出演 レイラ・ハタミ/ペイマン・モアディ/シャハブ・ホセイニ/サレー・バヤト/サリナ・ファルハディ
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「彼女が消えた浜辺」(2010.9.19アップ)での醍醐味は、イラン社会「独自」あるいは「普遍的に共通」なものを発見させること。
今回は旅行に出かけた人々ではなく、テヘランに住む夫婦を描く。
そしてタイトルの示す通り...... [続きを読む]
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