細田守監督『おおかみこどもの雨と雪』
注・内容、台詞に触れています。
細田守監督・長編最新作『おおかみこどもの雨と雪』
脚本は奥寺佐渡子。キャラクターデザインは貞本義行。花の声を宮崎あおい、“おおかみおとこ”の声を大沢たかお。ほかに菅原文太、染谷将太、谷村美月、麻生久美子
物語・人間の姿で暮らす“おおかみおとこ”に恋をした大学生の花。やがて妊娠し、雪の日に女の子の、雨の日に男の子の《おおかみこども》を産む。姉弟は雪、雨と名づけられる。ところが、ある日突然“おおかみおとこ”が帰らぬ人に。遺された花は子供たちを人間として育てるか、おおかみとして育てるか悩み、山奥の古民家に移り住む。日々成長する快活な雪と内気な雨。小学生になった2人にそれぞれ転機が訪れる。(SkyBlue部分、goo映画より抜粋)
圧倒的強度(経年劣化しない意味も含め)を持つアニメーション。母親の物語、子育て映画というよりは寛容であることとか継承についてなど、いろいろ考えさせられた。
※Memo1
●始まって10分足らずで自分のことを「おおかみおとこ」であることを明かす、そして20分で死してしまう「おおかみおとこ」(ふいに襲ってくるシーンでちょっとショッキング)
そのわずかな時間の中で出会い、デート、暮らし始め、出産、育児、突然の死が慈愛あふれる描写で描かれる。
生まれたばかりの雪の指がおおかみおとこの指を掴む。
そして、この台詞
「やさしい子に育つといいな…」
この冒頭部分があるからこそ"花"の「ちゃんと育てる」決意がブレることなくラストまで続いていくことがわかる。
●暖色と寒色。色彩設計。髪の毛の色分け(幼少期と小学校高学年時で変化していく)。
子供の時は父親のセンシティブな部分を受け継いでいる"雨"。絵本に描かれていたことを気にして母親に「おおかみはどうして人間に嫌われてるの」と聞いていた"雨"はやがて自然の中で戯れるうちに逞しく変化をとげる。逆に快活で明るく絶対、おおかみとしての自分を選ぶと思っていた"雪"は「もう絶対おおかみにならないって決めたの」と人間としての生活を決意する。("花"のスタンスは引っ越したことも含め、あくまでもどちらとして生きるのかはふたりに選んでもらうこと)
●「もっといろいろと聞いておけばよかった…」"花"がポツリと告げる台詞。
●小学校に行きたいという雪に花が教えた"おまじない"
「おみやげ3つたこ3つ」
高学年になってもずっと唱えていたことがわかる件が用意されていて、このあたりの健気さもちょっとグッとくる。
●転校生の草平の何気ない一言。
「お前のところ犬飼ってない」
「どうして」
「なんかケモノ臭い」
それでなくても多感な時期に「なんか臭わない」はキツイと思う。ましてずっと隠してきたことについて(おそらくは)ほのかに気になっている男の子に言われたわけだから。(自分は"おおかみこども"であることと向きあうことにも)
そして避ける雪に「どうして避けるんだよ」とくってかかる草平に、ついに…。
●そしてエポックとなるシーン
豪雨で学校に取り残されたふたり、雪と草平(草平は自ら)。
教室。揺らぐカーテン。雪のシルエット
「おおかみに襲われたって言ってたけど、あれは、わたし…」
「知ってた」
「わかったからもう泣くな」
切なくも美しい場面。
監督のインタビューや奥寺佐渡子さんとの対談でも語られているとおり相米慎二監督「台風クラブ」を想起させる秀逸なシーン。
※Memo2
●ふたつのポイント
・13年間の衣装変化。アニメーションでは珍しい(と、いうかあまり聞いたことがない)スタイリストととして参加した伊賀大介さんによるもの。
・雨と雪と観客に向けて"ひとまえでおおかみにならないでね"劇中絵本を描いたのは森本千絵さん。パッと雰囲気が変わって映画の中のアクセントに。
●折々に登場する図書館(大学、公共、田舎に移ってからは移動図書館と)。本棚や読んでいる本の変化も面白い。(「ライオンと魔女」や「森は生きている」とか確認できた)
映画「おおかみこどもの雨と雪」
http://www.ookamikodomo.jp/index.html
| 固定リンク
トラックバック
この記事へのトラックバック一覧です: 細田守監督『おおかみこどもの雨と雪』:
» 劇場鑑賞「おおかみこどもの雨と雪」 [日々“是”精進! ver.F]
母は、強し…
詳細レビューはφ(.. )
http://plaza.rakuten.co.jp/brook0316/diary/201207210002/
おおかみこどもの雨と雪 (角川文庫)細田 守 角川書店(角川グループパブリッシング) 2012-06-2... [続きを読む]
受信: 2012-07-31 05:58
» 劇場鑑賞「おおかみこどもの雨と雪」 [日々“是”精進!]
「おおかみこどもの雨と雪」を鑑賞してきました「時をかける少女」「サマーウォーズ」の細田守監督が贈るファミリー・ファンタジー・アニメ。“おおかみおとこ”と恋に落ち、2人の... [続きを読む]
受信: 2012-07-31 05:58
» おおかみこどもの雨と雪 [映画通信シネマッシモ☆映画ライター渡まち子の映画評]
おおかみこどもの雨と雪 (角川文庫)クチコミを見るファンタジーと日常が絶妙な割合で同居する「おおかみこどもの雨と雪」。異形の存在を認めた母と子の選択の物語でもある。大学生 ... [続きを読む]
受信: 2012-07-31 06:38
» 『おおかみこどもの雨と雪』 [京の昼寝〜♪]
□作品オフィシャルサイト 「おおかみこどもの雨と雪」 □監督・脚本・原作 細田守 □脚本 奥寺佐渡子□キャスト(声) 宮崎あおい、大沢たかお、黒木 華、西井幸人、大野百花、 加部亜門、林原めぐみ、染谷将太、谷村美月、麻生久美子、菅原文太...... [続きを読む]
受信: 2012-07-31 08:39
» おおかみこどもの雨と雪 [Akira's VOICE]
この映画を観ている間,僕は"親"になった。
[続きを読む]
受信: 2012-07-31 10:51
» おおかみこどもの雨と雪・・・・・評価額1800+円 [ノラネコの呑んで観るシネマ]
命を産み育てるとはどういう事か。
「時をかける少女」「サマーウォーズ」のヒットで、一躍ヒットメーカーとなった細田守監督は、遂に驚嘆すべき作品を作り上げた。
これをファンタジックなだけのファミリ...... [続きを読む]
受信: 2012-07-31 15:18
» 『おおかみこどもの雨と雪』 [ラムの大通り]
----この映画のって、
『時をかける少女』や『サマーウォーズ』で人気の細田守監督作品だよね。
タイトルが分かりにくいんだけど…。
「そうだね。
でも、よくキービジュアルを見てごらん。
ほら、ふたりの子どもの耳…」
----あっ。
「ね。彼らは
人間とオオカミの間に生...... [続きを読む]
受信: 2012-07-31 21:02
» おおかみこどもの雨と雪 [そーれりぽーと]
個人的意見としては、今はジブリよりも確実に楽しませてくれる細田守監督の最新作、『おおかみこどもの雨と雪』を観てきました。
★★★★
おおかみこども二人を育てる人間の母親の目を通して究極のスローライフ体験をさせてくれる素敵な狼男映画。
実写映画を観ているのか...... [続きを読む]
受信: 2012-07-31 21:39
» 「おおかみこどもの雨と雪」 子育ての喜びと寂しさと誇りと [はらやんの映画徒然草]
「時をかける少女」「サマーウォーズ」の細田守監督の最新作です。 細田監督の「時を [続きを読む]
受信: 2012-07-31 22:22
» [映画『おおかみこどもの雨と雪』を観た(短評)] [『甘噛み^^ 天才バカ板!』 byミッドナイト・蘭]
☆凛とし、毅然ともしている一人の女性が、二人の「おおかみこども」を両腕に抱いているポスターが印象的な、期待の作品だった。
テーマとしては、突き詰めると「シングルマザー」の物語なのだと思っていた。
そして、どのような経緯かは知らないが、かようなオリジ...... [続きを読む]
受信: 2012-08-01 06:16
» 「おおかみこどもの雨と雪」 −映画− [読書日和]
※小説「おおかみこどもの雨と雪」のレビューをご覧になる方はこちらをどうぞ。
久しぶりとなる映画のレビュー。
昨日「おおかみこどもの雨と雪」(監督:細田守)を観に行ってきました。
------- ストーリー -------
人間の姿で暮らす“おおかみおとこ”に恋をした大学生...... [続きを読む]
受信: 2012-08-01 18:48
» 映画「おおかみこどもの雨と雪」感想 [タナウツネット雑記ブログ]
映画「おおかみこどもの雨と雪」観に行ってきました。「時をかける少女」「サマーウォーズ」などの作品を手掛けてきた細田守監督の新作アニメーション。なお、今作は映画「メリダと... [続きを読む]
受信: 2012-08-02 02:41
» 映画 『おおかみこどもの雨と雪』 [アニメって本当に面白いですね。]
おおかみこどもの雨と雪
お勧め度:お勧め
[大人向けファミリー映画]
7月21日(土)全国ロードショー
監督 : 細田守
脚本 : 奥寺佐渡子
キャラデザ : 貞本 ... [続きを読む]
受信: 2012-08-03 00:55
» おおかみこどもの雨と雪 [だらだら無気力ブログ!]
期待を裏切らないイイ作品だった。 [続きを読む]
受信: 2012-08-19 23:42
» 映画:おおかみこどもの雨と雪 [よしなしごと]
細田守監督の時をかける少女からもう6年もたつんですね。躍動的な描写が美しくて、ストーリーも楽しかったので、細田守監督が原作も手掛けたおおかみこどもの雨と雪も楽しみにしていました。と言うわけで…。... [続きを読む]
受信: 2012-10-07 08:47
» おおかみこどもの雨と雪 [銀幕大帝α]
私は、この子たちと生きていく。
−感想−
感動するアニメ、泣けるアニメって聞いてたんだけれど、そこまで感動はしなかったし別に泣けもしなかったです。
なんかねぇもうちょっと母親の事を大事にしてやれよ!って思い出したら雨の無責任さに腹が立ってきちゃったんだよ...... [続きを読む]
受信: 2013-02-23 23:44
» おおかみこどもの雨と雪 [いやいやえん]
子の成長を見守る母という存在にはぐっとくるものがあった。出産、子育てといった過程を過ごした人にはもっと心に響くものがあると思うのですが、独身未婚の私では、そこまで深くは感じ取れなかったというのが実際のところ。
性格が異なる雨と雪、二人の子供たちがそれぞれ「おおかみ」「人間」のどちらを選ぶのかというのも見どころではあるのでしょうが、それを温かく見守る母の花の存在がやはり大きい。
子供達の自我が芽生え始めていく頃、内気だった雨におおかみらしさが現れてくる。ラストでは母親の元を離れていく雨の雄... [続きを読む]
受信: 2013-03-21 09:19