変わるもの、変わらないもの『東京家族』山田洋次・監督
監督50周年を迎えた山田洋次監督81本目の作品。名匠・小津安二郎監督の名作『東京物語』をモチーフとした(現在)の家族の物語『東京家族』。出演は橋爪功、吉行和子、西村雅彦、夏川結衣、中嶋朋子、林家正蔵、妻夫木聡、蒼井優。音楽は初の山田組参加となる久石譲。
物語・東京で暮らしている3人の子どもに会うために瀬戸内海の小島から上京してきた周吉ととみこ夫妻。だがそんな両親を自分たちの忙しさや苦手意識のためにおろそかにしてしまう。そして…
※Memo
●変わるもの、変わらないもの、変えたこと、変えなかったこと、言わせたこと、言わせなかったこと。本作は最初、予想していた「東京物語」を現代の設定に置き換えただけの話ではなかった。山田洋次監督はなんと大胆ですごいことをやってのけたのだろう。そう、これはリメイクでなく「東京物語」の骨格を借りた現代の家族の物語(宣伝コピーみたいですが^_^;)。東京タワーや新幹線の無かった昭和20年代後半が舞台の「東京物語」。それらはスカイツリー、新幹線(それも品川駅に停まっている)、はとバスツアーで案内される秋葉原、(「もう帰りたくなったんじゃ、ありませんか」の熱海での有名なシーン)は横浜インターコンチネンタルホテル前へと置き変わっている。それは「東京物語」では戦死した次男昌次と未亡人紀子(原節子)が、いかにも現代的なそして(震災後という意味も含めて)本作のポイントでもあるカップルの昌次(妻夫木聡)と紀子(蒼井優)へと変更されている。
●戦後ということが(静かに)描かれていた「東京物語」。「東京家族」では東日本大震災後という部分が何箇所かに描かれていた。(壁に掛けられたカレンダーが2011年。昌次と紀子が知り合ったのが震災後のボランティアで。周吉が亡くなった友人の妻から聞く「はい、今年の3月11日に…」「母親が陸前高田市で」の台詞)
●言わせた台詞→禁酒をしていた周吉が居酒屋でつぶやく「いつからこの国はこんなことになってしまったのか」(これは必要な台詞だったのか、どうかは微妙なところだが、まったく愚痴のようなことを言わない人がボソッということもあるかもしれない、などとも思う)
●「東京物語」を幾度となく見ているので逆に見たことがない人がどういう感想を持つのか興味深い。(逆に本作を見た後に「東京物語」を見た場合も)。これは今後の映画評、ブログ記事などが楽しみなところ。
●Y字路に建つ、次男・昌次(妻夫木聡)の住むアパートの佇まいがイイ(駐車場には古いフィアットが)。その角をクルリと紀子(蒼井優)の自転車が回ってくる。こういうショットが印象的。Y字路→(アドバイザーに横尾忠則さんの名前があった)。ちなみに昌次の部屋にもポスターが貼られていた(もっと、ちなみに居酒屋の外に「東京家族」の横尾さんデザインの「東京家族」Y字路版ポスターが)
●蒼井優演ずる紀子が登場した時から突如、物語の速度、雰囲気が変わる。昌次が「こんな女性と巡りあう事は二度と無い」と思って何回かのデートの後、すぐにプロポーズ(予約)したと語っていたが、その立ち居振る舞いや存在に周りも魅了されていくのがよくわかる。
●ラスト。背中を丸めて、ひとり爪を切る周吉。有名な「東京物語」のラストシーン(あの窓越しに横切っていくおばさんは出てきませんが)へのオマージュ。しかし、「東京物語」での無常観ではなく、どこか清々しささえ感じ入る鑑賞後感だ。
●周吉が紀子に昌次のことを語った台詞
「あいつは母親似で母親の優しいところを引き継いたんだなということが、よくわかった」
映画『東京家族』公式サイト
http://www.tokyo-kazoku.jp/
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