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2013-03-24

ポール・トーマス・アンダーソン監督『ザ・マスター(The Master)』パートナーを変えてワルツを踊る(Changing Partners)

注・内容、台詞に触れています。
『ゼア・ウィル・ビー・ブラッド』のポール・トーマス・アンダーソン監督、昨年のベネチア国際映画祭で銀獅子(監督)賞、男優賞に輝いた5年ぶりの新作『ザ・マスター(The Master)』。出演はホアキン・フェニックスフィリップ・シーモア・ホフマンエイミー・アダムスローラ・ダーン、他

物語・第2次世界大戦が終結し出征先から帰還したフレディ(ホアキン・フェニックス)はアルコール依存症になり社会生活に適応できずにいた。そんな時「ザ・コーズ」という宗教団体の指導者で、信者から“マスター”と呼ばれているドッド(フィリップ・シーモア・ホフマン)に出会う。

Master1

Memo1
顔のアップと繰り返される問答、観ている者自体がロールシャッハテストを受けているような感覚に襲われていく。主従の関係は最初安定(安心)をもたらすかもしれないが時と共に転写、逆転写され反転、依存、悪化(不安定化)させていくことも多い。監督がテーマとして語っていた「人はマスターという存在なしに生きられるのか?」ー果たして…
冒頭、恐ろしく碧い色の海に白い波の航跡。
(このショットや巨人のようにマスト上にいるフレディなどのパンフォーカスショットのシャープさは美しくも恐い)
水兵として砂浜での様子、アルコール依存症になっていくフレディ。続く病院でのロールシャッハテスト、治療と思しき入院風景、退院後にデパートで写真撮影の仕事をしている…が、キレるフレディ(暗室でよく判らないカクテルを作りはじめている)
農場で働いている時、特製のカクテルで「飲め、飲め」と勧めていた同僚のひとりが倒れる。「こいつが毒を飲ませた」と騒がれ出して畑の中を疾走して逃げ出していくフレディ。
港に停泊中の客船。
パーティが行われている。
("ザ・コーズ"の代表である"マスター"ドッドの娘の結婚披露パーティ)
ここのフレディ、船内パーティ、フレディ、船内とフォーカスが変わりながら近づいていくショットも凄い(しかもマスター"ドッド"の姿がはっきりと判別できる)。
そして、まさにふいに参加(乗船・密航)してくるフレディ。
これは後にドッドが「最初の出会いが気になっている」と語っていたとおり「スパイでは」と疑われたり、妻ペギー(エイミー・アダムス)に「彼は精神異常よ」と言われるまでになったりと後々まで尾を引く。

その後、互いに惹かれ合うドッドはフレディを治そうとプロセシングと名づけられたメソッドなどが試されるが一向にアルコール依存症が改善される兆しは見えない。(途中の逮捕のあと、真剣に取り組んではみるのだが…)
さらに混乱の極みとなるフレディ。
とうとうフレディはドッドの元をオートバイの疾走と共に去っていく。

(地元に居たとされるドリスとの話は夢?妄想?)
ドリスを訪ねていくフレディ。
既にこの地にはいない。
「ジム・デイと結婚したのよ」と母親。
「ドリス・デイと同じ名前に」
続く映画館のシーンは(現実?夢?)
"キャスパー"を見ている(内容がマスターの語る内容と同じ)
電話を持ってくる
「どうして、ここの事が?」
「ロンドンに来ないか」とドッド。

また、マスターを訪ねていくフレディ。
かなり巨大になっているのが判る"ザ・コーズ"
あきらかに、関わってもらっては困るといった様子ペギー
「治す気がないのに関わらないで」

そして
"マスター"ドッドのこの台詞
「初めてマスターを必要としない人間が現れたことになる」
「次の世で会った時は強力な敵かもしれない」

ラスト、マスターと同じこと(メソッド)を出会った女性に話しているフレディ(転写された?或いは…)
「まばたきをするな」
「じっと見て」
「名前は」
「忘れたの?」
「名前は」
冒頭と同じ航跡の映像。

Master2

Memo2
端正なフォント、そしてバランス。End TitleはSCARLET LETTERS
撮影はフランシス・コッポラ監督直近3作品も手がけたミハイ・マライメア・Jr
衣装デザインは「ハードエイド」以来、PTA作品を手がけたマーク・ブリッジス(「アーティスト」でアカデミー賞衣装デザイン賞受賞)
音楽が前作『ゼア・ウィル・ビー・ブラッド』(←音楽も衝撃的だった)のジョニー・グリーンウッド。本作も全編に渡って胸を掻きむしられるような音がバックで鳴り響く。
Changing Partners」Helen Forrest
"相手を変えてワルツを踊る"意を持つ歌詞
Oh, my darlin' I will never change partners again
最近はエンドタイトルなどでかかる歌(実は重要)の訳詞を出さないものも多いが本作はきっちりと訳されていました。(本作、絶対必要と思います)

映画「ザ・マスター」公式サイト
http://themastermovie.jp/


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