「また、木下惠介の映画が観たいです」原恵一 監督『はじまりのみち』加瀬亮、田中裕子、ユースケ・サンタマリア
注・内容、台詞に触れています。
「クレヨンしんちゃん 嵐を呼ぶ モーレツ! オトナ帝国の逆襲」「河童のクゥと夏休み」「カラフル」の原恵一 監督、初の実写作品『はじまりのみち』木下惠介生誕100年記念映画。
物語・戦時中、監督作『陸軍』が戦意高揚映画でないと軍部からマークされてしまった木下恵介(加瀬亮)は、次回作の製作が中止となってしまう。そんな状況にうんざりした彼は松竹に辞表を出し、脳溢血で倒れた母たま(田中裕子)が治療を行っている浜松へと向かう。戦況はますます悪化し山間地へと疎開すると決めた恵介は、体の不自由な母をリヤカーに乗せ兄(ユースケ・サンタマリア)と荷物運びの便利屋(濱田岳)と共に17時間に及ぶ山越えをする(Blueglay部分シネマトゥデイより抜粋)。
※Memo1
●なんと真摯な姿勢なんだろう。かねてから木下監督作品の信奉者と語られていたとおり底辺に流れるリスペクト愛に溢れた美しい映画だ。さりげなく織り交ぜられている木下作品の数々。川原で見かけた対岸にいる先生(宮崎あおい)と生徒(無邪気に軍歌を歌っている)、それを手でフレームをつくって見つめる木下監督 >「二十四の瞳」険しい山道を母を連れて登る > 「楢山節考」便利屋が語るカレーライス(衣装は偶然だったそうです) > 「破れ太鼓」などなど…
そして、この構成の妙(こちらも原監督がインタビューで語っていた木下監督のアヴァンギャルドさもあってだと思う)。どうしても自作ドラマ部分に「陸軍」を挿入することによって起こるであろうと予想されたであろう"比較された批評"も恐れず、これを成し得たことに驚いた(そして感動した)
●しかし、これをテレビで見てしまうと(最近よく目にする)「ドキュメンタリー+ドラマ」で構成されたものと同じ体感になってしまうかも。かつて多くの日本人が体験してきた「木下惠介監督」作品を(デジタル上映とはいえ)劇場のスクリーンと向かい合えることも本作の根幹たるものだと思います。(実際リアルタイムで「新作」として見てきたわけではないので当時の人気たる状態は知らないわけですが…)最後の名場面シーンには震えました。是非、劇場で!
●96分の作品中、名場面シーンと「陸軍」のラストシーンとでかなりの時間が割かれているにもかかわらず本編ドラマ部分の芳醇なこと(いいシーンがいっぱい)。
兄とのさり気ないやりとり(ユースケ・サンタマリアが上手いのは意外)。病人がいると判ると断られ続けた宿探しの中、唯一、泊めてくれた「澤田屋」(エンドクレジットで現在の場面も)での母の顔を拭き、櫛で髪を整えてあげるシーンの神々しさ。
●濱田岳演じるカレーライスの便利屋は全編通じて、本当に上手い。(最後の最後まで映画監督とわからず接しているので可笑しみが増す)
本編、白眉の場面
川原にいる木下監督に近づいて。
「映画館にお勤めだったら、あの映画見ました?」
「陸軍」
「泣いたなぁ」
「俺のおっかさんも、ああいう風に泣いてくれるかなぁ」
それを聞いて、すかさず
「自分の息子に立派に死んでこいなんて言う母親はいない」
どぎまぎして辺りを見回す便利屋。
「よさまいか、誰かに聞かれたらどうする」
「まあ、でもそういうことが言いたかったんだろうな」
「また、ああいう映画が見たいなぁ」
●無事、疎開先の勝坂・鈴木家まで母を運び終えて庭で薪を切っていると母たまが木下監督を手招きして呼ぶ。
そして、木下惠介に宛てた手紙。
「ここにはみんなが居ますから、あなたは安心して撮影所に戻りなさい」と。
最後はこう結ばれている。
「また、木下惠介の映画が観たいです」
●便利屋と母の声に後押しされるように颯爽と映画に向かう。(トンネルの暗闇の向こうは映画館の暗闇の中だ)
そして戦後、名場面シーンが流れる。最初は「こんな映画が撮りたいんだ」と語っていた「わが恋せし乙女」(牧歌的ミュージカルから馬車に乗る二人のシーン)よりスタート!
●名シーン最後は1986年に制作された「新・喜びも悲しみも幾歳月」で締めくくられる。
見送る大原麗子さんの台詞
「戦争にいく船でなくてよかった」
●追加シーン
「たまさんは家の中で天井ばかり見てるんだから、たまには空だってみたいよね」という思いで(唯一、原監督自らの意思で)絵コンテを描かれ追加となったシーン。日傘をずらして、青空が見える。つーっと流れる涙。
※Memo2
●録画していた「徹子の部屋」加瀬亮さんの回を見ていたら木下惠介監督が過去に出演した際(1982年)のVTRが流れて、リヤカーに乗せて母親を疎開させた実際の話を語られていた。
そして「こんな歳になっても、幽霊でもいいから、また会いたい…」と。
●パンフレットに掲載されている長部日出雄さんのコラム"「はじまりのみち」の原風景"を読むと、母・たまが如何に映画監督になるための後押しをいろいろとしてきたかが解り、このインタビューでの監督の言葉と「また、木下惠介の映画が観たいです」という母の想いの根底が伺えた。
●吉田拓郎・浅田美代子共演で話題になった山田太一(木下惠介監督に師事)脚本のTBSドラマ「なつかしき海の歌(1975年)」って(内容的には全く関係ないですが) 木下監督「なつかしき笛や太鼓」のタイトルとダブってるなぁ、と思ったことを、ふと思い出した。さらに全くの偶然だと思うけど(木下惠介生誕100年記念映画「はじまりのみち」の)原恵一監督「クレヨンしんちゃん 嵐を呼ぶ モーレツ! オトナ帝国の逆襲」挿入曲が拓郎さんの「今日までそして明日から」
原恵一監督最新作『はじまりのみち』
www.shochiku.co.jp/kinoshita/hajimarinomichi/
「はじまりのみち」に登場する木下惠介監督作品
「わが恋せし乙女」「新・喜びも悲しみも幾歳月」は未単品化(DVD-BOXに収録)
| 固定リンク
トラックバック
この記事へのトラックバック一覧です: 「また、木下惠介の映画が観たいです」原恵一 監督『はじまりのみち』加瀬亮、田中裕子、ユースケ・サンタマリア:
» はじまりのみち〜母を想う詩 [佐藤秀の徒然幻視録]
公式サイト。原恵一監督、加瀬亮、田中裕子、ユースケ・サンタマリア、濱田岳、斉木しげる、光石研、濱田マリ、大杉漣、宮崎あおい。戦時中にデビューして国策映画を作って松竹に ... [続きを読む]
受信: 2013-06-09 22:23
» 『はじまりのみち』 [ラムの大通り]
----原恵一監督って、
『クレヨンしんちゃん 嵐を呼ぶ モーレツ! オトナ帝国の逆襲』や
『河童のクゥと夏休み』を作った人だよね?
「うん。
ぼくのお気に入りの監督のひとり。
アニメの作家の中では一番。
その彼が、なんと実写で映画を撮るというのだから
これは観な...... [続きを読む]
受信: 2013-06-09 22:29
» はじまりのみち [とらちゃんのゴロゴロ日記-Blog.ver]
遠州弁をしゃべる登場人物に親近感を抱くし、澤田屋旅館やトロッコ鉄道跡は筆者が行った場所だ。映画館に勤める従業員だと間違えられた恵介が便利屋らと経験するエピソードを、戦後の作品にシンクロさせるエンディングが感慨深い。短い上映時間なのに長い記憶に残る映画だ。... [続きを読む]
受信: 2013-06-09 22:55
» 「はじまりのみち」 [お楽しみはココからだ~ 映画をもっと楽しむ方法]
2013年・日本/松竹=衛星劇場配給:松竹 監督:原 恵一脚本:原 恵一プロデューサー:石塚慶生、新垣弘隆音楽:富貴晴美 「二十四の瞳」、「喜びも悲しみも幾年月」等数々の名作を残した映画監督・木下惠介... [続きを読む]
受信: 2013-06-10 00:21
» はじまりのみち・・・・・評価額1750円 [ノラネコの呑んで観るシネマ]
本当に大切なものは、立ち止まった時に見える。
現代アニメーションの第一人者、原恵一監督が初の実写映画に挑み、昭和の邦画黄金期を代表する巨匠、木下惠介監督との時空を超えたコラボレーションを試みた...... [続きを読む]
受信: 2013-06-10 01:07
» 『はじまりのみち』 [京の昼寝〜♪]
□作品オフィシャルサイト 「はじまりのみち」□監督・脚本 原恵一□ナレーション 宮崎あおい□キャスト 加瀬 亮、田中裕子、濱田 岳、ユースケ・サンタマリア、斉木しげる、光石 研■鑑賞日 6月1日(日)■劇場 TOHOシネマズ川崎■cyazの満足度 ★★★★(5★満...... [続きを読む]
受信: 2013-06-10 08:42
» 憲法第9条の意味を考えたい。『はじまりのみち』 [水曜日のシネマ日記]
木下恵介監督の生誕100年記念作です。 [続きを読む]
受信: 2013-06-10 12:35
» はじまりのみち [とりあえず、コメントです]
木下恵介監督の生誕100年を記念して創り上げられたドラマです。 作品は『二十四の瞳』くらいしか観ていないのですけど、どんな監督さんだったのか気になっていました。 終戦前の厳しい時代の中で、真剣に自分の映画と向き合ってきた木下監督の 静かで強い意志を感じるような作品でした。 ... [続きを読む]
受信: 2013-06-11 22:45
» 映画「はじまりのみち」そんな時代もあった [soramove]
映画「はじまりのみち」★★★★加瀬亮、田中裕子、
ユースケ・サンタマリア、濱田岳出演
原恵一監督、
96分、2013年6月1日より全国公開
2013,日本,松竹
(原題/原作:はじまりのみち」製作委員会)
人気ブログランキングへ">>→ ★映画のブログ★どんなブログが人気なのか知りたい←
「木下恵介監督の生誕100周年記念映画、
戦時中、木下が母を疎開させるために
リヤカーで山越えを... [続きを読む]
受信: 2013-06-12 17:23
» 『はじまりのみち』 [・*・ etoile ・*・]
'13.06.06 『はじまりのみち』@東劇
見たいと思って試写会応募したもハズレ・・・ 邦画だとついついそのままDVD待ちの流れになってしまいがち。今回もそうかなと思っていたけど、twitterなどでの評判がものすごく良くて。やっぱり大画面で見たい!と思い行ってきたー♪
ネタバレありです!
「戦時中。昭和19年に監督した『陸軍』が、国策映画の役割を果たしていないと、次回作の製作中止を言い渡されてしまう木下惠介監督。これに反発した監督は辞表を提出。実家に戻ってしまう。実家では脳梗塞で倒れ寝たき... [続きを読む]
受信: 2013-06-16 16:20
» そこから また始まる [笑う社会人の生活]
3日のことですが、映画「はじまりのみち」を鑑賞しました。
戦時中、監督作『陸軍』が軍部からマークされ次回作の製作が中止となり そんな状況にうんざりした木下恵介は松竹に辞表を出す
戦況はますます悪化し山間地へと疎開すると決めた恵介は体の不自由な母をリヤカー...... [続きを読む]
受信: 2013-06-17 12:25
» 『はじまりのみち』 オールタイム・ベストワンは? [映画のブログ]
あなたにとって、オールタイム・ベスト1の映画は何だろうか。
古今東西それぞれの映画にそれぞれの良さがあるので、一つに絞るのはなかなか難しいことだろう。
そこで私は久しく以前にオールタイム・...... [続きを読む]
受信: 2013-06-20 23:25
» [映画]「はじまりのみち」(原恵一監督作品) [タニプロダクション]
東劇 座席位置・・・真ん中中央 評点・・・☆☆☆☆ ダンゼン優秀! 「コケてる」って聞いてたんですが、オレが観た回はソコソコ入ってました。たまたま?それとも新文芸坐でやってたらしい木下恵介特集の効果? 以下、Facebookより転載。 過日、東劇にて原恵一監督に... [続きを読む]
受信: 2013-07-01 07:13
» はじまりのみち [映画的・絵画的・音楽的]
『はじまりのみち』を東銀座の東劇で見ました。
(1)本作は、木下恵介監督生誕100周年記念として制作された作品で、その若き日の姿を一つのエピソードを中心にクローズアップして描いています。
木下監督は、終戦を1年ほど後に控えた32歳(昭和19年)の時に、監督と...... [続きを読む]
受信: 2013-07-06 22:17
» 映画監督・木下恵介~『はじまりのみち』 [真紅のthinkingdays]
第二次大戦下、戦意高揚映画を撮ることを強いられた映画監督・木下恵介(加
瀬亮)は、松竹に辞表を提出する。故郷・浜松に帰った恵介は、病に伏している
母(田中裕子)を疎開させるため、リヤカーで山...... [続きを読む]
受信: 2013-07-27 14:16