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2013-07-26

宮崎駿監督『風立ちぬ』いざ生きめやも。

宮崎駿監督による「崖の上のポニョ」以来の新作。ゼロ戦の設計者・堀越二郎と作家の堀辰雄をモデルに描く風立ちぬ』主人公・堀越二郎の声には『エヴァンゲリオン』シリーズなどの庵野秀明監督。里見菜穂子に瀧本美織、他に西島秀俊、野村萬斎、西村雅彦、風間杜夫、竹下景子、志田未来、國村隼、大竹しのぶ、スティーブン・アルパート。

物語・大正から昭和にかけての日本。戦争や大震災、世界恐慌による不景気により、世間は閉塞感に覆われていた。航空機の設計者である堀越二郎はイタリア人飛行機製作者カプローニを尊敬し、いつか美しい飛行機を作り上げたいという想いを抱いていた。関東大震災のさなか汽車で出会った菜穂子と再会。ふたりは恋に落ちるが、菜穂子が結核を患ってしまう。(YellowTurquoise部分、シネマトゥデイより抜粋)

誰(だれ)が風を 見たでしょう
僕(ぼく)もあなたも 見やしない
けれど木(こ)の葉を 顫(ふる)わせて
風は通りぬけてゆく

誰が風を 見たでしょう
あなたも僕も 見やしない
けれど樹立(こだち)が 頭をさげて
風は通りすぎてゆく

Kaze

注・いくつかのシーン、台詞をメモ書きからおこしているため間違い、ニュアンス違いなどがあると思います。

Memo1
カプローニ氏と夢の中での会話。
(要所要所に登場して二郎を導くかのようなメンター的ポジション。重要な台詞のほとんどが、この会話の中に盛り込まれている)
「センスは時代を切り拓く。技術はその後だ。」
矛盾についてカプローニ氏との会話
(これはラストにも関わってくる)
「君はピラミッドのある世界とない世界、どちらが好きかね?
空を飛びたいという人類の夢は呪われた夢でもある。
飛行機は殺戮と破壊の道具になる宿命を背負っている。
それでも私はピラミッドのある世界を選んだ。君は?」
ラスト
「ここは私達が初めてお会いした草原ですね」
「我々の夢の王国だ」
「地獄かと思いました」
「ちょっと違うが、同じようなものだ。
 君の10年はどうだったかね?力を尽くしたかね?」
「はい。終わりはズタズタでしたが…」

「美しいな。良い仕事だ」
「一機も戻ってきませんでした」
「飛行機は美しくも呪われた夢だ」
菜穂子が現れる。
「あなた。生きて!」

そしてカプローニによる本当の最後の台詞
「君は生きねばならない。
その前にちょっと寄っていかないか
いいワインが入ったんだ」

※Memo2
明るい台詞
「ナイスキャッチ」
「お絹さんとふたりの王子様なんだから」
「エッ二郎くんが窓から?」
慌てて菜穂子の部屋へ向かう父・里見
二郎「今度は明るいうちに玄関から入ってきます」
奈緒子「窓からの方が嬉しいわ」
このシーンの前、菜穂子「喀血」の電報を受けポタポタと涙をこぼしながら最終の汽車に間に合うように準備をし、車中でも計算尺片手に計算し図面を引く、その紙の上にもポタポタと涙が落ちるシーンはグッとくる。
サナトリウム(高原の病院)を抜け出す菜穂子。知らせを受け駅に向う二郎。この駅での再会シーンが、またよいのだなー。(もし、映画撮るなら絶対やってみたい場面。「旅情」も「昼下がりの情事」も「レッズ」など心に残る駅での名シーンの数々。)
「帰らないで」
「ここで一緒に暮らそう」
そして本作中、最もハッとさせられた美しい4人だけでの婚礼の儀のシーン。
渡り廊下を歩いて行く介添人(上司・黒川の妻)と菜穂子。この幽玄的な色彩。そして二郎と黒川の待つ部屋の前で口上。
「申す
七珍万宝投げ捨てて
身ひとつにて山を下りし
みめうるわしき乙女なり
いかーに」
返す黒川の口上
そして
「夫婦の契り
とこしなえ」
灯りを消して部屋の障子が開けられたとき
瞬間、広がっていく
菜穂子の着物の色鮮やかなこと。
菜穂子との会話
仕事をする二郎。片手で菜穂子の手を握っている。
「片手で計算尺を使う大会があったら優勝だな」
「煙草、吸いたいな‥ちょっとだけ離していいかな」
「だめ」
「ここで吸っていいから」
「明日までに仕上げないといけないんだ」
「もっと近くに来て」
そしてテーブルを近づける構図がちょっと珍しい(本当に近づけていく)。
「わたし、仕事をしている二郎さんを見るのが一番好き」

二郎の仕事の完成(あとはテスト飛行を残すのみ)を見届けて菜穂子は黒川宅を出て行く(高原病院へと戻っていく)。
ちょうど訪ねてきた二郎の妹、加代。
そして黒川の妻
「美しいところだけ好きな人に見てもらったのね…」

※Memo3
本庄が堀越二郎に
「なんだ、また鯖か」
「マンネリズムだぞ」
「なあ、 鯖の骨。美しいと思わないか?」
と、翼の構造に似た鯖の骨を見せる。
マンネリズムやアヴァンギャルド、エゴイズムなどが本庄の口癖。

※Memo4
引用
『魔の山』トーマス・マン
(サナトリウムとその近辺のみが舞台)
「時間が止まったように感じてしまう」場所として、また外界のことを感じさせない場所としての引用。
「ここ忘れるにはいいところ」
(カストルプの台詞)
「Das gibt's nur einmal」
(「唯一度だけ」)
作詞 - Robert Gilbert
作曲 - Werner Richard Heymann
1931年のドイツ映画『会議は踊る』より
(カストルプの歌と伴奏に二郎、菜穂子の父も加わって歌っている)
例えば「ライトスタッフ」でドイツ人技師たちが酔って「リリー・マルレーン」を歌っていたり「カサブランカ」ボギーの店でのフランス人が揃って歌い出しナチスを追い払うなどのシーンに近い感覚を感じた。
朗読詩「風」
原詩 - Christina Rossetti
訳詩 - 西條八十
劇中、まずメロディが流れ少し遅れて二郎の朗読がボイスオーバーで被る。
そして堀辰雄原作「風立ちぬ」冒頭に出てくるポール・ヴァレリー「海辺の墓地」の一節(最後の節、冒頭)「Le vent se reve, il faut tenter de vivre.」(風が立つ,生きようと試みなければならない)

※Memo5
原作「Model Graphix」に連載されていた宮崎駿監督の原作漫画との違い。
・ユンカース以外にメッサー・シュミットが出ている(引込脚の解説のところでメッサーおじさんの真似はしたくないとか描かれてました)
・登場人物が豚というのは、その前の「紅の豚」原作漫画から引き続きだが、カストルプがクレソンをかっ食らっている絵が「千と千尋の神隠し」での父親が変身した豚の絵にそっくりなのには笑った。
・避暑地ホテルでの二郎・菜穂子の紙ヒコーキのやりとりのシーンが違う。
・菜穂子が紙ヒコーキをお守りのように持っている。
・ラストの台詞が映画に近いが、原作漫画は軽めに終了している。

※Memo6
2006年ジブリ美術館上映の短編アニメ「やどさがし」で既に行われていた人間の声による音響SEが全編にわたって。プロペラの音、汽車の音、風の音、そして最も効果的であった関東大震災のうねるような地の音。モノラル音声。エンディング「ひこうき雲」の前のブツブツというレコードノイズ、など音響的にも面白い。
庵野秀明監督による堀越二郎の声。初め違和感があるような感じだが見ていくうちに気にはならなくなった、と、いうか逆にこの朴訥さは声優だとよどみなく流れすぎてしまって(20年ほどのスパンを持つ)時間経過の中に溶けこんでしまったかもしれないとも思うのだが。
それと全く棒読みになっている部分と少し感情が入り気味のところと使い分けている(演出)のような気がするのだけれど、この点も後々、わかってくるかもしれません。(シベリアを近所の子供にあげようとするシーンの棒読み度が特にスゴイ)
数多くの批評で出てきている黒澤明監督「夢」ゴッホのエピソードが確かにカプローニと二郎をイメージさせられますね。(その事を先に聞いたからか勝手に大正時代の二郎、背負い投げシーンに黒澤監督デビュー作「姿三四郎」もイメージしてしまいましたが)
朝日新聞7月20日付けの宮崎駿監督インタビューが最も意図(戦闘機を作る矛盾など)について語っていました。

風立ちぬ 公式サイト
http://kazetachinu.jp/

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2013-07-23

福山雅治・主演、西谷弘・監督『真夏の方程式』ガリレオにしてガリレオにあらずの傑作

注・内容に触れています。
東野圭吾
原作のテレビドラマ「ガリレオ」シリーズの劇場版第2弾『真夏の方程式』脚本・福田靖、監督は「容疑者Xの献身」の西谷弘。主演はテレビ版と前作に続いて福山雅治。テレビシリーズから吉高由里子北村一輝。共演は風吹ジュン前田吟白竜塩見三省

物語・手つかずの美しい海が残る玻璃ヶ浦。その海底鉱物資源開発の説明会にアドバイザーとして出席するために招かれた湯川は、旅館「緑岩荘」に滞在することに。そこで湯川は親の都合で夏休みを叔母一家が経営する旅館で過ごすことになったひとりの少年・恭平と出会う。翌朝、堤防下の岩場で男性の変死体が発見された。男は旅館のもう一人の宿泊客・塚原。これは事故か。殺人か…。(greenglay部分、フライヤーより抜粋)

Manatsu

Memo1
ドラマはスピン・オフ含めて全て見てきた上で鑑賞(劇場版前作も)。お約束の(毎回出るあの突如始まる計算シーンやコメディ部分に大きく寄与している栗林助手の出演シーン&研究室など)尽く封印して"こういう形"で映画化できたことによる、ガリレオにしてガリレオにあらずの傑作。そして、まさにこう表現できる「恭平少年と湯川准教授、夏の思い出」編だ。
(とは言え)逆に全くドラマも原作も読まずに全く白紙の状態で鑑賞した場合、どう評価されていくのかが(湯川教授の口癖の台詞で言うと)「実に興味深い」
で、"なつのおもいで"はこんな感じ→ ひとりで電車に乗っての旅、夏休みの自由研究、すいか、バスタオル、花火、ジワッとふきでる汗で目覚める朝、変わった大人との遭遇…。
「理科なんて何の役にもたたないのに」のひと言でガリレオ湯川の"ちょっとムキになったかも"スイッチが押される(テレビドラマでは毎回、吉高由里子扮する岸谷刑事が、なんとか事件に興味を持ってもらおうと四苦八苦する部分だが)。恭平の玻璃ヶ浦の海の中が見たいけど泳げないことへの科学的実験アプローチがペットボトルロケットだ(ここまでのくだりがホントに素晴らしい)
「全てを知って、その上で自分の進むべき道を選ぶべきだ」(説明会での反対派の人たちに対してのスタンスはそのままテーマとして反復される)。
実 際、非常に早い段階で事件の真相が判ってしまった湯川は、いつもとは違った行動パターンをとる。理由は本人は無自覚的にせよ殺人の手助けをしてしまったか もしれない(恭平少年のこと)その将来についてを案じるのだ。その台詞。「そのことによって、ある人物の人生がねじ曲げられる可能性がある」
誰もが秘密を持っている。
恭平少年もまた、大きな罪の呵責をもって、これから生きていくことになる。苦い。だが同時に湯川と過ごした夏の思い出(ペットボトルロケットのが、きっと勇気づけていくことになるのだろうな、と想像できるラストの少年の電車の中での姿に希望の光を見いだせる。案外、何年か経って恭平少年が湯川研究室に入ってきたりしてなどとも想像してしまった。その時、栗林さんが相変わらず助手のままだったなんていうオチまでw

Memo2(ちょっと思い出したので蛇足)
少年の成長で言うとポール・ギャリコ(「ポセイドン・アドベンチャー」「スノーグース」原作者)の傑作にして未文庫化作品の【シャボン玉ピストル大騒動】が出たばかり。9歳半の発明家を夢見る少年ジュリアが特許を取るためにワシントン行きの夜行バスにひとりで乗り込む。70年代ロードムービーの趣もあって楽しい。(創元推理文庫・刊。表紙イラストが片山若子さん)

映画「真夏の方程式」
http://www.galileo-movie.jp/

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2013-07-15

太平洋8,000Kmの航海『コン・ティキ (Kon-Tiki) 』

トール・ヘイエルダールによる1947年のコンティキ号の航海を描いた『コン・ティキ』(Kon-Tiki)。監督はヨアヒム・ローニング(英語版)とエスペン・サンドベリ(ノルウェー語版)。第85回アカデミー賞・外国語映画賞ノミネート。

Kon_tiki

Memo1
「ライフ・オブ・パイ」に続いて今年2本目の漂流もの(正確には目的地があるから漂流ではないですが) 有名なドキュメンタリー映像(アカデミー賞受賞)などで絵的には知ってはいても、このバルサ材製"いかだ"による冒険はワクワクする。資金調達、仲間集め、出発〜南赤道海流に乗るまでが特にドラマティック(そしてサスペンスフル)。イースター島近海の潮流にのみこまれるかもしれない危機、アンデス山脈に阻まれ繋がらない無線、風船を利用しての通信手段の途絶、きしむ材木と材木の音(バラバラになるかもしれない恐怖)などなどが描かれる。
あと、結構な鮫映画(メイキング映像を見るとかなりアナログチックに撮られていた。「JAWAS」のあのリモコン鮫の趣←実際のドキュメンタリー映画より、やや大きい?)。
それにしても実際撮られた映像と見比べると役者の似てること似てること。シーンの再現性の高いこと。ドキュメンタリー映画の"これ、どうやって撮影したのだろう?"という疑問に対しての(メイキング映像的な)正解編でもあります。併走している船があるわけではないのに、ドキュメンタリー映画の中にロングでコンティキ号全体を映した映像があって「あれ?」って思っていた謎も解けました。
映画冒頭。ノルウェーでの少年時代のヘイエルダール。みんなが見てる前で氷の上を飛んで渡ろうとして落ちる。母親から「また目立とうとしたのでしょう」と叱られるシーンが。(もうちょっと、この時期のエピソードを見たかったけれど少し短い?)
"いかだでの冒険"のきっかけとなるインカ文明とポリネシア文明の相似点を見出すポリネシア諸島での妻リヴとの描写部分や前述の少年時代など、もう少し欲しかった気もするけど、そうなると比重的にドラマ寄りとなってしまうため、これはこれでよかったかもと思える鑑賞後の味わいがある。
飄々とした印象を受けるが、何故か人がついてくる不思議なカリスマ性。航海中、仲間が海に落ちたときにすぐに飛び込んで助けにいけなかった事を吐露するシーン。「泳げないんだ」「みんな知ってるよ」(ハッとする)。
全ては1500年前の人と同じ気持ちで冒険することに始まる。
この台詞。
「海は障壁ではない。道だった事を証明するんだ」

※Memo2
参考関連リンク
(2013年7月15日現在確認)
コン・ティキ ミュージアム
(Kon-Tiki Museum)
当時のコンティキ号も展示。
http://www.kon-tiki.no/
メイキング映像
(KON TIKI - Behind the scene)
http://youtu.be/38e-Wyb8RDU

【公式サイト】映画『コン・ティキ』
http://www.kontiki.jp

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