山田洋次監督『小さいおうち』松たか子、黒木華、吉岡秀隆、倍賞千恵子、妻夫木聡、片岡孝太郎、他
2010年・第143回直木賞を受賞した中島京子の同名小説を山田洋次監督が映画化『小さいおうち』(脚本・山田洋次、平松恵美子)。音楽・久石譲
物語・健史(妻夫木聡)の大伯母で、先日亡くなったばかりのタキ(倍賞千恵子)が遺した“自叙伝”(執筆を勧めたのも健史でそれを読んでいくことを楽しみにしていた)。物語は昭和11年、田舎から出てきた若き日のタキ(黒木華)が東京郊外の赤い三角屋根の小さいけれどもモダンな屋敷を家に住む平井家のお手伝いさんとして働くところから始まる。そこには主人である雅樹(片岡孝太郎)と年下の妻・時子(松たか子)そして一人息子の恭一暮らしていた。穏やかな彼らの生活を見つめていたタキだが雅樹の会社のデザイン部門の新入社員、板倉(吉岡秀隆)という青年に時子の心が揺れていることに気付く。
※Memo
●印象的な台詞
戦争の事についてのせりふが時子と板倉の恋愛事件についても表している台詞。
「はじまったものは、いつか終わりがくるもの」
自叙伝を書き終えて慟哭するタキ
「わたし‥長く生きすぎた」
ずっと胸の奥にしまい込んだ"秘密"
そして抱え込んだもの…
●モダンな赤い屋根の家のセット含め見事な美術周り。
昭和初期~の書籍や小道具も登場。
タンクタンクロー、コドモノクニ、「風と共に去りぬ」
そしてカルピス(←真夏に袖をまくりあげて平井邸やってきた板倉に対して時子が水で割るシーンから再現されていました)
●時子と板倉の最初の出会い。
雅樹の務める玩具会社社長らと一緒に訪ねてきたのだが当時の情勢(戦争へ向かうのかどうか)という話しが苦手でという板倉。
時子と話が弾むきっかけは蓄音機(山田洋次監督の私物だそうです)でかけられたクラシック。
「あ、これ」
「オーケストラの少女」※
(声を揃えて)
「ストコフスキー」
ストコフスキーの指揮の仕方を真似て見せる板倉。
「指揮棒をもたずにこうやって指揮するんだよ」
この時からふたりの"恋愛事件"が始まる。
※1937年日本公開
●召集令状が届いた日の夜。
時子を訪ねてくる板倉。
明後日には東京を発つという。
雨が激しく灯火管制で夜道が真っ暗なので「懐中電灯を」と時子。
帰っていく板倉にタキが渡しに追いかけていく。
(ひしっとタキを抱きしめる板倉)
そこでの台詞。
「もし僕が亡くなることがあったら、それは奥さんとタキさんのために戦ったと思って」
「だめ、死んでは」
●(その前のシーンで)
雅樹が玄関で板倉にかける言葉が本作の肝かもしれない。
「板倉は絵や漫画を描いたりしている方がよいのに」
「それが戦争に行って人殺しなんて」
「実に無駄遣いだ」
この台詞で思い出すのは手塚治虫さんの自叙伝的漫画「紙の砦」
戦争が終わったときに誰もが悲嘆にくれている中「これで漫画が描ける」と喜ぶシーンのことを。
●物資がない時代にも人々は生活を楽しんでいたというと語弊があるかもしれないが、小林信彦氏の戦時中の生活にふれたエッセイや「僕たちの好きな戦争」などを読んだ際に感じていたモダン志向が多かった当時の東京人を描写した映画としても秀逸なシーンが多かった。
そして、その市井の人々に迫り来る戦争の影がやがて何をもたらしたのか、自叙伝を書くことを勧めていた健史が平成の現代に感じ取ったものは何なのか、さまざまな示唆に満ちている。
追記(2014年2月16日)
黒木華さんがベルリン映画祭・主演女優賞を受賞!
山田洋次監督最新作『小さいおうち』
http://www.chiisai-ouchi.jp/
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» 『小さいおうち』 2013年12月26日 歌舞伎座 [気ままな映画生活(適当なコメントですが、よければどうぞ!)]
『小さいおうち』 をプレミア試写会で鑑賞しました。
新しくなった歌舞伎座で映画上映は初めてとのことでした。
登壇者は豪華絢爛大勢でした。
松たか子、黒木華、吉岡秀隆、倍賞千恵子、橋爪功、吉行和子、室井滋、
ラサール石井、小林稔侍、夏川結衣、中嶋朋子、子役2名、山田洋次監督と総勢14名という多さ。
妻夫木聡が居ないのは残念だった。(彼が居たらいじられるのに)
【ストーリー】
健史(妻夫木聡)の親類であった、タキ(倍賞千恵子)が残した大学ノート。それは晩年の彼女がつづっていた自叙伝であった。... [続きを読む]
受信: 2014-02-05 23:18
» 『小さいおうち』 [こねたみっくす]
小さいおうち。それはタキちゃんが守りたかった大切な時間。
第143回直木賞を受賞した中島京子先生の原作を山田洋次監督が映画化したこの作品は、「さすが名匠!」と言わんばかり ... [続きを読む]
受信: 2014-02-06 00:18
» 映画『小さいおうち』観てきたよ〜 [よくばりアンテナ]
山田洋次監督最新作。
公式HPはコチラ。
あ、なんと、私、山田洋次監督作品を劇場で観るの初めてだ・・・・(;゚∀゚)
いつも地上波で放送されてから見てるな。
原作の記事はコチラ。
今回は妻夫木聡くんは大伯母のタキさん(倍賞千恵子)の自叙伝の中へ導く役割で、
ダメブキじゃなかったよ〜(..◜ᴗ◝..)
しかし、昨夜のTVでやってた『東京家族』と同じ顔ぶれが次々...... [続きを読む]
受信: 2014-02-06 00:22
» 小さいおうち [あーうぃ だにぇっと]
小さいおうち@歌舞伎座 [続きを読む]
受信: 2014-02-06 01:53
» 小さいおうち [映画的・絵画的・音楽的]
『小さいおうち』を、吉祥寺バウスシアターで見ました。
(1)山田洋次監督の新作ということで映画館に行ってきました(注1)。
本作は、中島京子氏が直木賞(2010年上期)を受賞した同名の小説(文春文庫)に基づくもの。
戦前の山の手(注2)の丘の上に建てられた...... [続きを読む]
受信: 2014-02-06 06:04
» 映画「小さいおうち」を観ました!!(2014-01) [馬球1964]
映画「小さいおうち」を観ました!! [続きを読む]
受信: 2014-02-06 06:50
» 小さいおうち (2013) 136分 [極私的映画論+α]
現在の感覚では決して小さくはないんだけど(笑) [続きを読む]
受信: 2014-02-06 07:02
» 「小さいおうち」 (2014 松竹) [事務職員へのこの1冊]
原作はミステリ的色彩が濃いものだった。それは…… ・主人公である山形出身の女中、 [続きを読む]
受信: 2014-02-06 07:35
» 『小さいおうち』 [京の昼寝〜♪]
□作品オフィシャルサイト 「小さいおうち」□監督 山田洋次□脚本 山田洋次、平松恵美子□原作 中島京子□キャスト 松 たか子、黒木 華、片岡孝太郎、吉岡秀隆、妻夫木 聡、倍賞千恵子■鑑賞日 1月25日(土)■劇場 TOHOシネマズ川崎■cyazの満足度 ★★★☆(5★...... [続きを読む]
受信: 2014-02-06 08:10
» 小さいおうち [Akira's VOICE]
この世は小さいおうちの集合体なんだな。
[続きを読む]
受信: 2014-02-06 10:13
» 小さいおうち〜長く生き過ぎた変われない私 [佐藤秀の徒然幻視録]
公式サイト。中島京子原作、山田洋次監督。松たか子、黒木華、片岡孝太郎、吉岡秀隆、妻夫木聡、倍賞千恵子、橋爪功、吉行和子、室井滋、中嶋朋子、林家正蔵、ラサール石井、あき ... [続きを読む]
受信: 2014-02-06 10:20
» 小さいおうち [to Heart]
製作年度 2013年
上映時間 136分
原作 中島京子 『小さいおうち』(文藝春秋刊)
脚本 山田洋次/平松恵美子
監督 山田洋次
音楽 久石譲
出演 松たか子/黒木華/片岡孝太郎/吉岡秀隆/妻夫木聡/倍賞千恵子/橋爪功/吉行和子
健史(妻夫木聡)の親類であった、タキ(倍賞千恵...... [続きを読む]
受信: 2014-02-06 11:30
» 小さいおうち 完成披露試写会 [風に吹かれて]
タキの選択公式サイト http://www.chiisai-ouchi.jp2014年1月25日公開原作: 小さいおうち (中島京子/文春文庫)監督: 山田洋次 健史(妻夫木聡)の大伯母タキ(倍賞千恵 [続きを読む]
受信: 2014-02-06 14:21
» 静かに反戦を謳う~『小さいおうち』 [真紅のthinkingdays]
昭和初期、山形から東京へ女中奉公に出されたタキ(黒木華)は、赤い屋根瓦
がかわいい山の手の 「小さいおうち」 に雇われる。そこには、まだ若く美しい
時子奥様(松たか子)がいた。
山田洋次監督の映画を初めて観た。感動しました。
原作は、直木賞を受賞した中島京子の同名小説。読後数日間は、作品世界か
ら現実へ戻るのが難しかったほど、ここ数年読んだ小説の中でもずば抜けて印...... [続きを読む]
受信: 2014-02-06 21:04
» ショートレビュー「小さいおうち・・・・・評価額1650円」 [ノラネコの呑んで観るシネマ]
彼女が、本当に隠していた事。
ある老女の心の内に70年間秘められていた秘密を巡る、ミステリアスな心理ドラマだ。
山田洋次にとっては、挑戦的な新境地と言っても良いと思う。
舞台は昭和10年代、東京山の手の住宅地に建つ赤い屋根の小さな洋館。
山形の寒村から上京した少女・タキは、この家で女中として働きはじめる。
玩具メーカーの重役を務める旦那様と都会的で垢抜けた時子奥様は優しく、幼い...... [続きを読む]
受信: 2014-02-06 22:15
» 小さいおうち [花ごよみ]
中島京子の直木賞受賞作の
小説を映画化。
監督は山田洋次。
小さなおうちの主婦、
時子には松たか子。
小さなおうちの女中で、
昭和のタキには黒木華。
後の平成のタキには倍賞智恵子、
家の主人、雅樹に片岡孝太郎、
雅樹の部下の板倉正治には吉岡秀隆、
タキの親...... [続きを読む]
受信: 2014-02-07 00:22
» 小さいおうち ★★★★ [パピとママ映画のblog]
第143回直木賞を受賞した中島京子の小説を、名匠・山田洋次が実写化したラブストーリー。とある屋敷でお手伝いさんだった親類が残した大学ノートを手にした青年が、そこにつづられていた恋愛模様とその裏に秘められた意外な真実を知る姿をハートウオーミングかつノスタル...... [続きを読む]
受信: 2014-02-07 12:04
» 小さいおうち : タキちゃんに見事に裏切られました [こんな映画観たよ!-あらすじと感想-]
今日の広島は、晴れたり曇ったり雨降ったと大変にぎやかな天気となっております。こんな日には、こんな落ち着いた映画を観るのがよいかもですよ。
【題名】
小さいおうち
[続きを読む]
受信: 2014-02-07 19:59
» 小さいおうち [そーれりぽーと]
松たか子が面白そうだったので『小さいおうち』を観てきました。
★★★★
切な過ぎるわー。
こんなに切なくなる話は、主人公のお婆ちゃんと同じ年代の方はご覧になられない方が良いかも、むちゃくちゃ重い気持ちになりそうで。
うちの婆ちゃんが観に行くとかって言ってたの...... [続きを読む]
受信: 2014-02-07 20:15
» 『小さいおうち』 [ラムの大通り]
----『小さいおうち』−−。
“山田洋次監督が挑む、新しい世界”って、どういうこと?、
山田洋次監督の前作って『東京家族』。
その前も
『母べえ』だの『おとうと』だのって
“家族”の話ばかりのような気がするけど…。
「う〜ん。
ぼくも観る前まではそう思っていたんだけ...... [続きを読む]
受信: 2014-02-08 12:05
» 「小さいおうち」 [お楽しみはココからだ~ 映画をもっと楽しむ方法]
2014年・日本/松竹=住友商事=テレビ朝日他配給:松竹 監督:山田洋次原作:中島京子脚本:山田洋次、平松恵美子撮影:近森眞史音楽:久石譲名匠・山田洋次の82作目となる監督作で、第143回直木賞を受賞... [続きを読む]
受信: 2014-02-12 23:22
» 小さいおうち [こんな映画見ました〜]
『小さいおうち』2013年(日本)監督: 山田洋次出演:松たか子、黒木華 、片岡孝太郎、吉岡秀隆 、妻夫木聡、倍賞千恵子、橋爪功 、吉行和子
中島京子の第143回直木賞受賞作を「男はつらいよ」シリーズ、「東京家族」の名匠・山田洋次監督が映画化した感動ド...... [続きを読む]
受信: 2014-02-13 23:08
» 『小さいおうち』 原作を離れて「失敗作」を撮る理由 [映画のブログ]
【ネタバレ注意】
山田洋次監督の『小さいおうち』を鑑賞して、こんなことがあるのかと驚いた。
本作は中島京子氏の小説に基づいて山田洋次監督と平松恵美子氏が脚本を書き、山田洋次監督みずからメガホンを取った作品だ。決して山田洋次監督のオリジナル企画ではない。
にもかかわらず、山田洋次監督と原作のシンクロぶりはどうだろう。私はこれが山田洋次監督のオリジナル作品と云われたら信じたに違...... [続きを読む]
受信: 2014-02-17 04:36
» 「小さいおうち」おうちの秘密を知った先にみた暗黙の了解の守秘義務を守り通した女中の中の女中 [オールマイティにコメンテート]
「小さいおうち」は中島京子原作の作品を山田洋次監督で映画化した作品で、田舎から都会に出てきた女性が女中としてある小さなおうちに奉公し、そこで起きた出来事を亡くなる直前 ... [続きを読む]
受信: 2014-02-22 21:06
» 「小さいおうち」 小さい罪 [はらやんの映画徒然草]
こちらの作品は観る予定ではなかったのですが、出演している黒木華さんがベルリン映画 [続きを読む]
受信: 2014-02-23 21:09
» 小さいおうち [タケヤと愉快な仲間達]
監督:山田洋次 出演:松たか子、黒木華、片岡孝太郎、吉岡秀隆、妻夫木聡、倍賞千恵子、橋爪功、吉行和子、室井滋、中嶋朋子、林家正蔵、ラサール石井、あき竹城
【解説】
第143回直木賞を受賞した中島京子の小説を、名匠・山田洋次が実写化したラブストーリー。とある...... [続きを読む]
受信: 2014-10-11 05:45