『恐怖分子(Terrorizers)』エドワード・ヤン監督、ワン・アン、リー・リーチュン、コラ・ミャオ、チン・スーチェ、他
注・内容、ラストに触れています。
『恐怖分子』
Terrorizers
監督 : エドワード・ヤン
出演 : ワン・アン、リー・リーチュン
コラ・ミャオ、チン・スーチェ
クー・パオミン、他
物語・朝の台北。ある場所で警察の手入れがあり、そこからハーフの少女シューアン(ワン・アン)が逃げ出す。シャオチェンは、そんな彼女の姿をたまたま見掛けてシャッターを切る。一方、ある病院で働く医師リーチョンは上司の急死を出世のチャンスと考えて浮足立つ。だが、その妻である小説家イーフェンは執筆できない状態が続いていることに悩んでいた。そんな全く接点のない彼らが、シューアンのいたずら電話によってつながっていき…(物語項、シネマトゥデイより抜粋)
※Memo1
●エドワード・ヤン監督の『牯嶺街(クーリンツェ)少年殺人事件』を今は無きミニシアター大阪梅田のシネマヴェリテで見たときの衝撃は今でも鮮明に憶えている。
(映画館と共にある記憶としても)
その公開から後に見た『恐怖分子』を、まさかこんなに鮮明な画面と音で再見できるとは、なんとも嬉しい限り。
そして、多くの発見があった。
2回見た。
●いわゆる関わりのなかったもの(階層的にみても混じり合わない)が思わぬ形で関わることとなり、悲劇へじわりじわりと侵食していく怖さ。
それは2本の電話(シューアンの"イタズラ電話"とシャオチェンと彼女による"告げ口のような電話")によってもたらされる。
●夜が明け始める台北の街をパトカーが走り抜ける。
そして黒味に白抜き「恐怖分子」のタイトル
続けてシャオチェンと一緒に暮らす彼女とふたりの部屋。
乾いた銃声音(※)が響く。←ベランダで洗濯をする女性が銃声に全く無反応なのが恐い。
(※前がどのような響き方だったかを覚えていないが、今回のデジタルリマスター版における、この銃声音は突如、出現するがごとくで凄い)
身を屈め近づく男
イーフェンが不満げな顔でベッドに横たわっている。
出勤する夫、リーチョン
場面戻って、倒れている男(撃たれたようだ)
窓から拳銃を持った手が。
現場に到着するクー警部(←今見ると、えなりかずきに似ている)
カメラ持って撮影しているシャオチェンを「そこをどけ」と、手で指図する。
ベランダから飛び降り逃げるシューアン(ワン・アン)。
その際、足を挫く。シャッターをきるシャオチェン。
出勤途中のリーチョンの運転する車がパトカーや横断歩道に立っているシューアンとすれ違う(※)
と、何度か見ているから説明できるが、この冒頭、初見では何が起こっているのかがわからない。
※この時点でふたりに面識は無い、そして最後まで会うことはない←夢の中での"もうひとつの時間の物語"では会う。ホテルの部屋のドアが蹴破られて最後の銃声が響きわたり、そのタイミングで一緒に前の晩に飲んでいたクー警部が目覚める、その音によって
●電話のベルの音が今と違って静寂を切り裂くように聞こえる。(思い出したけれど何か用事をしているときに突然鳴るとドキッとしたことがあったなぁ)
その上でシューアンのただ、電話帳に載っている「李立中」を上から順にかけていくだけのイタズラ電話。それによって一気に全く繋がっていなかった人や事柄がつながり始め、不穏さや悪い予兆が(何かを誰かが説明することもなく)広がっていく
●黒電話のベル音もドキッとするがガスタンクの近くを歩くだけで緊張する(何故だか身構えてしまい早く、その場から遠ざからなければと思ってしまうのは小さい頃から←爆発したらどうしよう的な)
あと、突然犬に吠えられてもドキッとする。
もう、いろいろと恐い。
●シューアンが軟禁監視状態にある部屋から抜け出すときに映る(居眠りしている)母親の鍵の束!(束などというものではない、その数が恐い)
●その母親が煙草を吸いながらレコードをかける。寝ているシューアンをなでる。そのまま続くシャオチェンと彼女との喧嘩のシーンへ(壁に貼られたシューアンの写真、ばらまかれるフィルム、ネガ)
そのバックに橋渡しのように流れる「煙が目にしみる」
●有名なシューアンが冒頭の賭場が行われていたビルの部屋(彼女と喧嘩をして部屋を出たシャオチェンが暗室兼住居として借りている)に入り、灯りをつけた途端、浮かび上がる壁一面に引き伸ばされた(モザイク状に小さなプリント)自分の写真を見る場面。
予期せぬシーン(観客においてもハッとさせられる)
倒れるシューアン。
●それにしても、あのラスト
所見の時に思った"不意に訪れる終幕"の嘔吐による衝撃的な幕切れ。
「うぇっ」とベッド脇に顔を下げ、暗転。
エンドクレジットへ。
何度見ても驚くタイミング。
※Memo2
●散りばめられた補色と白
・赤(暗室、電球に巻かれたセロファン、テールランプ、パトライト)と対を為す緑(シャオチェンの服、カーテンの色、警察署の窓や扉の枠)
・オレンジ(シューアンがいたずら電話をかける電話機の色、イーフェンとリーチョン夫婦の浴室、洗面台、病院の会議室←黄色に近い)と対を為す青(シューアンの家の部屋を覆う窓からの光)
・そして2人の女性
シューアンとイーフェンの着る白
・映っているものの清廉さ
本当に無駄なものが映りこまないように全てのシーンに目配せがきいている。(或いは偶然もたらされたものも中にはあるかもしれないが、もはや、そこに映しだされたものは映画作家としてのエドワード・ヤンが、持って生まれてきた誰にも真似のできない素養、資質、センスがあったとしか言いようのないことではないだろうか、ということを今回の再公開で思った)
映画「恐怖分子」オフィシャルサイト
http://kyofubunshi.com/
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