"Hello Stranger"『ムーンライト(MOONLIGHT)』バリー・ジェンキンズ監督
注・内容、台詞に触れています。
『ムーンライト』
MOONLIGHT
監督・脚本 : バリー・ジェンキンズ
出演 : トレヴァンテ・ローズ
アッシュトン・サンダース
アレックス・R・ヒバート
マハーシャラ・アリ
ナオミ・ハリス
アンドレ・ホランド
他
物語・マイアミの貧困地域で、麻薬を常習している母親ポーラ(ナオミ・ハリス)と暮らす少年シャロン(アレックス・R・ヒバート)。学校ではチビと呼ばれていじめられ、母親からは育児放棄されている彼は、何かと面倒を見てくれる麻薬ディーラーのホアン(マハーシャラ・アリ)とその妻、唯一の友人のケビンだけが心の支えだった。そんな中、シャロンは同性のケビンを好きになる。そのことを誰にも言わなかったが…。(物語項、シネマトゥデイより抜粋)
※Memo1
●ドキュメンタリーにならないよう、あえてスコープサイズで撮影し、すごく繊細に室内ライティング(蛍光灯の元での映像は特にドキュメンタリー色が出てしまうと思うのでカラーグレードでの調整込みで)に気を使ったガラス細工のような作品。
LGBTQ、いじめ、ドラッグ、人種などが表立って語られるわけではなく(それはレイヤーとして織りこんで)ひとりの少年の内面を通して描いていく美しさを秘めたドラマである。
●幼少期( i.Little )、少年期( ii.Chiron )、青年期( iii.Black )のそれぞれ演じるのは3人の別々の俳優。
(監督が決め手としたのは"同じ雰囲気を感じさせる目")
1章、2章はかなり近い見た目だが、3章は場面が変わるなり「誰!?」と思わせるようなマッチョで金歯で、いかつい車に乗った姿で現れるシャロン(この見た目は変わっていても本質は変わらないことを体現するかのような構成とキャステイングは本当に上手い。そして、その本質の変わらなさがはっきりわかる、酷い仕打ちをしてきて「許して」という母親と交わす言葉とまなざし、態度にあらわれる)
●アカデミー賞助演男優賞を受賞したマハーシャラ・アリ演じる麻薬ディーラー、ホアン。
シャロンにとって、父親代わりであり、メンターであり、手を差しのべる人でもある。冒頭、チラッと見た少年たちの走っていく姿。多くは語っていないが自身もそうだったのだろう、すぐにいじめられていると察知したのかシャロンが逃げ込んだ廃屋をみつけて、中へ入っていく。
そこで無理に喋らせないスタンスもよいし、まずは「何か、食うか?」の声のかけ方もひととなりが出ている。
(2017年3月30日放送『カンブリア宮殿』で「こども食堂」の経営者が言っていたが「子どもは自分の家のことをすぐには喋らないし、親のことを悪く言わない」ということがわかったうえでの対処って絶対あると思う。ホアンの台詞でそのことを思いだした。今年公開された荻上直子監督『彼らが本気で編むときは、』での主人公リンコが恋人の姪である母子家庭の子どもトモへも同じようなスタンスで接する姿が描かれていた)
●海でシャロンに泳ぎを教えるシーン。
ホアンの台詞
「月明かりで、お前はブルーに輝く」
元となった戯曲のタイトル "In Moonlight Black Boys Look Blue"
●ケビンとシャロンとの夜の海岸。
海は真っ暗で何も見えない。
(砂浜と波打ち際の境界線も見えず、画面でいうと上部だけが暗闇)
そこには波の音だけが聞こえる。
何回か繰り返される場面。
●ラストシークエンス。
ケビンの営むダイナーのシーン
「シェフのおすすめ」にひとこと。
「いつからキューバ人になったんだ」
そして、「これを聴いて思い出したんだ」とジュークボックスでケビンがかけるバーバラ・ルイス(Barbara Lewis)のHello Stranger(1963)の歌詞が全てを語っている。
どんなに時が経とうとも、それがちょっと苦くつらい傷みをともなっていようとも、ふたりにとっては忘れえぬ思いでなのだ。
あの夜の海岸のできごとは。
※Memo2
●美しいカラーグレード!
1章はブルー、2章は黄色み、3章はウォームトーン、そして被写界深度をあげてのクリアライトな風合い。
カラリストはアレックス・ビッケル
Color Collective
http://colorcollective.com/
●‘Moonlight’ Glow:
Creating the Bold Color and Contrast of Barry Jenkins’ Emotional Landscape
http://www.indiewire.com/2016/10/moonlight-cinematography-color-barry-jenkins-james-laxton-alex-bickel-1201740402/
●『ムーンライト』とウォン・カーウァイ作品を比較検証した動画
"Moonlight and Wong Kar-wai"
(TV Bros.16~17P、ファントムフィルム代表へのインタビューをまじえての記事より)
https://www.youtube.com/watch?v=66cIeb_nNO4
●タイトルデザイン
使用フォント > Trade Gothic
Main-on-end titles、チャプタータイトルカード 画像
http://annyas.com/screenshots/updates/moonlight-2016-barry-jenkins/
映画『ムーンライト』公式サイト
http://moonlight-movie.jp/
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『ムーンライト』 を試写会で鑑賞しました。
アカデミー賞前に最速試写会でした。
4月28日公開が決定したようです。
【ストーリー】
マイアミの貧困地域で、麻薬を常習している母親ポーラ(ナオミ・ハリス)と暮らす少年シャロン(アレックス・R・ヒバート)。学校ではチビと呼ばれていじめられ、母親からは育児放棄されている彼は、何かと面倒を見てくれる麻薬ディーラーのホアン(マハーシャラ・アリ)とその妻、唯一の友人のケビンだけが心の支えだった。そんな中、シャロンは同性のケビンを好きになる。そのことを誰にも言... [続きを読む]
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「エクス・マキナ」や「AMY/エイミー」などの配給でヒットを飛ばした映画会社A24と、
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タレル・アルヴィン・マクレイニーによる ...... [続きを読む]
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STOR...... [続きを読む]
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» 【cinema】『ムーンライト』(試写会) [・*・ etoile ・*・]
2017.3.21 『ムーンライト』試写会@ユーロスペース
cocoさんで当選! いつもありがとうございます。アカデミー賞作品賞受賞ってことで、是非見たいと思ってた。予告編の感じもよかったし楽しみに行ってきた~
ネタバレありです! 結末にも触れています!
「学校でいじめにあっているリトルことシャロンは、ある日逃げ込んだ廃屋で麻薬ディーラーのフアンと出会い、彼を父親のように感じる。少年になったシャロンは、母親の麻薬中毒、貧困、いじめなど様々な問題を抱えていた。心の支えは唯一の友達... [続きを読む]
受信: 2017-04-03 01:03
» ムーンライト / Moonlight [勝手に映画評]
第89回アカデミー賞で、前代未聞の大逆転による(実際には、逆転なんかしていないけどね)作品賞受賞の他、脚色賞、助演男優賞の3部門を受賞した作品。
ゲイが主人公の作品と言えば、“アカデミー賞本命!”と言われながらも、受賞を逃した『ブロークバック・マウンテン』...... [続きを読む]
受信: 2017-04-03 21:40
» ムーンライト・・・・・評価額1750円 [ノラネコの呑んで観るシネマ]
熱情のムーンライトブルー。
マイアミに住む気弱な1人の少年が、たった一つの愛を胸に、自分が何者かを探しながら大人になるまでを描く物語。
原案はタレル・アルバン・マクレイニーの半自伝的戯曲「In Moonlight Black Boys Look Blue(月光の下で、黒人の少年がブルーに輝く)」で、これが長編二作目となるバリー・ジェンキンスによって脚色・監督された。
タイトル通り淡...... [続きを読む]
受信: 2017-04-03 23:48
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ムーンライトに照らされると、黒人の少年も青色に見える。
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本作(注1)の舞台はマイアミのようです(注2)。
車が道路脇に停まって、男(フアン:マハーシャラ・アリ)が出てきて、タバコを吸います。...... [続きを読む]
受信: 2017-05-02 21:28