"地球の果てまでつれてって"『美しい星』三島由紀夫原作、吉田大八監督、リリー・フランキー、亀梨和也、橋本愛、中嶋朋子、佐々木蔵之介、他
注・内容、台詞、ラストに触れています。
『美しい星』
原作 : 三島由紀夫
監督 : 吉田大八
出演 : リリー・フランキー
亀梨和也、橋本愛
中嶋朋子、佐々木蔵之介、他
物語・予報が当たらないと話題の気象予報士・重一郎(リリー・フランキー)は、さほど不満も
なく日々適当に過ごしていた。ある日、空飛ぶ円盤と遭遇した彼は、自分は火星人で人類を救う使命があると突然覚醒する。一方、息子の一雄(亀梨和也)は水
星人、娘の暁子(橋本愛)は金星人として目覚め、それぞれの方法で世界を救おうと使命感に燃えるが、妻の伊余子(中嶋朋子)だけは覚醒せず地球人のままで…(物語項、シネマトゥデイより抜粋)
※Memo1
●ブログメモ・タイトルには三島由紀夫の書斎に亡くなるまで掲げられていた絵の作者であり「写真集・薔薇刑」デザインも行ない親交の深かった、横尾忠則による著書名『地球の果てまでつれてって』を。
(敬称略、以下本文も)
●スコープサイズに浮かぶ亀梨和也×佐々木蔵之助演ずる政治家秘書・黒木(宇宙人?)との夕刻オレンジ色の議員会館シークエンス。
そしてリリー・フランキー×佐々木蔵之介(最初は亀梨和也と)によるディスカッションシークエンス。
どこか既視感あるかと思っていたら『ウルトラセブン』だった!
(ネタバレ防止策として鑑賞後まで関連記事読んでいなかったため、監督自身が「ウルトラセブン」や「岸辺のアルバム」「ときめきに死す」などに触れていて、なるほどと頷くことしきり)
そして、見た目へんてこりんな映画にして、その実、バックボーンに描かれていることが凄まじい。
●このブログメモを書いている途中にアメリカのパリ協定離脱のニュースが流れてきて、このタイミングでこれ!?と絶句してしまった。
ホントに気象予報士が火星人のポーズ取るぞ!(シャレじゃなくって)
●開巻、すぐ。
家族がそろっての長男、一雄(亀梨和也)の誕生日を祝う食事会。
「ミラノ、また行きたいな」
「そんな余裕無いでしょ」
イライラしながら長男を待つ重一郎(リリー・フランキー)。
ここでのバラバラな空気が覚醒後、それぞれの経路を経て、ラストへと繋がっていく。
●前述『ウルトラセブン』的ディスカッションシーン。
「そうなることがわかっていながら」
「どうして引き返さなかった」
「心のなかではきづいていながら、未来を見殺しにしたんだよ」
「痛みは俺たちが背負うんだ」
「家族として話そう」
(ここまで重一郎×一雄)
「地球に救う価値はありますか?」
「あるに決まってるじゃないですか」
「こんなに美しい星なのに」
「考えてみてください。自然が美しいのではなく、自然を美しいと感じるんです、人間が」
「しかしその自然に、人間は人間を含めない。究極の美しい自然には、人間は存在しない」
「この矛盾を解決する方法はひとつです」
「われわれは手助けをしたい」
「ほんとうの意味で美しい星のために」
……
(ここのディスカッションシークエンスは音楽の入るタイミング、アングル含めて本作の肝たる部分のひとつ)
●原作と違って唯一、地球人として描かれる母、伊余子(中嶋朋子)
「お父さんが火星人だって言うのなら、つきあいたいの私も。地球人として」
"美しい水"勧誘ビジネスに手を出していたのも本当は家族でもういちど旅行とか行けたらいいな、と思ってのことということも吐露される。
原作にも出てくる台詞がラストに。
暁子(橋本愛)が光の射す方を指さして。
「お父さん、来たわよ」
●円盤の中(らしい)
「ここってもしかして円盤」
「いつの間に乗ったの」
(いかにもワレワレハウチュウジンダ的な声の応答)
「さあ、帰ろう。故郷でみんなが待っている」
慌てる重一郎が画面奥の窓に向かって行く。
「ドウシタノデスカ」
「ドウシタノデスカ」
「ワスレモノデスカ」
「ワスレモノデスカ」
窓から地球(Home)を見下ろすと手を振る大杉家(Home)の姿が。
●『美しい星』というタイトルと呼応するシーンが末期ガンの父、重一郎を連れて家族で円盤の地(地名は出ないが立ち入り禁止区域看板や突然の牛の登場などから福島だと推測できるように描かれている)へと向かう車中から見える東京の街の姿。
このシーンは音楽と合わさって、映画ならではと言える不思議とジーンとさせられる場面でもある。
●三島由紀夫文学館で企画展「三島文学とその映画『美しい星』と三島由紀夫映画化作品」が開催中。
直筆原稿、創作ノート(表紙に「わが星雲」「銀河一族」「銀河系の故郷」など未決定だったタイトルがいくつか)など展示。
http://www.mishimayukio.jp/index.html
●原作『美しい星』が発表された年が1962年。
(なんといってもロシアはソ連だしフルシチョフが出てくる冷戦時代の頃のお話。キューバ危機は1962年)
キューブリック監督『博士の異常な愛情』が1964年(シドニー・ルメット監督『未知への飛行』も)
そして、個人的思い入れで言うと太陽系惑星連合と聞いて想起したのは手塚治虫『W3』での銀河連邦(1965年)。
それらの作品が続々と生み出されていく前に『美しい星』が執筆されていたことを考えると、三島由紀夫のその先鋭性、時代性に驚かされるばかりである。
さらに、その原作を現代に置き換えて軽々しく飛び越えていった脚色による本作『美しい星』は後年、(いろいろな意味で)ひとつのエポックメーキングとして語り継がれていくことになるのでは?と思っている。
※Memo2
●パンフレットデザインは岡野登(サイファ。)
(写真は2点共パンフレット表紙)
本文40P。
監督・出演者インタビュー、コラム2点
筒井康隆スペシャルコラム。
そして火星人と金星人の振付け付き。
映画『美しい星』公式サイト
http://gaga.ne.jp/hoshi/
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