『草の響き』斎藤久志監督、佐藤泰志原作、東出昌大、奈緒、大東駿介、他
『草の響き』
監督 : 斎藤久志
原作 : 佐藤泰志
(『きみの鳥はうたえる』所収)
出演 : 東出昌大
奈緒
大東駿介
Kaya
林裕太
三根有葵
利重剛
クノ真季子
室井滋
※Memo1
●東京が舞台だった佐藤泰志原作を函館ロケに。
それが功を奏している。
作者の実体験が投影された本作において見晴らしの良い公園の土手やベイエリアを走る主人公・工藤和雄(東出昌大)の姿は鮮やかだ。ただ、それも走っていなければならない理由があるのだが。
●脚色された点で一番、大きいのは和雄の妻・純子(奈緒)の存在。その事によって親友、佐久間研二(大東俊介)以外の第三者視点が増えた。それと下の世代である彰(Kaya)ら3人との対比も。原作は1979年発表。そういえば(随分以前ですが)読んだ原作、フリスビーとか出てた(そもそも彰は暴走族だったし)。
●斎藤久志監督と脚本の加瀬仁美さんが夫婦だったことは、後で知りました(しかも発注時に妊娠されていたことも)。
それだけに本作の物語の運びや、気配、トーンに驚く。
●物語の軸は和雄、純子、研二(病院に連れて行くことになる終盤のシーンは凄い)と彰、弘斗(林裕太)、その弘斗の妹・恵美(三根有葵)。運動療法としてランニングをする和雄にいつの間にか彰が並走して付いてくる。(そしてへばりながら弘斗も)。この走るシーンの繋がりが実に上手い描き方だ。見ている側としては「あぁ、これで良くなっていくのかなぁ」と思わせられる。しかし、そうならないのが人の心、精神の見えにくさである。結果、ふたりとも選ぶ道が同じである点も。(結末は違うが)
●和雄の治療療養のため、地元である東京を離れ全く友だちも知り合いもいない函館に引っ越した上、淡々と家事をこなしケーブルカーの案内の仕事も行う純子。全く気遣いの無い和雄に対して、その感情のわかりにくさが、ややもするともどかしい。そんな純子が感情を露わにするのが妊娠を告げた時だ。「自分だけ傷ついたような言い方しないでよ」
●ふたりはどうやって知り合ったのだ?
(同じ出版社で知り合って結婚したことがラスト近くの台詞でわかる)
「何も言わず、すっと荷物を持ってくれて、後ろ姿見て、あー、わたし、この人のこと好きだなって思って」
「ちょろいかな」
「ちょろいよ」
●冒頭、ふたりの会話。
「今日、車運転していると目の前をキタキツネが横切ったんだよ」
「この辺りではキタキツネ、出ないよ」
「えー、そうかなぁ」
ラスト、和雄の自殺未遂、産まれてくる子供のこともあるのだろう、函館の家を引き払い実家に戻る純子。車を運転していて、ふと止まる。キタキツネだ。
(このシーンの感情を表し演じた、奈緒が印象的)
ここで和雄が病院から電話をかけているのだが留守電になっていて会話で終わらないところが素晴らしく良い。どうなるかはわからない。そして、和雄は病院の窓から逃げ出し、走り出す。
※Memo2
●「草の響き」函館ロケ地マップ
(A4判、両面カラー印刷、三つ折り)
PDFダウンロード リンクあり
https://www.hakobura.jp/info/news/12041.html
●パンフレット。28P
監督(斎藤久志)、脚本(加瀬仁美)インタビュー。
批評 (福間健二、小柳帝、篠儀直子、中澤雄大)
ロケ地マップ。
センターの意図的に選ばれた写真。
本編を見た後、なるほどと唸った配置。
工藤和雄(東出昌大)と和子(奈緒)がページの裏表にカラーで。
(文中敬称略)
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