2021-10-18

『草の響き』斎藤久志監督、佐藤泰志原作、東出昌大、奈緒、大東駿介、他

草の響き

監督 : 斎藤久志
原作 : 佐藤泰志
(『きみの鳥はうたえる』所収)
出演 : 東出昌大
奈緒
大東駿介
Kaya
林裕太
三根有葵
利重剛
クノ真季子
室井滋

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Memo1
東京が舞台だった佐藤泰志原作を函館ロケに。
それが功を奏している。
作者の実体験が投影された本作において見晴らしの良い公園の土手やベイエリアを走る主人公・工藤和雄(東出昌大)の姿は鮮やかだ。ただ、それも走っていなければならない理由があるのだが。
脚色された点で一番、大きいのは和雄の妻・純子(奈緒)の存在。その事によって親友、佐久間研二(大東俊介)以外の第三者視点が増えた。それと下の世代である彰(Kaya)ら3人との対比も。原作は1979年発表。そういえば(随分以前ですが)読んだ原作、フリスビーとか出てた(そもそも彰は暴走族だったし)。
斎藤久志監督と脚本の加瀬仁美さんが夫婦だったことは、後で知りました(しかも発注時に妊娠されていたことも)。
それだけに本作の物語の運びや、気配、トーンに驚く。
物語の軸は和雄、純子、研二(病院に連れて行くことになる終盤のシーンは凄い)と彰、弘斗(林裕太)、その弘斗の妹・恵美(三根有葵)。運動療法としてランニングをする和雄にいつの間にか彰が並走して付いてくる。(そしてへばりながら弘斗も)。この走るシーンの繋がりが実に上手い描き方だ。見ている側としては「あぁ、これで良くなっていくのかなぁ」と思わせられる。しかし、そうならないのが人の心、精神の見えにくさである。結果、ふたりとも選ぶ道が同じである点も。(結末は違うが)

和雄の治療療養のため、地元である東京を離れ全く友だちも知り合いもいない函館に引っ越した上、淡々と家事をこなしケーブルカーの案内の仕事も行う純子。全く気遣いの無い和雄に対して、その感情のわかりにくさが、ややもするともどかしい。そんな純子が感情を露わにするのが妊娠を告げた時だ。「自分だけ傷ついたような言い方しないでよ」
ふたりはどうやって知り合ったのだ?
(同じ出版社で知り合って結婚したことがラスト近くの台詞でわかる)
「何も言わず、すっと荷物を持ってくれて、後ろ姿見て、あー、わたし、この人のこと好きだなって思って」
「ちょろいかな」
「ちょろいよ」
冒頭、ふたりの会話。
「今日、車運転していると目の前をキタキツネが横切ったんだよ」
「この辺りではキタキツネ、出ないよ」
「えー、そうかなぁ」
ラスト、和雄の自殺未遂、産まれてくる子供のこともあるのだろう、函館の家を引き払い実家に戻る純子。車を運転していて、ふと止まる。キタキツネだ。
(このシーンの感情を表し演じた、奈緒が印象的)
ここで和雄が病院から電話をかけているのだが留守電になっていて会話で終わらないところが素晴らしく良い。どうなるかはわからない。そして、和雄は病院の窓から逃げ出し、走り出す。

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Memo2
「草の響き」函館ロケ地マップ
(A4判、両面カラー印刷、三つ折り)
PDFダウンロード リンクあり
https://www.hakobura.jp/info/news/12041.html
パンフレット。28P
監督(斎藤久志)、脚本(加瀬仁美)インタビュー。
批評 (福間健二、小柳帝、篠儀直子、中澤雄大)
ロケ地マップ。
センターの意図的に選ばれた写真。
本編を見た後、なるほどと唸った配置。
工藤和雄(東出昌大)と和子(奈緒)がページの裏表にカラーで。

(文中敬称略)
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2021-09-30

『空白(Intolerance)』吉田恵輔監督、古田新太、松坂桃李、田畑智子、片岡礼子、寺島しのぶ、伊東蒼、藤原季節、他

空白
Intolerance

監督・脚本 : 吉田恵輔
出演 : 古田新太
松坂桃李
田畑智子
藤原季節
趣里
伊東蒼
片岡礼子
寺島しのぶ

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Memo1
英タイトル「Intolerance」と示すように「不寛容さ」について語られた映画。
100年以上前に撮られたD・W・グリフィス監督同タイトル作品も迫害や無実の罪を起こす心の狭さが描かれていた。
しかし、本作、ほのかに心が変わる瞬間も過ぎり、そこは閉塞感からの出口で実はヒントなのかもしれない。
「寛容さ」「赦し」への道標。
「負の連鎖」とも違う「落とし所」「怒りの納め所」が、わからぬが故の添田充(古田新太)の「あたり散らし」「拳のふるい方」は、周囲までをも歪め始めてしまう。その描き方の容赦なさ。
「普段から、ボランティアもしてるし、ちゃんとして生きてます」と周囲に「善意の押し売り」と受け取られない空気を醸し出しているスーパーアオヤギのパート店員、草加部麻子(寺島しのぶ)。
店長・青柳(松坂桃李)をずっと気にかけている(というよりも気がある。腕、しっかりしてるよぉ〜と触りにいくシーン。困った青柳の反応)。その割に同僚の店員には、ボランティアを手伝ってもらってるにもかかわらず態度が厳しい。
当事者でない人、特に学校側の対応。もしかするとそんな話はなかったかもしれないのに「以前、卒業生のお姉さんが、あそこのスーパーで痴漢に云々」と嘘でもなんでもよいから火の粉を払うような言動も。
添田の元妻・松本翔子を田畑智子。
吉田恵輔監督『さんかく』以来11年ぶりの出演。
添田を目覚めさせるのは、事故を起こした(呵責の念から、というよりも真面目な気質から自殺してしまう)娘の母親(片岡礼子)からの「娘を許してやってはもらえませんか」という、愛情の籠もった言葉。その態度。
それを機に物語は少し転調する。
「自分は娘のことを何も知らなかったんじゃないのか」

誰かは知らないところで見てくれている。
(ここ、本作で最も好きなシーン)
青柳を救う言葉が全く予想もしないところからかけられる。
スーパーを閉め工事現場の警備員をしている。
通りがかった若いトラック運転手。
「あの、すいません」
「スーパーアオヤギの店長さんですよね」
「店長の唐揚げ弁当、俺、好きだったんスよ」
「また、弁当屋さんでも始めてくださいよ。そしたら、俺、買いに行きますから」
「おつかれさまでした」
その青柳を慕い同じ船に乗って漁師をする野木(藤原季節)
(彼も非常に良い)
「俺、充さんが父親だったらキツイッすわ」
そう言いながらも実は一番気を遣って添田のことを見守っている。ラスト近くでわかることは父親がひとりで海に出て亡くなっていたということ。手を怪我した上に漁を続ける添田をまた失いたくないということ。
終盤。タクシーの中での3人。
添田、翔子、野木。
「みんな、どうやって折り合いつけるのかなぁ」
射し込む光が美しい。
そして、ラスト。
娘・花音と同じ雲を見ていたことを知る、添田。
その表情。

前作同様、上映時間が同じ107分。
近年の他映画からすれば短い。しかし、観客への台詞などで説明しきらない想像の余白、静かな余韻を残してくれる秀作。

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Memo2
パンフレット。
表紙写真とデザインに驚いた。
この場所は表4まで広げると判るのだが事故が起こった、あの道路。
てっきりポスターなどに使われている古田新太と土下座している松坂桃李の写真が使われるものだと思っていただけに意表を突かれた。
そして一撃。
古田新太×松坂桃李対談、監督インタビュー、プロダクションノート、他、掲載。
前作『BLUE/ブルー』に続いて絶妙タイミングで出るメインタイトル。前者はリングへ上がる冒頭、本作は事故が起きた、あの場所、あの位置に、あの文字で。(タイトルといえば『ヒメノア〜ル』のようなビックリするパターンもあった!)
『空白』愛知県蒲郡市ロケ地マップ(PDFダウンロード可)
https://www.city.gamagori.lg.jp/unit/kankoshoko/kuhaku.html

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『DVD&動画配信でーた』2021年4月号「吉田恵輔全仕事」と10月号「空白」インタビューによると来年公開予定の次回作はふざけまくっていて「あいつの巨匠期間は半年間だったかって思われるのが楽しみです!」「お前は何がしたいんだよ!どっちに行きたいんだって言われる監督では居続けたいですね」と語っていて、これまた楽しみな作品。

 

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2021-08-22

『子供はわかってあげない』田島列島原作、沖田修一監督、上白石萌歌、細田佳央太、豊川悦司、千葉雄大、他

子供はわかってあげない

原作 : 田島列島
監督 : 沖田修一
出演 : 上白石萌歌
細田佳央太、豊川悦司
千葉雄大、斉藤由貴
古舘寛治、他


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Memo1
それにしても、ひたすら上白石萌歌さんが笑っていて、こちらも最後まで、ずーっとニコニコして見てた。
のびのびとした屈託のなさと勢い、間合い、身体性。
画面からはみ出しております(実は今の家族のことを大事に思っていて、ずっと深いところにしまい込んでいるものもある)
オープニング。
いきなり始まるアニメ。しかも超ニッチな左官少女って 笑
このアニメを見ている美波と父親、走り回る弟、寿司を団扇(このうちわ、後も出てくる)であおぐ母。
ここをフィックスカメラの長回しで捉える(仲の良さや関係性も伝わる楽しい撮り方)
ラスト、屋上での告白シーン。原作19話。
「もじくん、あのね、私、もじくぶふぉう」そのまま、やるのかなぁって思ったら、ほぼそのままで嬉!吹き出し方がナイスタイミング。あと、見ないように(見ると笑う)手で目を隠す感じも抜群の見せ方。
豊川悦司、かなり癖あり父親役。
顔の日焼けがいかにも雑で、あー、この海岸前の家で暮らしてる感ビシバシ。
ある意味、原作越えの怪演。
ブーメランタイプの競泳水着を着て仁王立ちする父
「僕にも、泳ぎ、教えてくれよ」
(これではアブナイオヤジやん 笑)
家の前にテント張ったり、コロッケ買うついでにテレビ買ってきたり、なんだかいろいろ変だけど「娘と過ごせることが楽しい」感、出てて良いわ〜。KOTEKOのBOXセット買ってきてるし。
水泳部顧問の役名が「な」って、そのままやー。
ちなみに原作にも出てます。(さすがに映画では役名あるかと思ったら、脚本でもやっぱり「な」でした 笑)
タルンドル朔田とか細かいフレーズも。母、由起の「OK牧場」も。
もしかしてPG12って「海苔巻きちんちん」のことか?って思ったら未成年飲酒の件ね。
これもエンドロールの一番最後に「お酒は20歳になってから」の習字で補足していて、見事なオチ。

Kodomo

Memo2
パンフレット。
原作の田島列島さん描き下ろしイラスト
「屋上のふたり、その後」あり。
本編でもじくんが砂浜に「朔田美波」と描く場面、それに対して終盤、実はもじくんに会いたい美波がプールサイドに水で「もじくん」と描いた、そのシーンが描かれています。
撮影シナリオ掲載。
断り書き通り本編には無いシーンも。
同学年の水泳部、宮島が美波にパピコを膝で二つ割りして渡すところとかも。
(ほとんど膝蹴りみたいだが、あれでいいのか 笑)
あと「じゃりじゃり〜」
そして宮島との挨拶。「アデュー」は上白石萌歌さんが歌手の時に使うadieuのことだと思うけど、ちょっと小粋な小ネタ。
原作からの抽出度が絶妙。
もじくんの兄、明大の探偵シーン(父親探しと教祖が教団のお金持逃げ事件を同時に追う)がもっと多くあるけれど、父と娘の夏冒険物語&ガールミーツボーイものにしたところがシンプル&大正解。
沖田監督作品はほぼリアルタイムで公開時に見ているけれど(昨年の「おらおらでひとりいぐも」はお気に入りベストテンに)本作は格別な面白さがある。
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原作「あとがき」によると趣味で長編を描いてみようと思い立ってできたのが『子供はわかってあげない』しかも、これは趣味だと自分に言い聞かせなければどうにも描き出せなかった、とも。
「これは趣味だ これは趣味だ これは趣味だ 逃げちゃダメだ」には吹いた。
(サウンドトラック/牛尾憲輔)
サブスク配信されているので鑑賞後、聴ける方「走れ!!!」を是非。
おぉぉっ!ってなる。「じゃりじゃり〜」
もじくんが連絡が取れなくなった美波のことを案じて江虫浜に向かうシーンでかかる曲が、お!これって「ラブストーリーは突然に」じゃないと思ったらサントラ曲名が「左官のこころは突然に」
しかも脚本では→シーンNo.77 門司、トレンディードラマみたいに走る。
映画『子供はわかってあげない』劇中アニメ
【魔法左官少女バッファローKOTEKO】本編映像&ED
https://www.youtube.com/watch?v=7smP_TUKASY&t=1s




 

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2021-06-06

「やだ、ここから始める?」『クルエラ(Cruella)』クレイグ・ガレスピー監督、エマ・ストーン、エマ・トンプソン、マーク・ストロング、他

クルエラCruella

監督 : クレイグ・ガレスピー

エマ・ストーン
エマ・トンプソン
ジョエル・フライ
ポール・ウォルター・ハウザー
ジョン・マクリー
エミリー・ビーチャム
マーク・ストロング

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Memo1
まさにエマ・ストーン劇場
予備知識なしで見たので70年代 使用楽曲にいちいち反応してしまった(リスト後述)。
細かいところでは35ミリと65ミリが使用された撮影も素晴らしい。
(この質感は劇場スクリーンでこそ堪能できる!)
「やだ、ここから始める?」
エステラ/クルエラ(エマ・ストーン)のモノローグから始まる。
しかも逆さまで 笑
「まだ1964年。女の時代はもう少し先」
学校で浮くエステラ。
この辺りをエマ・ストーンのややハスキーな声でかぶせてスムーズに綴っていく手際よさ、面白さ。
そしてロンドンでの2人と一匹(眼帯してるチワワ、カワイイ)との出会い。
「エステラは無理。クルエラは達成する」
ふたつの人格をファッションとヘアメイク、動作、発音で見せていく。
IMDb、RottenTomatoともに初日評価より上がっていくパターン。
見た人が増えてヴィラン誕生譚だけでは語られない作品であることが浸透し始めたのかも、と勝手に予測。
クルエラとジャスパー、ホーレスがドナルド・E・ウェストレイクの『ホットロック』他のドートマンダーとその仲間たちのような、『アントマン』のスコット窃盗団のような、ドロンジョとドロンボー一味のような。
アーティ(ブティック店主、ファッションショー協力者)ともう一人(実は味方→)ジョンも加えるとさらに一味感が増す。
この顔ぶれで続編も作れるなぁ。
刑務所に入ったバロネス(エマ・トンプソン)が脱獄してクルエラに復讐しようとする...って、なにやら『ピンクパンサー』シリーズのクルーゾーとドレフュス署長みたいな 笑


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Memo2
ファッションがキー。
ということでパンフレットが写真とイラストとコラージュで彩られた新機軸スタイル。
ネタバレとなるラストシークエンスだけ最終ページに記載しているのも親切設計。
衣装デザイナー、ジェニー・ビーヴァンのパンフレット掲載インタビューにエステラの外見の発想はニーナ・ハーゲン(!)の写真から始まったとある。
コスチューム制作秘話。
https://www.vogue.co.jp/celebrity/article/cruella-costume-designer-jenny-beavan-interview-cnihub
タイトルデザイン
Main on End Titles and Newspaper Headlines Designed by ELASTIC DESIGN
End Crowl SCARLET LETTERS
使用楽曲全リスト
Cruella soundtrack: All the songs featured in the Disney prequel movie
https://www.radiotimes.com/movies/cruella-soundtrack-music-movie/

『クルエラ』公式サイト
https://www.disney.co.jp/movie/cruella.html




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2019-07-08

『ゴジラ キング・オブ・モンスターズ(Godzilla: King of the Monsters)』マイケル・ドハティ監督、カイル・チャンドラー、ヴェラ・ファーミガ、ミリー・ボビー・ブラウン、サリー・ホーキンス、渡辺謙、他

ゴジラ キング・オブ・モンスターズ
Godzilla: King of the Monsters

監督 : マイケル・ドハティ
出演 : カイル・チャンドラー
ヴェラ・ファーミガ
ミリー・ボビー・ブラウン
サリー・ホーキンス
渡辺謙チャン・ツィイー

物語・神話の時代に生息していた怪獣のモスラ、ラドン、キングギドラが復活する。彼らとゴジラとの戦いを食い止め世界の破滅を防ごうと、生物学者の芹沢(渡辺謙)やヴィヴィアン(サリー・ホーキンス)、考古人類学者のアイリーン(チャン・ツィイー)らが所属する、未確認生物特務機関モナークが動き出す。(物語項、シネマトゥディより抜粋)

G1

Memo1
金子修介版ゴジラ『ゴジラ モスラ キングギドラ 大怪獣総攻撃』の立場逆バージョン
それにしてもモナークという響きがなんとも可愛らしいというかブルボンのお菓子みたいなというか…まあ、最も近いのは「そごう」のロゴを横にしたらこうなったロゴ。
瓦は飛ばないが町(村)ごと全部吹っ飛ぶラドンの飛びっぷり。
飛翔系のモスラとラドンのバトルがとりわけ素晴らしい!
(見たことないパターン)

G2

Memo2
タイトルデザイン
ギャレス版と同じくPROLOGUE FILM / Kyle Cooper
(本作該当タイトル部分はまだアップされていません。こちらはギャレス版タイトル)
http://www.prologue.com/portfolio/godzilla/
サウンドトラック・メイキング(注・音楽についてのネタバレが含まれています)
Godzilla KOTM - Making the Music - Bear McCreary (official)
https://www.youtube.com/watch?v=YINrERKAR4A
なおサウンドトラックはSpotify他で配信スタートしていますが、こちらのWaterTower Musicサイトで視聴可能
https://www.youtube.com/user/WaterTowerWB/videos

映画『ゴジラ キング・オブ・モンスターズ』公式サイト
https://godzilla-movie.jp/

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2018-12-13

『恐怖の報酬 オリジナル完全版(SORCERER)』ウィリアム・フリードキン監督、ロイ・シャイダー、ブルーノ・クレメル、フランシスコ・ラバル、アミドゥ、他

恐怖の報酬 オリジナル完全版
SORCERER

監督 : ウィリアム・フリードキン
出演 :
スキャンロン“ドミンゲス”:ロイ・シャイダー
ヴィクトル・マンゾン“セラーノ”:ブルーノ・クレメル
ニーロフランシスコ・ラバル
カッセム “マルティネス”:アミドゥ

物語・アメリカでマフィア幹部の弟を撃ったドミンゲス(ロイ・シャイダー)、メキシコのホテルで宿泊していた男を射殺した殺し屋ニーロ(フランシスコ・ラバル)、エルサレムで爆弾テロを起こしたマルティネス(アミドウ)、パリで不正取引を働いた投資家セラーノ(ブルーノ・クレメル)。逃亡の末に南米ポルヴェニールの小さな村に流れ着いた彼らは、身分を偽って製油所で働いていた。ある日、村から320キロメートル離れた油井で爆発事故が起こるそして…。

Sor

Memo
ビデオで出たオリジナル版を見ていないので、まさに公開時以来の対面。
確か、淀屋橋にあった通称フィルムビルでの試写室(50席弱)で見た記憶。
当時、見た時よりも強烈に刺さるタンジェリン・ドリームのスコア。
トラック正面の面構え。
メインタイトルのバックに映る石像。
ひとり生き残ったドミンゲスの幻惑的なショットの積み重ね。
震えた。
タイトルデザイン
Jean-Guy Jacques
http://annyas.com/screenshots/updates/sorcerer-1977-william-friedkin/
(参考)
アンリ=ジョルジュ・クルーゾー監督『恐怖の報酬(Le Salaire de la peur)』
タイポグラフィ
http://annyas.com/screenshots/updates/salaire-de-la-peur-1953-henri-georges-clouzot/
1978年日本公開時のチラシ。

Fear

『恐怖の報酬 オリジナル完全版』オフィシャルサイト
http://sorcerer2018.com/

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2018-11-29

『ア・ゴースト・ストーリー/A GHOST STORY』デヴィッド・ロウリー監督、ルーニー・マーラ、ケイシー・アフレック

ア・ゴースト・ストーリー
A GHOST STORY

監督 : デヴィッド・ロウリー
出演 : ルーニー・マーラ
ケイシー・アフレック

物語・若夫婦のC(ケイシー・アフレック)とM(ルーニー・マーラ)は田舎町の小さな家で幸せに暮らしていたが、ある日Cが交通事故で急死してしまう。病院で夫 の遺体を確認したMは遺体にシーツをかぶせてその場を後にするが、死んだはずのCはシーツをかぶった状態で起き上がり、Mと暮らしていたわが家へ向かう。 幽霊になったCは、自分の存在に気付かず悲しみに暮れるMを見守り続ける。(物語項、シネマトゥデイより)

Ags

Memo
極めて好み。
ホラーでもなくファンタジーでもない。「時間と場」の感覚は確かにノーラン監督構造物学的作品味でもあるけれど「ふたりのベロニカ」や「ベルリン天使の詩」を想起したりした。
(スピルバーグ監督『A.I.』2000年後ひとり残されたデイビッドのシークエンスもふとよぎる)
監督は「アイアン・ジャイアント」想起の傑作!→『ピートと秘密の友達』のデヴィッド・ロウリー。
以前に同じルーニー・マーラ、ケイシー・アフレック共演で撮った「セインツ -約束の果て-」も印象的だったし、これからの作品も楽しみ。

映画の冒頭
ヴァージニア・ウルフ著述からの引用。
"Whatever hour you work there was a door shutting"
Virginia Woolf, A HAUNTED HOUSE
短編集に収録されているようだけれども未読。
本編の時空を超えた感覚は『オーランド』(映画では「オルランド」)に似ていて、なるほどと納得。
白いシーツがかぶせられた安置室。
いきなり、Cがそのまま起き上がる姿に垣間見える、ちょっと滑稽さが上映時間が経過すると共に余計に物悲しさを増幅させている。
(観客はMの5分に及ぶパイを食べるシーンや過去に遡る時空の旅を含めて、文字通り伸び縮みする時間を体感)
名前すら無い、CとM。
その事が物語る見ている(観客)誰のことでもある普遍的な「想い」「思念」のストーリー。
柱に残されたメッセージへの「想い」は時空までも超えてCの「場」への執着(執着とは少し違うとは思いますが…)につながる。
シーツの中の「想い」がふっと消えて、その場にパサッと落ちる表現もこの上なく美しい。

角丸のスタンダードスクリーンサイズはどこか銀塩写真の古いフィルムのようでもある。(それにしてもフィックス、長回し、パンニングなどの各ショットのなんと美しいこと)
空気感まで伝わる色彩調整も美しい。
カラーリスト(Colorist)はJoe Malina
https://www.joemalina.com/

『A GHOST STORY / ア・ゴースト・ストーリー』
公式サイト

http://www.ags-movie.jp/

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2018-10-01

『クワイエット・プレイス(A Quiet Place)』ジョン・クラシンスキー監督、エミリー・ブラント、ジョン・クラシンスキー、他

注・内容、ラストに触れています
クワイエット・プレイス
A Quiet Place

監督 : ジョン・クラシンスキー
出演 : エミリー・ブラント
ジョン・クラシンスキー
ミリセント・シモンズ
ノア・ジュープ、他


物語・音に反応して襲撃してくる何かによって、人類は滅亡の危機にさらされていた。リー(ジョン・クラシンスキー)とエヴリン(エミリー・ブラント)の夫婦は、 聴覚障害の娘ら3人の子供と決して音を立てないというルールを固く守ることで生き延びていた。手話を用い、裸足で歩くなどして、静寂を保ちながら暮らして いたが、エヴリンの胎内には新しい命が宿っていた。(物語項、シネマトゥデイより抜粋)

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Memo
「はじめの第一歩」(これは動いてもアカン)か積木くずし(これ、ちょっと近い)か「テレビにらめっこ」(これは笑ったらアカン。じっと我慢して音を出さないで)
まあ、なんといっても頼もしいエミリー・ブラントのこと。
『オール・ユー・ニード・キル』『ボーダーライン』と見てきた限り、大丈夫でしょー、と思ったら案の定。
モニター越しに走ってくる2匹のクリーチャー。
最高ボリュームにあげられるスピーカー。
ラストはショットガンを充填。
ガシャという音と少しニヤリとした口もとと共にピタリと決まった見事なショットでエンドクレジットへ。
(評価が高さは、実はこのラストショット部分もあってのことだろうなぁと惚れ惚れ)
とはいえ、バランス的にはツッコミどころが多いのも確か。
多分、第一義に音を立てたらの「音」はどのような質の音なのか、大きさなのかが、曖昧(滝の裏側であれだけ大きな叫び声があげられるのだったら、相当大きな音も大丈夫では?)
クリーチャーの姿を見たとき思わず「嫌ぁぁぁー(ear)!」という日本だけでしか通じないフレーズを思いつくぐらい「耳」である。
その造詣が素晴らしい。聞き耳ならぬ集音器のような増幅された音もあいまってなかなかのもの。
タイトルデザイン(Main Titles and End Titles)
IGNITION CREATIVE.
予告編やTVスポットも
http://ignitioncreative.com/work/detail/a-quiet-place

映画『クワイエット・プレイス』公式サイト
https://quietplace.jp/

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2018-01-31

『希望のかなた(THE OTHER SIDE OF HOPE/Toivon tuolla puolen)』アキ・カウリスマキ監督、シェルワン・ハジ、ニロズ・ハジ、サカリ・クオスマネン、他

希望のかなた
THE OTHER SIDE OF HOPE
Toivon tuolla puolen

監督 : アキ・カウリスマキ
出演 : シェルワン・ハジ
ニロズ・ハジ
サカリ・クオスマネン
イルッカ・コイヴラ
ヤンネ・フーティアイネン
ヌップ・コイヴ
カイヤ・パカリネン
サイモン・フセイン・アルバズーン
カティ・オウティネン
マリヤ・ヤルヴェンヘルミ

コイスティネン(ヴァルプ)

物語・カーリド(シェルワン・ハジ)は石炭を積んだ貨物船に隠れ、内戦が激化するシリアのアレッポから遠く離れたフィンランドの首都ヘルシンキにたどり着く。差別と暴力にさらされながら数々の国境を越え、偶然この地に降り立った彼は難民申請をする。彼の望みは、ハンガリー国境で生き別れた妹ミリアム(ニロズ・ハジ)を呼び寄せることだけだった。(物語項、シネマトゥデイより抜粋)

Hope1

Memo1
ミニマルな「味わい」を楽しみ、時にニマニマしながら見ていられるカウリスマキ作品。
そんな中にあって、本作は初めて感じるビターさが加味されている(さまざまなインタビューなどを見たり読んだりしても、いつになく直裁的な表現が垣間見えたり)
蔓延しているステレオタイプな偏見(あのネオナチの執拗さはなんなんだ)や官僚主義(難民申請に対しての、あの冷たい扱い←それでも強制送還当日、逃げる手助けをしてくれる人も描くところがカウリスマキ監督らしい)
不寛容な時代における寛容さとは?
それを絶妙な匙加減でユーモアとともに織り込む語り口はさすがだ。
運良くレストランを開業したもうひとりの(家を持たない或いは捨ててしまった)主人公ヴィクストロムも最初は「なんなんだ、このオヤジ」と思って見ていたら、ところがなんの意外ととぼけつつも懐深い(従業員が拾ってきた犬コイスティネンの扱いや給料に対する対処など絶妙)
それらの人物伏線は中盤。カーリドと対面した際にパシッといかされる。
ヴィクストロムが収容施設から逃げ出しゴミ捨て場で寝泊まりしていたカーリドを見つけ、いきなり殴り、すかさずカーリドに殴り返される。
次のシーンでは鼻にティッシュをつめこんだふたり。
このテンポの妙。
商売繁盛をかけて寿司店に大幅リニューアル。
まずは資料集めと書籍を買いあつめているところにうつるウィンドーケースの中に紀伊國屋書店のカバーがついたままの本があって「まぁいくらなんでもこのままでは売ってないでしょ 笑」と
開業後。
「おっ!結構、お客さんが来てる」
これは功を奏したかと思いきや、あの寿司…。
一転。
げんなりして変えるお客さんとションボリしているヴィクストロムらレストランの面々の姿はホント、おかしかったなぁ 笑
ヴィクストロムらの手助けによって妹ミリアムと再会を果たすカーリド。
それまで全く笑わないに等しかった主人公カーリドが笑みをもらす。
(あぁ本当にカーリドにとって最大の望みは妹を探し出し呼び寄せることだったんだなぁということが判る)
そして、ラスト。
前夜ネオナチに襲われ木陰に横たわるカーリド。
妹が無事管理局に入っていくところを見て安堵の表情を浮かべる。
おなじみのカティ・オウティネンや監督の愛犬ヴァルプ(劇中の名前が「街のあかり」の主人公と同じコイスティネンって 笑)も登場。

Hope2

Memo2
パンフレットデザインは大島依提亜さん。
本文パンフを天地左右3mmずつ大きい表紙に貼りつけた仕様。
帝國寿司の前掛けを模したページも(用紙が!)
センターにカラー写真(順番やカウリスマキ監督ならではの語る顔がズラリと並んだページも)
劇中楽曲の歌詞(訳詞)も掲載。
(それにしてもドブロなど含めてカッコイイギターが多数出てきて、そこもまたアクセントであり個人的見どころでした)

映画『希望のかなた』公式サイト
http://kibou-film.com/

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2018-01-07

絶滅すべきでしょうか?『勝手にふるえてろ』綿矢りさ原作、大九明子監督、松岡茉優、北村匠海、渡辺大知、石橋杏奈、他

注・内容、台詞に触れています。
勝手にふるえてろ

監督 : 大九明子
原作 : 綿矢りさ
出演 : 松岡茉優
北村匠海
渡辺大知
石橋杏奈
趣里、古舘寛治
前野朋哉、片桐はいり他

物語・初恋相手のイチを忘れられない24歳の会社員ヨシカ(松岡茉優)は、ある日職場の同期のニから交際を申し込まれる。人生初の告白に舞い上がるも、暑苦しいニとの関係に気乗りしないヨシカは、同窓会を計画し片思いの相手イチと再会。脳内の片思いと、現実の恋愛とのはざまで悩むヨシカは… (物語項、シネマトゥデイより抜粋)

Furue

Memo1
2015年放送の「さんまのまんま」に橋本愛とふたりで出演した際、カメラ目線で「主演映画はまだありません」と訴えて(笑)から3年近くにして遂に!
そのテンポ、タイミング、声や表情のバリエーション。
まさに松岡茉優100%
なによりも(頭の先から尻尾まであんこの詰まったたい焼きのように)始めから最後まで出ずっぱり。
こういうパターンは稀有だと思うし大成功している
(通常、主人公を浮かび上がらせるために周辺の人たちのエピソードを別に描いたりするものだが、それをやらなかったことが逆に広がりを持つことになってる)
妄想シーンはあるが回想シーンはない、見事な直線構造。
そして中盤に訪れる転換点。
(後述、歌のシーン)
なんだ、ねじれてる割には知り合い多いじゃん、コミュニケーション取れてるじゃん…と、思わせておいてのぼっち具合。孤独真っ逆さま。
原作未読だけれども、これは相当に練られた脚本。
こじらせ具合、ねじれ方、くすぶり具合の匙加減が絶妙。
観客によせて共感前提で作っていないのもよかったなぁ。
時にミュージカルっぽく歌で綴る真実の姿。
「絶滅すべきでしょうか?」
この距離が私と世の中の限界
「ねえアンモナイト、生き抜く術を教えてよ」
(ここを歌で描いたのは秀逸。これ台詞やモノローグだったらキツイわー。演じた松岡茉優キャラクターもありきで実に見事)
空気読めない人が集まるときのズレの面白さ。
見ていてイタイ(時に思い当たるフシが多々。あゝイタイ)
ヨシカもスゴイが二を演じた黒猫チェルシー、渡辺大知の「おいおい、そこき気ィつかえょぉぉぉぉ」と見ているこちらがツッコミたくなるほどのウザさを演じていて上手い。
そしてイチ(北村匠海)のこれまた遠目の富士山みたいな見た目かっこ好いが近づくとやはりバリア張りまくりの利己的キャラ。
その極めつけの台詞
(同窓会きっかけで開かれた上京グループの集まり。朝方。アンモナイトの話など共通点がいろいろ出てきて喜ぶヨシカに対して)
「ごめん。名前なんだっけ?」

Furuete

Memo2
パンフレットデザインは大寿美トモエさん
上記画像は表紙。表4は赤一色の中心にアンモナイト。
付箋含めて本作のキーカラーは
ヨシカのファッションがキャラクターにマッチ(ダサ可愛いより、やや可愛い寄りのキワキワ線)して素晴らしくよいなぁー、と思い調べたら「ひよっこ」衣装監修の宮本茉莉さんでした(ドラマ中のワンピースも、とてもチャーミング)

映画『勝手にふるえてろ』公式サイト
http://furuetero-movie.com/

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