『アバウト・シュミット』『サイドウェイ』『ファミリー・ツリー』のアレクサンダー・ペイン監督による父と子の"ゆきて帰りし物語"『ネブラスカ ふたつの心をつなぐ旅(Nebraska)』主演のブルース・ダーンは本作でカンヌ国際映画祭男優賞を受賞。
物語・100万ドルが当たったという通知を受け取ったウディ(ブルース・ダーン)。それはどう見てもインチキだったが、徒歩でもモンタナからネブラスカまで金を受け取ろうとするウディに息子のデイビッド(ウィル・フォーテ)が付き添うことに。こうして始まった父と息子の4州をまたぐ車での旅。途中、立ち寄った父の故郷で、デイビッドは父の意外な過去を知ることになる。(物語項、シネマトゥデイより抜粋)
●モノクロ、スコープサイズ。
どこまでも広がる何もない土地、同じような風景が連なる道行。
故郷ホーソーンのがらんとしたなんともいえない侘しさ。
撮影はペイン監督とは3作目となるフェドン・パパマイケル
モノクロにありがちなハイキーさはなく、やわらかい画調が本編にピッタリ。
●"アレクサンダー・ペイン落語"とも言うべき語り口を味わう映画。ブルース・ダーンも上手いが奥さん役のジューン・スキップが受けと攻め、両面から上手い(ぼやき漫才の人生幸朗・生恵幸子師匠の「何言うてんねん、この泥亀!」という威勢のいいツッコミを思い出した)
同じペイン監督『アバウト・シュミット』でもジャック・ニコルソンの妻役で出演(←これもネブラスカ州!)
あとウディ・アレン『アリス』が映画デビュー作というのも、ちょっと驚き。
●父と子、夫婦、縁遠くなっていた親戚、故郷の友人たち、それぞれの距離感に「あるある」と思ったりホロッとしたり人それぞれの受け取り方ができる、あとになればなるほどじわ~っとくる映画。
会話ないよなー、とか(テレビをみつめる絵面が観客側を向くことになる。そのショット、キツイわー)、大金が入ったことによって俄に活気づく周囲のひとたち(怖い…)、久々に会った友人が実は…、母ケイトより前に父がつきあっていた女性とか、カラオケで唄われている"タイム・アフター・タイム"のもの哀しさ…、淡々とそして的確に描かれている。
●一筋縄ではいかない老人たちが多数。おじいちゃん版ハングオーバーとも言える(これから公開される)「ラスト ベガス」と連なる"おじいちゃん映画の系譜"?
●父親のお墓の前で毒舌吐きまくるケイト(ジューン・スキップ)
「もう少し顔がよかったらねぇ」
「ルター派と同じ場所になんか埋葬しないわよ」
「すぐにパンツの中に手をつっこんでくるんだから」
おまけにはスカートまでまくりあげて墓の前に立つ始末。
そんなケイトだが100万ドル当たったと思ってお金をせびってくる親戚たちにピシャリと「とっとと、くたばれ」と言い放つ姿やラスト近く、病院から兄ロス(ボブ・オデンカーク)と先に帰る際に寝ているウディの髪を整え、そっとキスをしたりと、ちょっと他人にはわからない夫婦の機微も垣間見えて素晴しい。
なんだかんだと言いながら、すぐに人の言うことを信じてしまうウディを守ってきたんだなぁー、と。
●可笑しみある台詞。
笑えるぐらいバレバレの覆面強盗(同じ体格のオッサン甥っ子ふたりw)に当選の手紙を盗まれた上、捨てられる。
その場所にさがしにいくふたり。
「入れ歯を見つけるよりは簡単だろ」
※蛇足
●ネブラスカの春~は~何も無い春です~♫(吉田拓郎「襟裳岬」のメロディで)とか同じ拓郎さん「おやじの唄」とかブルース・スプリングスティーンのアルバム「NEBRASKA」(「BORN IN THE USA」の反動とも言うべきアコースティックギター、自宅録音で製作された労働者階級を唄った本作サントラでもいいんじゃないのというぐらい印象がモノクロ的静かな作品)や浜田省吾『Home Bound』(原点回帰の意味の込められたタイトル)とか、全く関係なさそうなありそうなことがいろいろ思い浮かんだ。
▼下記US版ポスターがディランのアルバム『Bob Dylan's Greatest Hits』ジャケットみたいだ。
映画『ネブラスカ ふたつの心をつなぐ旅』公式サイト
http://nebraska-movie.jp/