2023-02-22

『ベネデッタ』ポール・ヴァーホーベン監督

『ベネデッタ』
Benedetta
ポール・ヴァーホーベン監督

Memo1
傑作。
17世紀に実在した同性愛主義で告発された修道女ベネデッタ。ヴァーホーベン監督らしい”えげつなさ”もあるが、実は表面には出ない教皇大使や教会のおこなっていたことの”ほのめかし”描写こそ当時の男社会、権力、組織そのものを語っている。エネルギッシュにして理知的。
予言のち、蔓延するペストに対して修道院長としてベネデッタが出した指示。これは冒頭、幼少の頃のある小さな出来事ともつながる偶然?奇跡?演じることと憑依すること。虚か実か。ウソから出たまこと。自作自演と人心掌握術。演じたヴィルジニー・エフィラの見事さ。
宗教画のようなショット。町がピンク色に染まる彗星出現場面、ロウソクの灯りのみで撮られた修道院、クライマックスのベネデッタ演劇空間からのシスター・フェリシタ(今月、2作目のシャーロット・ランプリング!)登場への展開。編集もすごいと思ったら『エル ELLE』と同じヨープ・テル・ブルフでした。
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Memo2
パンフレット。
表紙の裏にはベネデッタとバルトロメア、表4めくるとシスター・フェリシタ写真。これは護符のよう。ヴァーホーベン監督とヴィルジニー・エフィラ インタビューが縦組み小さい文字でビッシリ。みうらじゅんさんの漫画と辛酸なめ子さんコラムが最高。キーワードと年表も。
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2021-10-27

『ひらいて』首藤凛監督、綿矢りさ原作、山田杏奈、作間龍斗、芋生悠、他

ひらいて

監督 : 首藤凛
原作 : 綿矢りさ
出演 :
山田杏奈
作間龍斗
芋生悠
山本浩司
河井青葉
木下あかり
板谷由夏
田中美佐子
萩原聖人、他


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Memo1
今年ベスト級の素晴らしさ。
着地点が見えないまま見続ける3人の関係性の行方。
ラスト、おぉっとなって大森靖子主題歌。完璧。
編集がいいなぁ、と思っていたら監督自身でした。
各ショットの長さ、切り返し。
よいわー。
演者のパワーもそのまま映画のエネルギーとなっている。
たとえの作間龍斗(ジャニーズJr. HiHi Jets)。
よく芸能人が「"オーラを消して"普通にコンビニとか行くよ」と話してる、オーラを消して目立たないように振る舞うが、勉強を教えてもらう同級生らが結構いるし浮いたところもない絶妙感。そして謎の部分。
美雪を演じた芋生悠。声が印象的。
だからこそのモノローグ、ボイスオーバーだと思う。
どこかへ飛んで行ってしまいそうなストーリー展開の熱を冷ます上でも、この声ということは重要。表情がよい。
もしかすると大ベテランと呼べるぐらいに出演作多数の愛役、山田杏奈。推薦楽勝で大学へも行ける成績。学園祭の実行委員もやり、母親との関係性も淡々としているがギクシャクはない。しかし密かに自分だけが、見つけたと思っている、たとえに彼女がいることを知ってしまってからの逸脱。

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綿矢りさがインタビューで「どうしてこういう設定の物語を描こうと?」の問いに「書きたいと思った瞬間から書いてたような気がします。」
他人、自分以外の人のことを100%理解することなんて不可能なわけで、そう言った意味でも愛の途中から何をやっているのか、何をやりたいのか、わからない暴走モードは凄すぎる。(おそらくは本人も更には演じた山田杏奈にも)
強烈な衝動と"もやもや"の振幅。
そしてディティール。
ヘアアイロンのカットで「こういう描写、映画で初めて見たかも」と思っていたらキネ旬、首藤凛監督へのインタビューで、そのことについて答えていました。
(さらに細かいです)。
パッツンきっちりヘアスタイルや整頓された部屋もぐちゃぐちゃに。
それと爪も。
最初はネイルケアも行い、整っていたのが、たとえが誰か他に好きな人がいることがわかってから徐々にボロボロになっていく。
「爪は、お母さんそっくりね」
(全く気づかない母)


Hira2

美雪が漫画雑誌を読んでいる。
愛が「最近、何か面白いのある?」って聞いて答えた漫画タイトルが『チェンソーマン』
「えっ、それって、どんな話」
「悪魔がね…って、悪魔ってわかる」
奇妙な最初の会話(噛み合いそうもない)から、カラオケボックスでの(見ているこちらが気まずい空気という不思議感覚)近づいていく距離。
(それぞれの選曲、あいみょんとジュディマリ)
そして、美雪がたとえとつきあってることを知ってからの暴走する感情。
ここが意見が分かれるところかもしれない、愛と美雪の関係。
(実はお互いに、ないものの輪郭が見え始めるラブシーン、ベッドシーン)
もはや何をやっているのか自分でもわからなくなっている愛。
たとえの父親が暴力を振るっていて、たとえの身を案じバスでたとえ宅へ向かう美雪。
偶然、遭遇してついていく愛。
美雪の隣に座っている。
「愛ちゃん、何しに行くの?」
(いやいやいやいや、見ているこちらも聞きたいです)
もう、この辺りでは全く意味不明となっている。
それにしても蒲鉾親父(たとえの父)
身勝手気味に相手のことを考えず突き進む、愛の反転姿として描かれているとしても、さらに空気読めなさすぎの蒲鉾話し(怖いわ..)
最初、もこもこヘアスタイルで演じているのが、誰かわからなかった荻原聖人。
「CURE」想起の気味悪さ(かまぼこを切る包丁が…)
パンチ一発、キック一発。
3人それぞれの欠けていたもののパズルが少し埋まり前へと進む。
(愛はたとえと美雪に、たとえは愛に、それぞれかなりきついことを言ってきたのだが、一番傷ついているはずの美雪が綴った、この手紙には心震えた)




「およそ忍耐力など持ち合わせていない人が、たとえ打算であっても私の前で辛抱強くふるまい続けたのなら、ほんのひとときでも、心を開いてくれたのなら、私はその瞬間を忘れることができません。」





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Memo2
パンフレット。
24ページ/A4変型
出演者インタビュー
監督インタビュー
原作・綿矢りさインタビュー
プロダクションノート

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『週刊文春 CINEMA!2021秋号』
期待の監督10人。
首藤凛監督の勢いある文章が他の方と一線を画していて面白い。高校の文化祭で作った映画の話し(他人の20分を奪ったクソみたいな映画に対しての作る事の怖さ)が、そのまま"映画"みたいだ。この熱度が『ひらいて』を生み出したことがわかる。(実際、この年の冬に「ひらいて」に出会っている)
岩永洋さんによる撮影
『ひらいて』『サマーフィルムにのって』『街の上で』と話題作が続く。それぞれの作品によって違う味わいを見せる。
ほぼ、順撮りだということも功を奏している。
余談 >>>
劇場のロビーが高校の廊下みたいになってた。


(文中敬称略)








※密かに補足
Memo2の最後の部分。
バスで愛と美雪が、たとえの家へ行くシーンは原作とは順番が違います。映画ではラスト近くとなる美雪からの手紙「〜私は私はその瞬間を忘れることができません。」を受け取って、愛の家へ行ったタイミングで向かうので「何しに行くの?」にはならず二人、わかった上での行動です。そのあとの、たとえの父親が「女ふたりに助けられて、情けない」からのパンチ一発は原作と同じです。
本作、すごくよくできているのは原作を先に読んでいても受け取る印象が変わらないところ。逆に本作を見て、原作を読んでみることも、また自分なりの広がりが持てて豊かさの増幅が得られるのでは?などと思っています。







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2021-06-06

『BLUE/ブルー』吉田恵輔脚本・監督、松山ケンイチ、木村文乃、柄本時生、東出昌大、他

BLUE/ブルー

監督・脚本 : 吉田恵輔

松山ケンイチ
木村文乃
柄本時生
東出昌大、他

B1

Memo1
直球ど真ん中のボクシング映画。
東出昌大の目つきが後半、シャープで本当にボクサーのよう。
誰よりもボクシングが好きなのに優しさからか弱さからか受けの心持ちの松山ケンイチ。
最初はモテたい気持ちで軽く始めたが徐々にのめり込んでいく柄本時生。
3人の描き方の妙。
3人のボクシングへの気持ち。
そして、ままらないことへのもどかしさ。
107分。その最近の映画にしては短い上映時間内に過不足なく全てを描きこむ絶対的映画の力。
タイトル文字の出し方からして既にアガる。
で、木村文乃のバンテージ巻くシーンよいなー。
パンフレット読んだら監督がファンで「やっと木村文乃に会える」って答えていて、あー、なるほどー、と納得。
『あしたのジョー』両手ぶらり作戦ではないけれど、ステップバックしてアッパー入れる、といった戦法、実際にありそう。
そういった意味では当たるか当たらないかのギリギリのところで避けたり、ジャブ入れたり、スウェイバックしたりと実戦に近い試合を写した初のボクシング映画といえる。

Memo2
吉田恵輔監督のことを小林信彦さんは随分前からコラムに書いている。
以下引用 ~『麦子さんと』は、どなたかが これは堀北真希の代表作だ と書いていたのが正しい。
吉田恵輔さんは「純喫茶磯辺」というハートフルコメディを作っていて、僕はずっと信用している。
次回作の古田新太・松坂桃李共演『空白』まだ見ていないけれどキャスト、(伝え聞く)ストーリー、漂う空気からガツンと一撃の気配を感じる。
パンフレットの表紙がリングのみ。
これはグッとくる。素晴らしい!

Blue_p

映画『BLUE/ブルー』オフィシャルサイト
https://phantom-film.com/blue/







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2021-02-26

『花束みたいな恋をした』あれこれ(タイトル仮)

花束みたいな恋をした
パンフレット。
本文68P(表1〜4、チケットなど除く)
購入する際に「表紙など擦れた感じがありますがデザイン仕様でそうなっています」という丁寧な説明。
PP貼りではない厚紙なので、よくわかる(きっと見えないほどの細かい擦れを質問したお客さんがいたのだろうと推測)
Ha
サブスクで『花束みたいな恋をした』サントラと麦と絹の好きな曲で構成したプレイリスト作っている人いるだろうなぁ、と思ったらやっぱり!
麦と絹の好きな本を集めて展開している書店もあるのかな?
なければコーナータイトルは「ほぼうちの本棚じゃん」で。
誰かが語っていたかもしれないが麦と絹のキャラクターは交換可能?
そういった意味でも、これはどこにでもある(あるのだが、現代の出会うこと機会の希薄さにおいてのサブカルつながりは描かれてこなかったジャンル)カップルの物語。
年代設定が抜群。
勝手に自分ヒストリーに翻訳できるし。近過去は懐かしみを含み始めている。
Hanataba_f
衣装展示。
これまた、同じファッションが販売とかされたのだろうか?

 

 

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2018-12-02

『ボヘミアン・ラプソディ(BOHEMIAN RHAPSODY)』ブライアン・シンガー監督、ラミ・マレック、グウィリム・リー、ベン・ハーディ、ジョー・マッゼロ、ルーシー・ボーイントン、他

ボヘミアン・ラプソディ
BOHEMIAN RHAPSODY

監督 : ブライアン・シンガー
出演 : ラミ・マレック
グウィリム・リー
ベン・ハーディ
ジョー・マッゼロ
ルーシー・ボーイントン
エイダン・ギレン
アレン・リーチ
トム・ホランダー
マイク・マイヤーズ、他

物語・1970年のロンドン。ルックスや複雑な出自に劣等感を抱くフレディ・マーキュリー(ラミ・マレック)は、ボーカルが脱退したというブライアン・メイ(グウィリム・リー)とロジャー・テイラー(ベン・ハーディ)のバンドに自分を売り込む。類いまれな歌声に心を奪われた二人は彼をバンドに迎え、さらにジョン・ディーコン(ジョー・マッゼロ)も加わってクイーンとして活動する。やがて「キラー・クイーン」のヒットによってスターダムにのし上がるが、フレディはスキャンダル報道やメンバーとの衝突に苦しむ。(物語項、シネマトゥデイより抜粋)

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Memo1
伝記映画やドキュメンタリーではないので全て事実に基づいて映画化する必要もなく、一種のファンタジーライヴ映画として見た。
これが実に素晴らしい!
ラストのライヴエイドに向けて集約されていく構成の妙。
前半で見られるレコーディング風景のテンポの良さ
メアリーを演じたルーシー・ボイントンがよかった!(「シング・ストリート 未来へのうた」とは違って70~80年代ということからか、時にテリー・ガー、時にナンシー・アレン、もしくはキャサリン・ロスのような趣き)
やはり圧巻はラスト20分のライヴエイド
(実際は照明も入っていたし、テレキャスを弾いての「Crazy Little Thing Called Love」などが多い)
再現という意味では最初のピアノの前に座ってモニター調整をするフレディの姿やPAモニターに貼られたセットリストの位置など「おぉっ!!」と思うところ多数。

Br2

Memo2
こちらの検証記事が面白い。
RollingStone誌(Web版)
クイーン自伝映画『ボヘミアン・ラプソディ』を事実検証
https://rollingstonejapan.com/articles/detail/29421
タイトルデザイン(Graphics and Title)
当然のように英国制作ものといえば、この人。
マット・カーティス(Matt Curtis)
クレジットではGraphics関連も行っているとうことなので、世界ツアー時のネオン管的デザインなどもそうなのかな?

映画『ボヘミアン・ラプソディ』公式サイト
http://www.foxmovies-jp.com/bohemianrhapsody/

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タイトルデザインやロケ地のこと_2 『ファンタスティック・ビーストと黒い魔法使いの誕生』『ヴェノム』『チューリップ・フィーバー 肖像画に秘めた愛』『500ページの夢の束』『バスターのバラード』

最近のタイトルデザインやロケ地をまとめて。

ファンタスティック・ビーストと黒い魔法使いの誕生
Fantastic Beasts: The Crimes of Grindelwald
タイトルデザイン(Main and End Titles)
マット・カーティス(Matt Curtis)
あのロケ地はどこ?
Where was Fantastic Beasts 2: The Crimes of Grindelwald filmed?
https://www.atlasofwonders.com/2018/11/fantastic-beasts-2-grindelwald-filming-locations.html

Cg

ヴェノム
Venom
ルーベン・フライシャー監督
珍しい(前半)ヘタレな役柄を演じたトム・ハーディも見ものだが、やはりここは小林信彦先生の教えに従って「映画は女優で」ということでミシェル・ウィリアムズの意外なマーベル作品キャスト起用にビックリしたり嬉しかったり。
タイトルデザイン
Main Title > General Population >
Lead Designer > Paul Cayrol
https://paulcayrol.com/VENOM

チューリップ・フィーバー 肖像画に秘めた愛
Tulip Fever
ジャスティン・チャドウィック監督
タイトルデザイン
MAIN ON END TITLES
MIKE ELLIS
END ROLLER > FUGITIVE

500ページの夢の束
Please Stand By
ベン・リューイン監督
タイトルデザイン(Main and End Titles)
ポン・ジュノ監督「オクジャ」のタイトルデザインなどを手がけた
GARETH SMITH / JENNY LEE

Bbs

バスターのバラード
The Ballad of Buster Scruggs
ジョエル・コーエン&イーサン・コーエン監督
それにしても、まさかコーエン兄弟作品の新作を配信で見る日がやってくるとは!本作こそ大スクリーンで見たい風景、ショットに溢れている(特にトム・ウェイツのチャプター部分!)
タイトルデザイン
Titles and Book Designed
RANDY BALSMEYERBIG FILM DESIGN
http://bigfilmdesign.com/titles/
章立てのブックアートワークが洒落ている。
Book Artwork by GREGORY MANCHESS

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2018-10-26

『ペンギン・ハイウェイ』森見登美彦原作、石田祐康監督、北香那、蒼井優、釘宮理恵、潘めぐみ、他

ペンギン・ハイウェイ

監督 : 石田祐康
脚本 : 上田誠
原作 : 森見登美彦
出演(Voice Cast) :
北香那蒼井優
釘宮理恵潘めぐみ
福井美樹、能登麻美子
久野美咲、西島秀俊
竹中直人、他

物語・毎日学んだことをノートに書きためている小学4年生のアオヤマ君が暮らす郊外の街に、突如ペンギンが現れる。アオヤマ君は、海のない住宅地になぜペンギン たちが出現したのか、その謎を解くために研究を始める。そして、行きつけの歯科医院で仲良くしているお姉さんが投げたコーラの缶がペンギンに変身する瞬間 を目の当たりにし…。(物語項、シネマトゥデイより抜粋)

Penguin

Memo
今年(2018年)の夏。
ちょうど使用開始したTOHOシネマズ・フリーパスで最もリピートした作品となった。
(本当はレベッカ・ファーガソンが出ている『ミッション・インポッシブル:フォールアウト』に合わせてフリーパス期間設定したのだが、終了してみると本作の方がリピート数が多くなっていた、と、それぐらいお気に入り作品となった)
森見登美彦作品としては昨年の『夜は短し歩けよ乙女』に続いてのアニメ化作品。ボイスキャストが素晴らしかったが本作もよい。お姉さんの蒼井優(言われてじっと聞くと蒼井優とわかるが普通に物語に没入していると忘れてしまうほど)、アオヤマ君の北香那を演じたふたりの間合いもよくて抜群の上手さ。
(まあまあ、そこそこの森見愛読者として)原作は随分前に読んでいたのだけれど、ものすごく上手くエッセンスを損なわず脚色された脚本もさすがというところ。
何よりも省略されたエピソード(ひとつにまとめられたエピソード)が部分のチョイスが絶妙。
「海」について、このような記事が↓
2011年夏号「特集・森見登美彦」インタビューより抜粋。
〜『ソラリス』って「世界の果て」を描いている作品ですよね。だから『ペンギンハイウェイ』では郊外を舞台に『ソラリス』をやってみたんです。つまり、作品世界に自分が小学生の時に見ていた風景だけを再現するのではなくて「見たかった風景」のイメージまで混ぜ込んでみた。〜

大阪メトロに乗り入れているコスモスクエア行きの車両がはっきりと映ってた。
インタビューなどで答えているとおり、本作いつもの京都ではなく奈良郊外が舞台。(と、なるとお姉さんとアオヤマ君が行こうとしてた「海」は「大阪港」?)
海辺のカフェでのお姉さんとの別れ。
泣くな、少年
ぼくは泣かないのです
原作のラスト数行はアオヤマ君のボイスオーバーによって、そのまま使われている。(この締めは原作でも「いいなぁ」と思った箇所)
「僕らは今度こそ電車に乗って海辺の町へ行くだろう~(略)~つまりぼくがふたたびお姉さんに会うまでに、どれぐらい大人になったかということ。
そして、ぼくがどれだけお姉さんを大好きだったかということ。どれだけ、もう一度会いたかったかということ。」

最後のペンギン探査船を発見するところは原作と違うところ。
この締めの部分に宇多田ヒカルによる主題歌「Good Night」がかぶさっていくところも、ピッタリのタイミング。


映画『ペンギン・ハイウェイ』公式サイト
http://penguin-highway.com/


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2018-04-06

『ペンタゴン・ペーパーズ 最高機密文書(THE POST)』スティーヴン・スピルバーグ監督、メリル・ストリープ、トム・ハンクス

ペンタゴン・ペーパーズ 最高機密文書
THE POST

監督 : スティーヴン・スピルバーグ
出演 : メリル・ストリープ
トム・ハンクス
サラ・ポールソン
ボブ・オデンカーク
ブラッドリー・ウィットフォード
トレーシー・レッツ
マイケル・スタールバーグ
ブルース・グリーンウッド
サーシャ・スピルバーグ、他

物語・ベトナム戦争の最中だった1971年、アメリカでは反戦運動が盛り上がりを見せていた。そんな中、「The New York Times」が政府の極秘文書“ペンタゴン・ペーパーズ”の存在を暴く。ライバル紙である「The Washington Post」のキャサリン(メリル・ストリープ)と部下のベン(トム・ハンクス)らも、報道の自由を求めて立ち上がり…(物語項、シネマトゥデイより抜粋)

Post

Memo1
トランプ米大統領から「ハリウッドで最も過大評価された女優」と名指し攻撃されたメリル・ストリープがワシントン・ポストの社主役(なんと痛烈で痛快な素晴らしいキャスティング!←トランプ氏『ワシントン・ポスト』嫌ってますからねー。最近もamazon批判で間接的に攻撃してたし)。
1971年の物語ながら、まさしく「今そこにある報道の自由の危機」を描いた現代の話となっている。
ヤヌス・カミンスキーによる35mmフィルム撮影。
スキップブリーチではないと思われるが彩度・カラーパレット含め、そこから感じ取れる70年代映画質感。
(後述リンク先にレンズの事などについて書かれたものあり)
アン・ロスによる衣装。
ジョン・ウィリアムズのスコアも控えめながら渋い旋律。
『ニューズウィーク日本版』2018年4月3日号に「ベトナム戦争の嘘を暴いた男」ペンタゴン・ペーパーズをリークしたダニエル・エルズバーグについての記事が掲載されていました。
おぉっ!ここが映画の冒頭で政府側の嘘、欺瞞を知ってしまった が機密文書を持ち出し複写機(デカイ!)をかけてコピーをとる、あのシーンとつながるのか!と膝をうつ内容。
そしてスピルバーグ監督の時間省略など映画的手際よさにも気づく。
(実際は文書持ち出しまでに数年のタイムラグがある)
メリル・ストリープ演じるキャサリン。
夫の死によって突如「ワシントン・ポスト」社主となり完全に男社会丸出しだった世界へ入ってきてやっている感がものすごくよく表れていた(そして経営者でもあり数字も追わなければいけない。そんなこと自分にやれるかしらとオドオドした様子も)。
・会議の時に重たい資料を全部手持ちでテーブルの上に置いた際「そんなものはスタッフが用意するものだ。何も知らないで」的な馬鹿にしたような視線をおくられる。
・ベンがキャサリン宅に訪ねてきた際、就寝時の服で歩きまわり子どもが走り回っている緊張感の無さにやや言葉を失う。
・その後、近しい友人であったマクナマラのついていた嘘(自分へと国民へとの二重の嘘)と報道の公正さの間に立ち、社主としての
・そして、ニクソン側の圧力に対して輪転機が回る締切りぎりぎりの深夜の決断。
ベンや経営陣、弁護士の輪の中。
「出します」
続く台詞が洒落ている。
「寝るわ」
ベン・ブラッドリーの娘が売ってるレモネードに対して「いくらで売ってるんだ?」「25セント」「倍の値段に。インフレだよ」とひとこと。
(次のシーンでダンボールに書かれた値段が50セントに 笑)
これだけで当時のインフレ状態をあらわす茶目っ気たっぷりの上手さ(ちなみにニクソンショックは文書公表記事のあと)
そう言えばトム・ハンクスって『フォレスト・ガンプ』でウォーターゲート事件、目撃してたし…(このシーン、本作のラストカットとそっくりだったような…)

Memo2
ニューズウィーク日本版ウェブの記事
映画で描かれない「ブラッドレー起用」秘話
ワシントン・ポスト社主キャサリン・グラハム自伝・第2章より抜粋。
その3回目
https://www.newsweekjapan.jp/stories/culture/2018/03/post-9860.php
Main and End Title
SCARLET LETTERS
IMDbでアスペクト比を見ると1.85 : 1 (アメリカンビスタ)になっていたので何か理由があるのかと思っていたら、Kodakのニュースレターにこの記事が。
「ヤヌス・カミンスキー(ASC)がスティーヴン・スピルバーグ監督の『ペンタゴン・ペーパーズ/最高機密文書』をコダック35mmフィルムで撮影
https://www.kodakjapan.com/motionjp-mag102
実際のアメリカ国立公文書記録管理局によるペンタゴン・ペーパーズ(全文/英語サイト/ファイルはいくつかのPDFに分割されています)
https://www.archives.gov/research/pentagon-papers

Memo3
2018年「春のスピルバーグまつり
本作と『レディ・プレイヤー1』と続けて見られる幸福感。
デビュー時から現在までリアルタイムで公開時に作品を見続けられている監督って誰だろう?と考えたときにすぐに思い浮かんだのはスピルバーグ監督。
(ヒッチコック監督は遺作となった『ファミリープロット』だったし、ビリー・ワイルダー監督は『フロントページ』からだったし、コッポラ監督は『ゴッドファーザーPART2』からだったしウディ・アレン監督は『アニー・ホール』からだったしと…以下略)
また、見た作品と劇場(映画館)の名前がセットになって覚えているのも思えば個人的映画記憶となっています。
特に1970年代。
『激突』梅田コマゴールド(←こちらはテレビ放送後、劇場公開パターン)『続・激突 カージャック』阪急プラザ劇場『ジョーズ JAWS』梅田東映パラス『未知との遭遇』OS劇場…
ずっと見続けている映画監督が今もなお最新作を撮り、しかも傑作を生み続けているのはとても嬉しい!

映画『ペンタゴン・ペーパーズ 最高機密文書』公式サイト
http://pentagonpapers-movie.jp/


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2018-02-28

さあ、お飛び ! お飛び !!『花筐/HANAGATAMI』大林宣彦監督、窪塚俊介、満島真之介、長塚圭史、柄本時生、矢作穂香、山崎紘菜、門脇麦、常盤貴子、他

花筐/HANAGATAMI

監督 : 大林宣彦
原作 : 檀一雄
出演 : 窪塚俊介満島真之介
長塚圭史柄本時生
矢作穂香
山崎紘菜門脇麦
常盤貴子
村田雄浩、武田鉄矢
入江若葉、他

物語・1941年春、叔母(常盤貴子)が生活している佐賀・唐津に移り住んだ17歳の俊彦(窪塚俊介)は新学期を迎え、美少年の鵜飼(満島真之介)やお調子者の阿蘇(柄本時生)、虚無僧の如き吉良(長塚圭史)らと勇気を試す冒険に熱中していた。肺病に苦しむ従妹の美那(矢作穂香)に恋する一方、女友達のあきね(山崎紘菜)や千歳(門脇麦)とも仲がいい。そんな彼らに、いつしか戦争の影が忍び寄り…(物語項、シネマトゥデイより抜粋)

Hanagatami

Memo1
「さあ、お飛び ! お飛び !!」
「殺されないぞ、戦争なんかに!」
いつの間にか「戦争三部作」とよばれるようになった『この空の花-長岡花火物語』『野のなななのか』に連なる作品(確か最初はそう呼ばれていなかったと思うけれど、本当にいつのまにか)
デジタルの扱いがこなれてきたと言えば失礼にあたるかもしれないが、そのバランス、ケレン味含め、本作が個人的には三部作中最も好きな作品となった。
上映時間2時間49分。
決して短くはない。
だが長くもない。
むしろ気がつけば終わっていて短いぐらいだ。
なんという芳醇な時間的贅沢さ。
映画が終わって場内が明るくなった時に湧き立つ観客席の"静かな熱"とも呼べる空気感(高揚感)は忘れられない。
冒頭のナレーション。
「昭和12年はまことに陰鬱な年であったと檀は述べている」
「その年、檀一雄25歳」
「これはあの戦争の時代を一生懸命に生きぬこうとした当時の若者たちによる青春の筐である」
そのあとに続くナレーション(僕こと主人公である俊彦)では「ここは架空の町であってもよい。またいつの時代であってもよい」と続く。
そう!この映画は現在へとも地続きなのだ。
鵜飼に憧れて煙草を拾う俊彦、それを見ていた笛を吹く吉良。調子にのり熱湯に手をつける阿蘇。美しい叔母、舞う花びらと血と月のイメージ美那、吉良との刹那的な思いが揺れる千歳、店の切盛りで男顔負けのあきね。各人のキャラクター立ちが際立っている。
そこで芽生える考えの対立、不良のまねごと、恋心…
それらを全てかき消してまうように忍び寄る戦争の影(教授に届いた赤紙のくだりなど、本当に怖い…)
鵜飼の台詞。
青春が戦争の消耗品だなんて、まっぴらだ

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Memo2
パンフレットデザインは岡崎直哉氏。
48ページ。
監督による演出ノオト。
完成版ではカットされた冒頭に入っていたといわれる大林監督が少年時代に描いた「戦争画」についても写真と絵、テキストで紹介されている。
批評、対談、盛りだくさんの充実した内容。

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Memo3
いくつかのインタビューなど。
1月27日
大阪ステーションシネマ舞台挨拶。
監督が舞台袖から現れて、まず行ったのはスクリーンを見上げて手を振り挨拶。
話はフレッド・アステアから手塚治虫(10歳年上「手塚治虫お兄ちゃん」と呼んでいた)、そしてガンとの関わり方についてなど、まったく途切れることなく、あっという間にマスコミ用フォトセッションが入るか入らないかの30分ぎりぎりまで話されていた。
1月30日 MBS「ちちんぷいぷい」
27日の舞台挨拶の映像(上記画像)とインタビュー
「このごろ大林は戦争映画を撮りだした」と言われているんですが、それは間違いであって「戦争を体験したから映画を撮っているんだ」と。
と、いう言い方のほうが私の場合は正しいんだろうと。
2月22日「ゴロウデラックス」
課題図書は『大林宣彦の体験的仕事術』
番組内では、なんと!16mmで撮られた『喰べた人』の岸田森さん出演シーンやマンダムCMや『HOUSE/ハウス』『転校生』などが紹介された。
「3歳 映写機で遊ぶ」のテロップ。
監督のひとこと。
映画館で観る前に映画を作っていた

『花筐/HANAGATAMI』公式サイト
http://hanagatami-movie.jp/

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2018-02-25

『The Beguiled/ビガイルド 欲望のめざめ』ソフィア・コッポラ監督、ニコール・キッドマン、キルスティン・ダンスト、エル・ファニング、コリン・ファレル、他

The Beguiled/ビガイルド 欲望のめざめ
The Beguiled

監督 : ソフィア・コッポラ
出演 : ニコール・キッドマン
キルスティン・ダンスト
エル・ファニング
ウーナ・ローレンス
アンガーリー・ライス
アディソン・リーケ
コリン・ファレル
、他

物語・南北戦争下のアメリカ南部。世間から隔絶された女子寄宿学園で生活している園長マーサ(ニコール・キッドマン)や生徒(エル・ファニング)ら女性7人は、けがを負った北軍の兵士・マクバニー伍長(コリン・ファレル)と遭遇する。敵方ではあるが、彼女たちは彼を屋敷に運んで介抱する。園長をはじめ学園の女性たちは、容姿端麗で紳士的な彼のとりこになってしまう。(物語項、シネマトゥデイより抜粋)

Be1

Memo1
南部のプランテーション様式の館、そしてあの土地独特の植物スパニッシュ・モス(「真夜中のサバナ」を思いだした!)、きのこ(粘菌質)。
培養されているような女性たちだけの寄宿舎に異物(負傷した男性兵士)が…。
ソフィア・コッポラ監督らしく、さらりと描いているように見えてレイヤーの下にはじっとりと…
(もっと、どろっとした感じで描かれるのかと思いきや一般的に言われる愛憎劇とは違った感触。しかし終盤、突如変貌するマクバニー伍長は現代におけるDV的要素の意味合いも?)
比較
同じ原作を元に映画化されたドン・シーゲル監督『白い肌の異常な夜』はタイトルバックからして南北戦争のスチールにラロ・シフリン(!)の音楽が重なる濃いオープニング。
マーサと兄との間に起こっていたこと(ドロドロ)、黒人のメイド(いかにも南北戦争時)や象徴的な傷を負った鴉など省かれたエピソードも多い。
そして、マーサと教師エドウィナの嫉妬に燃えるシーンはもっと激しく(終盤、叩きあうシーンもあった)やラストの歓送会と称した企みのディナーで出される毒きのこもエミーが(それこそ、さりげなくマーサから採ってきてと匂わされつつも自分の意志で)採ってきたものという設定(口元がニヤッとする場面の怖いこと怖いこと)
しかし本作では上流階級出身のマーサと教師のエドウィナ(キルスティン・ダンスト)との育ちの違いをドレスの肩出しに対してチクリと言葉で射す程度。(ほとんどが視線か言葉で)
衣装が戦時の割には清潔な汗のイメージがひとつもない白基調のものが多いことも特徴的。(ドレスはさらにカラフル)
室内インテリアや食器、フランス語の授業、お祈りの時間、洗濯を乾したり畑を耕したりの日常などが細かく描写されている。
The Beguiled/ビガイルド 欲望のめざめ』がヨーロッパビスタ(1.66:1) ドン・シーゲル監督『白い肌の異常な夜』はアメリカンビスタ(1.85:1)とアスペクト比が違う。
(よって、シネコン張りキャン・スクリーン上映では左右に黒みが残っていました)

Be2

Memo2
あきらかに狙っている誰かの視線のような周辺が微妙に暗い、まるでピンホールカメラで撮ったようなショット。
該当場面→マクバニーがエミーが門に脱走兵がいる印として青い布を結んでいるところをマクバニーに見つかり悲鳴をあげる。あわてて庭に飛び出したマーサを捉えたシーン。
(いろいろ記事などを読んでいくとビンテージレンズが使用とある)
メイキング映像を見ると驚くことに、ものすごく明るいライティングで撮られている(自然光もいかしてはいるが、かなり意図的に光のコントロールが行われていてビックリ。)
ゆえに全体の屋外と室内との差異を色彩調整したものと思われる。
Go Behind the Scenes of The Beguiled
https://www.youtube.com/watch?v=ipAT_WzPK-Y
Title Design > PETER MILES STUDIO
(ソフィア・コッポラ監督の前2作「SOMEWHERE」「ブリングリング」に続いて)
ポスターなどに使用されているものと本編のメインタイトルでは同じスクリプト系でも書体が違うものになっている。
衣装デザイナーはステイシー・バタット
スケッチなどが掲載されたEW誌・記事
南北戦争が始まる前に持っていた衣装しかないという設定(故にパステルカラーの衣装を着ている)で、何度も何度も洗濯され日にやけて、少し褪せたイメージを作り出した。
http://ew.com/movies/2017/10/04/the-beguiled-sofia-coppola-costume-design/
そう考えると記事タイトルにあるように一種のゴーストストーリーとしても捉えられるかもしれない。その象徴的な門に閉ざされた館の中は時が止まった戦前のままなのだから(遠くで砲撃の音がずっと聞こえているが戦争のシーンは出てこないし…)

『The Beguiled/ビガイルド 欲望のめざめ』公式サイト
http://beguiled.jp/

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