2021-09-29

ひとつのキャラバンが終わり、また次がはじまる『ムーンライト・シャドウ(Moonlight Shadow)』エドモンド・ヨウ監督、小松菜奈、宮沢氷魚、佐藤緋美、中原ナナ、臼田あさ美、他

ムーンライト・シャドウ
Moonlight Shadow

監督 : エドモンド・ヨウ
原作 : 吉本ばなな

出演 : 小松菜奈、宮沢氷魚
佐藤緋美、中原ナナ
吉倉あおい、中野誠也
臼田あさ美

Moonlightshadow_20210815001

Memo1
彼岸と此岸を隔てるものは川だ。
そして繋ぐものも、思いをはせるために横たわるのも川だ。
ある種、夢を見ているような感覚。
時間の伸縮で言うならば、それは長い。
印象としての時間と実際の時間。
監督がインタビューで答えている通り、原作よりもかなり肉付けされた登場人物。
小説の映画化が(逆説的な意味ではなく)すごく文学的に見える。
映像から立ち上る行間は詩的だ。
さつき(小松菜奈)と等(宮沢氷魚)、柊(佐藤緋美)、ゆみこ(中原ナナ)、麗(臼田あさ美)の間に紡がれる時間も、川の流れのごとく、蜘蛛の巣のように地下に張り巡らされた地下の水のように、繋がっているようで変化し続け曖昧な感じだ。
4人が初めて顔を合わせるシーンがとてもよい。
柊とゆみこを見て反応するさつき。
それにしても、さつきを演じた小松菜奈のアップ絵の力強さたるや。(「渇き」以来、ずっとテレビよりも映画での出演作を見ている気がする。それほどにスクリーンが似合う)
出演者以外にも撮影、カラリスト、他、気になることがいっぱい。
そして印象深い音楽のトン・タット・アンさん
(『朝が来る』もそうだったのか、とMUBIをチェックして驚いているところ)
An Ton That
https://mubi.com/cast/an-ton-that
色のトーンについては何度もディスカッションを重ねたという通り、本作の文学性を創り上げる一端となっている。
さつきの赤のコートは(おそらくカラコレで強調されてると想像)強烈なイメージを残す。それはラストで喪失から踏み出して足を進める力強さにも繋がっていく"赤"だ。
ロケ地を調べると劇中、最も印象深い"あの橋"は東京都羽村市「羽村堰下橋(はむらせきしたばし)」
(google Mapに入力するとストリートビューもあるので、まさにあの場所へ飛ぶことができます)
これは、ちょっと行ってみたい。

Moon1
Memo2
パンフレット。
大島依提亜さんによるデザイン。
監督、キャストインタビュー、植本一子エッセイ、シナリオ決定稿(高橋知由)、他
(以下、大島さんのtwitterより引用)
上製本でもはや“本”(スピンやはなぎれも)
さらに表紙は金属的光沢の群青色のパール紙を使用。
谷川俊太郎さん詩/木下龍也さん岡野大嗣さん短歌の書き下ろし等、ナナロク社さん完全編集の中身も本気の書籍です。
これは本です、と語ってくる「もうひとつの仕掛け」が洒落ている。
(購入者のお楽しみとして)
買われた方の映画と映画館の思い出に

吉本ばなな原作本。
リアルタイムで読んだ当時、内容とともに話題となった装丁書籍を探したが見つからず、現在底本とされる新潮文庫版で再読。
「七夕現象」→「月影現象」
「うらら(ひらがな名)」→「麗(うらら)」
と、大きな差異はそれぐらいだ。
喪失からの一歩。
進んでいく「さつき」のモノローグ。
原作も映画もラストは同じ。
等。私はもうここにはいられない。刻々と足を進める。それは止めることのできない時間の流れだから、仕方ない。私は行きます。ひとつのキャラバンが終わり、また次がはじまる
Moon2

 

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2021-06-06

『まともじゃないのは君も一緒』前田弘二監督、高田亮脚本、成田凌、清原果耶、小泉孝太郎、泉里香、他

※注・内容に触れています。
まともじゃないのは君も一緒

監督 : 前田弘二
脚本 : 高田亮

成田凌
清原果耶
小泉孝太郎
山谷花純
倉悠貴
大谷麻衣
泉里香、他

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Memo1
コミュニケーション能力ゼロ予備校先生と、その指南役が恋愛経験ゼロ高校生という設定時点で可笑しい。
成田凌、清原果耶、息(会話)が合ってはいけない役回りで息がピッタリってなんのこっちゃーですが、素晴らしいです。
早口台詞のズレた心地よさ、テンポ。楽しい!
いつのまにかミイラ取りがミイラに展開や”ほんのり艶話”はスクリューボールコメディの王道展開。
本作も、あのシーンでこーなるだろうなー、がそうなって爆笑(小声で拍手)。
(それにしても小泉孝太郎、よくこの役受けたなぁ、と別の意味で感心)
会話劇ですが室内が多いわけではなく緑の多いロケ含め、全体トーンが清々しく、初夏シーズンにもぴったりです。
清原果耶さんの「てか、何?」の言い回し、うまいなぁー。
あと、何十回も出てくる「普通」というワード。
さて、何回出てるでしょう。答えはパンフレットに。

Memo2
スクリューボールコメディの成分。
『レディ・イヴ』や『パームビーチ・ストーリー』『ヒズ・ガール・フライデー』『赤ちゃん教育』から『初体験/リッジモント・ハイ』最近の『ある日モテ期がやってきた』最後は増村保造監督『青空娘』まで出てきて、こういう話が聞きたかった!
前田弘二監督×高田亮脚本×根岸洋之プロデューサーによる鼎談
https://cinefil.tokyo/_ct/17438555

THE CHARM PARK「君と僕のうた」
(Special Collaboration Movie)
このコラボムービー見たら、再見したくなる。
定量的に 笑
https://www.youtube.com/watch?v=mWsp8JPIy_A


で、よくよく考えると最初の時点でふたり揃って普通じゃなくない?
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番外編
スクリューボールコメディとロマンティック・コメディとソフィスティケイテッド・コメディをどう分けるのか(あるいは分けているのか、同じものなのか)。
小林信彦さんが以前、スクリューボール(奇想)コメディと書かれていたような記憶がある。
線引き、難しいところだが本作の持っているカラッとした温度感のあるコメディ。
もっと、もっと見てみたいと思った次第。
前田、高田コンビに期待!

映画『まともじゃないのは君も一緒』
公式サイト
https://matokimi.jp/







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2019-01-03

Netflix『マニアック(MANIAC)』キャリー・ジョージ・フクナガ監督、エマ・ストーン、ジョナ・ヒル、ジャスティン・セロー、ソノヤ・ミズノ、他

注・内容、ラストに触れています。
マニアック
MANIAC

監督 : キャリー・ジョージ・フクナガ
出演 : エマ・ストーン
ジョナ・ヒル
ジャスティン・セロー
ソノヤ・ミズノ

物語・この世界に似た別の世界、そして現代に似た別の時代が舞台の「マニアック」では、それぞれ異なる事情から謎めいた新薬の臨床試験の最終段階に参加したアニー・ランズバーグ (エマ・ストーン) とオーウェン・ミルグラム (ジョナ・ヒル) の物語が繰り広げられます。母と姉妹との破綻した関係に執着し、不満を抱きながら目的もなく生きているアニー。ニューヨークの裕福な実業家夫婦の5男で、疑わしくも統合失調症という診断にずっと苦しめられているオーウェン。まともな人生を求める2人は最先端の新薬を使った治療を耳にします。発案者のジェームズ・K・マントルレイ医師 (ジャスティン・セロー) は、数個の錠剤を服用するだけで、精神疾患から失恋による傷心まで、心の不調はすべて治療可能と宣言し、これに魅せられた2人とその他被験者10人がネバーディン製薬バイオテック社の施設に集まり、3日間の臨床試験に参加します。合併症も副作用もゼロで、心の問題を永久に根絶できると言われた彼ら。しかし計画通りには進まず…。(物語項、Netflix メディアセンター記載分より)

Maniac

Memo1
●迷走(瞑想)の果てにたどり着いた帰着点。
変則型ボーイ・ミーツ・ガールものとも言えるかも?
ただ一筋縄でいかないのは振り幅の大きさ。
その振り幅(揺れ幅)はどこから来ているのか?
●50年代のビート、60年代のヒッピー、70年代のサイケデリック、80年代のサイバーカルチャー、そして90年代のバーチャルリアリティとティモシー・ リアリーが提唱(合わせて、まさにこのドラマのようなニューロポリティクス)それらに現代の人工知能と(まさにラストはこれ→)「カッコーの巣の上で」ミックスモダン。
(もちろんフィリップ・K・ディックのトリップ感やウィリアム・ギブスン風味も)
●そのティモシー・リアリーが特集(TV電話インタビュー、テキストなど)された「ET PLUS」(1990年・刊)のページが本作の冒頭イメージ。

Et

●マニアック : 日本での和製英語としてのことばと実際の英語の意味合いの違い。
●笑ったのは支払いに使えるアドバディ。
ずっと真横に暑苦しい〜オッサンが寄りそって広告を話し続ける、なんとも皮肉な味付け(「あなたにおすすめ」をリアルカウントで行ったら、こうなる?笑)
●鑑賞後感(後味)がよいのはラスト近くでのアニーのことば「友達だから」が効いている。
●いろいろな役柄を演じるエマ・ストーンが見られるのもファンとして嬉しい。(まさかのエルフものまで!)

Memo2
●元となった2014年のTVシリーズ『Maniac』(IMDb)
https://www.imdb.com/title/tt3714902/
●はられた伏線やフリのようなものが
『マニアック(Maniac)』を視聴した人が見逃しているかもしれない15の事柄
https://www.net-frx.com/2018/09/netflixmaniac15.html

マニアック | Netflix 公式サイト
https://www.netflix.com/title/80124522

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2018-07-09

見えるものと見えないもの『万引き家族(Shoplifters)』是枝裕和監督、リリー・フランキー、安藤サクラ、城桧吏、佐々木みゆ、松岡茉優、樹木希林、他

注・内容、台詞に触れています。
万引き家族
Shoplifters

監督 : 是枝裕和
出演 : リリー・フランキー
安藤サクラ
城桧吏佐々木みゆ
松岡茉優
樹木希林
柄本明、池松壮亮
緒形直人、森口瑤子
山田裕貴、片山萌美
高良健吾、池脇千鶴、他

物語・治(リリー・フランキー)と息子の祥太(城桧吏)は万引きを終えた帰り道で、寒さに震えるじゅり(佐々木みゆ)を見掛け家に連れて帰る。見ず知らずの子供と帰ってきた夫に困惑する信代(安藤サクラ)は、傷だらけの彼女を見て世話をすることにする。信代の妹の亜紀(松岡茉優)を含めた一家は、初枝(樹木希林)の年金を頼りに生活していたが…(物語項、シネマトゥデイより抜粋)

Kore2018

Memo1
見えるものと見えないもの(横尾忠則対談集タイトルにもありました←漢字は「観えるもの」)
また、関西テレビでちょうど再放送中の『ゴーイング マイ ホーム』の中でも「世の中は目にみえるものだけでできているんじゃない」といった台詞があるように是枝監督作品の通底するテーマのひとつと思う。
それは撮さないことでみえてくるもの"いろいろなもの"でもある。
脚本完成前に撮影された海水浴シーン。
樹木希林演じる台詞(聞きとれないつぶやきだが原作では「ありがとうございました」)が既に続くシーンへとつながることも考えられていたのだろうか?
同じくラスト。
初見の時に気づかなかったがバスの中でつぶやいた口元。
原作には「おとうさん…」とはっきりと書かれていて、このあたりの印象が少し変わるのも映像とことばの差異として面白い。
(よく言われる「ことばにならないことば」それこそが目で見ることと文字で読むことの違い。映像は映像を喚起しないが小説は映像を喚起させる。また映像は具体的に発せられていない台詞であってもことばを換気させることがある。そんなことを、ふと思った)
是枝作品が好きなのは、その(小説で言うところの)読後感(それもよい読後感)に似た味わいが残るからなのだろうなぁと改めて思った。
近藤龍人による35mmフィルム撮影。
今までの是枝監督作品とは違った趣きがあり新たな側面。
そして、同じく初の細野晴臣による音楽も。
エンドクレジット、是非最後の1音まで聴いて(見て)ほしい。
あと劇中、ハッとさせられる使い方も。

Memo2
KODAK メールマガジン
撮影 : 近藤龍人 インタビュー
インタビュー中に出てくる、言葉。
フィルムの色は「記憶色」
https://www.kodakjapan.com/motionjp-mag108
日本映画専門チャンネルでメイキング・オブ「万引き家族」を見る。
30分番組だが密度が濃い。顔合わせ、夏編の撮影、書き進められた脚本の読み合わせ、セット美術のこと、カット割りされるかと思われた場面がワンカットで撮られた瞬間、子役への演出、そして安藤サクラから溢れでた感情
IMDbには既にプリプロ中として「The Truth About Catherine」の記載が。
BRUTUSでの監督対談で細野晴臣『銀河鉄道の夜』の音楽が先に仮当てられていた話が。
こちらはhoneyee.comに掲載された対談。
是枝裕和・細野晴臣が語る、パルムドール受賞作『万引き家族』の音楽と創作を続ける理由
http://www.honeyee.com/art-culture/001339
次回作としてIMDbには既にプリプロ中「The Truth About Catherine」の記載が。

Shop

Memo3
端正なパンフレット。
デザインは大島依提亜。
本文44ページ。監督、出演者、撮影監督、細野晴臣さんインタビューやコメント。プロダクションノートとコラムが3本(内田樹、中条省平、坂元裕二の3氏) そして人物相関図と間取図!

(文中敬称略)

『万引き家族』公式サイト
http://gaga.ne.jp/manbiki-kazoku/



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2018-06-01

無一物(むいちもつ)『モリのいる場所』沖田修一監督、山崎努、樹木希林、他

注・内容に触れています。
モリのいる場所

監督 : 沖田修一
出演 : 山崎努
樹木希林
池谷のぶえ
加瀬亮、吉村界人
光石研、青木崇高
吹越満、きたろう
林与一、三上博史

物語・画家の守一(山崎努)は草木が生え、いろいろな種類の生きものが住み着く自宅の庭を眺めることを30年以上日課にしていた。妻と暮らす守一の家には、守一の写真を撮る若い写真家の藤田、看板を描いてもらおうとする温泉旅館の主人、隣人の夫婦など来客がひっきりなしだった。(物語項、シネマトゥデイより抜粋)

Mori1

Memo
冒頭から驚いた。
「これは何歳の小学生が書いた絵ですか?」
昭和天皇(林与一)の台詞で幕を開ける。
続く長野で旅館をやっている朝比奈(光石研)が看板を書いてほしいと訪ねてくれるシーン。
「長野!?それは大変だったでしょう。さっそく準備しましょう」
「よかったねぇー、あんた」
「先生はめったに書いてくれないから」
(現に表札が何度も盗まれている)
「新幹線のこと知らないから、ここへ来るの、ものすごく時間がかかったと思われてる」
出された大きな檜。
見守るギャラリー(誰?という人も 笑)
そして書かれた文字。
(旅館名ではなく熊谷守一の好きな言葉)
無一物
鑑賞後用に録画しておいた展覧会のナビ番組『生きるよろこび 画家 熊谷守一の軌跡』と『美の巨人たち/宵月』をチェック。
1972年のドキュメンタリー映像で庭を歩く姿や夫婦で囲碁をうつシーンが部分使用されていた。
蟻の一歩についても。
(紹介作品は1958年「豆に蟻」)
蟻は左足の前から二番目の足から歩き始める
そして、もうひとりの出演者とも言える家、昭和7年築!
インタビュー記事などを読むと全体が見渡せる画面は写さず、庭自体の広さが判別できるのはラスト、写真家・藤田が隣に建てられたマンションの屋上にあがって写真を撮る件(くだり)
こんなに狭かったんだ…。
藤田もアシスタントも、そして本作を観てきた観客もここで驚かさせられる。
その「美の巨人たち」の中で山崎努さんへのインタビュー。
「一貫してマイペースを貫いた人ですよね。彼は見る人でね。見るということはインプットすることで、見た経験が自分の中で発酵してそれが作品としてアウトプットするわけですよね。だけども守一さんの場合は絵を描くためになにかを観察したり勉強するわけじゃないんでね。そういう生き方って贅沢だと思いません?
「好きに作品は『宵月』です」
「あの青は僕にとってはね深くてね。よく見るとあの節のところにジャイアンツのGって書いてあるんですよ。ユーモアあるんですよ」
(本当に熊谷守一さんが好きなんだなぁ、ということが伝わるインタビュー)
じーっと石を見て動かない熊谷。
(まさに本人も石と同化?いや、その前に庭と一体化しているか)
あ、動いた
蟻の隊列について、どうやって撮影したのかについて「モリカズさんと私」に書かれていました。意外とシンプルな方法。(ちなみに黒澤明監督『八月の狂詩曲』でリチャード・ギアと子どもが蟻の行列を見るシーンがあるが、そちらはフェロモンを発生させる装置を使ったりと超大掛かりなシステムで撮られたとのこと。)
設定が1974年。
ドリフターズに志村けんが加入した件の話があっての、たらい落としネタやいつの間にか加わっていた知らない男(三上博史)が実は宇宙人?など一見、リアリスティックに寄りがちなドラマを見事にハネさせていて、この空気感を醸しだす沖田修一監督作品は好みだわぁー。
で、おなじみの食べものネタ。
伊勢海老『南極料理人』海苔『キツツキと雨』とんがりコーン『滝を見にいく』ピザ『モヒカン故郷に帰る』と続いて、本作は牛肉。(姪がついつい買ってきた大量の牛肉。続くシーンが想像どおりで笑ってしまった)

今年(2018年)東京で開催され現在、愛媛県美術館で開催中の『没後40年 熊谷守一 生きるよろこび』展。(6月17日まで)
音声ガイドが山崎努さんと樹木希林さん!
http://kumagai2017.exhn.jp/

Mori2

映画『モリのいる場所』公式サイト
http://mori-movie.com/

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2017-10-17

『マインドハンター(Mindhunter)』デヴィッド・フィンチャー監督、他 / ジョナサン・グロフ、ホルト・マッキャラニー、アナ・トーヴ、ハンナ・グロス、他

注・内容、ラスト、使用楽曲などに触れています。
マインドハンター
Mindhunter

原作・制作 : ジョー・ペンホール
監督 : デヴィッド・フィンチャー、他
出演 : ジョナサン・グロフ
ホルト・マッキャラニー
アナ・トーヴ
コッター・スミス
ハンナ・グロス、他

物語・1970年代後半、殺人犯の心理を研究して犯罪科学の幅を広げようとするFBI捜査官2人。研究を進めるうち、あまりにリアルな怪物に危ういほど近づいてゆく。(物語項、公式サイトより抜粋)

Mind_h

Memo1
シーズン1全話、見た。
傑作!
映画ともドラマとも違った、この味わい。
次回へ続くという引っ張り方ではないにもかかわらずやめられない。
この感触はなんだろう?しいて言えばじっくり読む小説の味わい。
エピソード毎の時間が通常ドラマより不規則なのも章立て(チャプター)の感覚。
決して1話完結ではないにも関わらずエンドクレジット(特に有名な楽曲を使っているエピソード)がクロールしている時の締めくくり感も不思議だ。
フィンチャー監督は(1,2,9,10話)の4エピソードを監督しているが、他の監督も全エピソードを通して、そのトーン&マナーにブレはない。
『特捜部Q』などの"変わり者たちだし、何の役にたつかわからない部署だから始まりは地下の窓のない部屋からスタート"する話は大好物なので、この点もまたよいなーと思ったポイント。
ウェンディ・カー博士のアナ・トーヴはキャスティング段階から「おぉっ!」ドラマ『FRINGE/フリンジ』のヒロイン役ではないですか!と期待していた女優(『フリンジ』もFBI捜査官だけれど、J・J・エイブラムスドラマということでパラレルワールドSF)
本作は研究一筋といった趣の博士役。
ホールデンの恋人デビーを演じたハンナ・グロスがよい。
フィンチャー監督は『ソーシャル・ネットワーク』ルーニー・マーラ『ゴーンガール』ロザムンド・パイクと女優を他作品とは一線を画す撮り方で魅力的に(時に発掘して)映す名手と常々思っていたけれど、本作も。
プロファイリング手法が確立されていない時代、それを構築していく段階のドラマ。
途中から"ミイラ取りがミイラになる如き"自身がシリアルキラー(特に最初から登場している殺人鬼エド・ケンパー)と転写同化していくような感じになる。
目つきもおかしい。
日常生活までプロファイリング化して人の行動の先を読み過ぎ空回り。
デビーとの仲もギクシャクしてくる。
(確かにエピソード10でデビーが言うように最初出会ったときは好奇心に満ちた姿で、これからやろうとすることを語っていたホールデンに惹かれていたのだから)
そして、ラスト。
自殺を図ったケンパーの入院している病院。
まさに恐怖をつきつけられる(それは襲われた瞬間の恐怖よりも、あることに気づいた恐怖だ)
心の闇の奥底は、まさに誰にも(当の殺人鬼にも)「わからない」のだと…。
メインタイトル前に何回かあるカンザス州の謎の男の事(それに対しての細かいフリ→ふと、目にとまる現場写真の手首のロープの結び方→船舶関係?→そのカンザス州の男が紐を結んでいるシーン)などは全て続きに?シーズン2?

Memo2
タイトルデザイン
MAIN TITLE DESIGNED BY KELLERHOUSE,INC.
END TITLES BY SCARLET LETTERS
Neil Kellerhouse >「ソーシャル・ネットワーク」「ドラゴン・タトゥーの女」「ゴーン・ガール」のキービジュアルとなる美しく洗練されたポスター類も(他に「レヴェナント」やクライテリオン版「ふたりのベロニカ」パッケージなど多数)
デヴィッド・フィンチャー監督ファンサイト
The Fincher Analyst
https://thefincheranalyst.com/
Adobe Premiere Proによる編集を行っている動画。
(初回アクセス時USA側を選択/現時点ではAdobe USAサイトのみ公開されています)
The minds behind David Fincher's Mindhunter.
https://www.adobe.com/creativecloud/video/customer-stories.html
デヴィッド・ボウイからトーキングヘッズ、ブームタウン・ラッツ、レッド・ツェッペリンまで使用されている楽曲も素晴らしい!
ソングリスト(Songs by Episode)
https://www.tunefind.com/show/mindhunter/season-1
なんとバンド名が「地球の静止する日」由来で名付けられた、クラトゥ(Klaatu)のこの曲が出てきてビックリ!(ドラマ設定年の曲)
エピソード4のラスト
行動科学課の3人が所長に呼ばれ、何か嫌ごと言われるのかと思いきや「予算がついた」「もはや私の手を離れた。監査も厳しくなるぞ」
乗り込んだエレベーターの中。
嬉しさを隠しきれないで、微妙に笑みがもれる3人の姿のバックに流れ、そしてエンドクレジットへ。
Calling Occupants Of Interplanetary Craft
https://www.youtube.com/watch?v=9URM_5R-vWk

マインドハンター | Netflix公式サイト
https://www.netflix.com/jp/title/80114855

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2017-05-19

"あなたの人生の物語"『メッセージ(Arrival)』ドゥニ・ヴィルヌーヴ監督、エイミー・アダムス、ジェレミー・レナー、フォレスト・ウィテカー、他

注・内容、台詞、ラストその他全般に触れています。
メッセージ
Arrival

原作 : テッド・チャン
監督 : ドゥニ・ヴィルヌーヴ
出演 : エイミー・アダムス
ジェレミー・レナー
フォレスト・ウィテカー、他

物語・巨大な球体型宇宙船が、突如地球に降り立つ。世界中が不安と混乱に包まれる中、言語学者のルイーズ(エイミー・アダムス)は宇宙船に乗ってきた者たちの言語を解読するよう軍から依頼される。彼らが使う文字を懸命に読み解いていくと、彼女は時間をさかのぼるような不思議な感覚に陥る。やがて言語をめぐるさまざまな謎が解け、彼らが地球を訪れた思いも寄らない理由と、人類に向けられたメッセージが判明し…(物語項、シネマトゥデイより抜粋)

Arrival1

Memo1
ブログ記事タイトル名は原作"あなたの人生の物語"を。
映画を観終わったときに、その原作タイトルがまた違った深度を持って問いかけてくれる。
(これより以降、思いつくままにメモを元に台詞やシーンをランダムに記載しています。エイリアン表記ではなく全てヘプタポッドとして記載)
フラッシュバックと思われていた娘、ハンナ"HANNAH"との映像。
実は"これから起こるできごと"フラッシュフォワードであることが後半にわかってくる。
"起こりうる未来が過酷なものであっても、それを受け入れる?"
ラスト
(ルイーズとイアンと小鳥が描かれた絵)
「パパとママが動物に会ったの」
撤収していく軍や関係者たち。
ルイーズのモノローグ。
「あなたの物語はこの日から始まる」
イアンの台詞。
「ずっと宇宙に憧れてきた」
でも1番驚いたことは彼らにではなく、君に出会ったことだ
「パートナーが君でよかった」
「数学者のような考え方をする」
理系と文系がタッグを組んで問題解決に挑む。
このふたりでよかったと思えるシーンの積み重ね。
性急な結果(ここで言う結果とは"彼らが地球に来た目的は何かということを知ること)を求めてくる政府。そしてウェバー大佐。
それに対して語彙がもっと必要だと解くルイーズ。
そこで、こういう話をする。
オーストラリアに初めて上陸した際、先住民族に対して「あのお腹の袋に子どもを入れて飛び跳ねている動物はなんだ」という質問に対して「カンガルー」と答えた。
でも、実際は彼らの言葉では「理解不能」という意味。
「お見事」というイアン。
「(字幕では)都市伝説よ」
(実際はうるおぼえですが→「真実ではないけれど私の伝えたいポイントをおさえている話」)
(前段として、ウェバー大佐が大学に訪ねてきた際、去り際の大佐に別の教授にあたる際にサンスクリット語で"戦争"の意味を聞いてほしいというシーンもある)
ファーストシーンとラストが繋がる円環構造についてはSFマガジンでの添野知生氏による批評(5ページにわたって紹介。他に基本、善人しか出てこないこと「ある日どこかで」のことなど鑑賞後に読むテキストとして最良)やパンフレット中のレビューでもいくつか記述されている。
(そのシーンのために始めと終わりに使用されるマックス・リヒター「On the Nature of Daylight」←End title crawlにも単独表記されるほど重要な楽曲)
殻"Shell"の中でルイーズたちとヘプタポッドの間にある"Wall"。
それはまるで見ているこちら側(観客側)のスクリーンのようでもある(本作自体がスコープサイズだし)。
スクリーンの中にスクリーンがある感じ
そこに近づいていくルイーズと観客はヘプタポッドとの遭遇を同じような気持ちで見ることとなる。
また"Shell"自体のサイズ感(ヘリコプターの俯瞰から見たものと地上から近づいていったときののものとの比率)が分からなくなるように被写界深度の浅・深を巧みに取り入れている撮影手法も素晴らしい。
"Shell"は宇宙船というよりは、まさに容器のようでもあり通路のようでもある。
ゆえにラストに去って行く姿は舟が離れていくというよりは、その場から消滅していくようだ。
ルイーズとイアンが兵士たちによる爆弾テロに巻き込まれ"Shell"から弾きだされる(事実上ヘプタポッド"アボットとコステロ"に助けられたことに)直前に受け取った膨大なロゴグラム。
「時間についての表示が多い」
「点と余白の数を計算してみた」
0.0833
「分数で表すと」
1/12
"武器を与える"その意味するところと世界の12地点に現れたことなど全てが合致して出てきた答え…。
娘ハンナとのフラッシュフォワード映像がよぎる(その前後の描き方の見事さ)。
ある語句を思い出せないでルイーズに質問するハンナ。
「取引?」
「ウィンウィン?」
「違う。もっと数学的な感じの…」
「それだったらパパに電話してみなさい」
そして。
未来の自分が現在の自分から答えをもらう。
(切迫した状態で各国お互いのデータをどう渡しあうのか…。ウェバー大佐らに説得するルイーズ。そこでポツリとイアンが…「ノンゼロサムゲーム」)
ハッとするルイーズ。
そしてハンナに。
「ノンゼロサムゲーム」
("non-zero-sum game" 日本語字幕で「非ゼロ和ゲーム」と出ていた)
原作で出てくるフェルマーの光の最小径路が省かれているのは映画としての選択だったのかはよくわかる。
それでも、それっぽい台詞がさりげなく織り込まれている。
それはルイーズの姿勢も表している。
「急がば回れよ」
初見の際に「!」と思ったチャン将軍との(フラッシュフォワード)1年半後の会話。
「あなたに会いたくて来た」
「あの時、わたしの携帯電話に電話をくれたから今こうして会えた」
「わたしは番号を知らない」
チャン将軍が携帯の番号を見せながら…
今、知りましたよ
手が無意識に震えるほどの恐怖もありながら与えられた使命(目的)のために勇敢に立ち向かう聡明にして孤独を内に秘めた言語学者ルイーズ。演じたエイミー・アダムスが本作でアカデミー賞にノミネートされなかったことは謎。
そのエイミー・アダムスの透きとおるようなブルーアイと防護服のオレンジ色が補色になっている点も美しい。

Arrival

Memo2
タイトルデザインはLouis-Martin Duval
(抱き合うふたり。待ち受ける未来を知りつつも…)
そして静かに暗転。浮かびあがるARRIVALのタイトル。
http://annyas.com/screenshots/updates/arrival-2016-denis-villeneuve/
コンセプトアート
(かなり違っているものもある)
Concept artist Meinert Hansen
Arrival: Concept Art, Part 1: The Shell
https://meinerthansen.com/2016/11/13/arrival-concept-art-part-1-the-shell/
Arrival: Concept Art, Part 2 – The Aliens
https://meinerthansen.com/2016/11/19/arrival-concept-art-part-2-the-aliens/
ポスター右下に記載されている12ヶ所の緯度・経度が確認できるサイズで閲覧できるポスターサイト。
http://www.impawards.com/2016/arrival_gallery.html
音をスペクトラムで表した図。
モンタナがその中で抜け出てピークを指している。
(後半は'TED'における8次元についてのスピーチ関連記載)
https://medium.com/colorless-green-ideas/the-arrival-a-colorless-story-of-your-life-312504e04700
一貫しての言語学者ルイーズの視点で描かれる本作。その根幹たる「使用言語によって思考は影響される」というサピア=ウォーフの仮説についての(おそらく)唯一の書籍『言語・思考・現実』(L・ベンジャミン・ウォーフ/著)
公開後に突如、売れ始めるかも?
音楽は同じヴィルヌーヴ監督の『プリズナーズ』『ボーダーライン』を手がけたヨハン・ヨハンソン(『ブレードランナー 2049』も控えている)
公式ウェブサイト
http://www.johannjohannsson.com/
既に日本以外ではBlue Rayが発売されており特典マテリアルとして1時間を超えるメイキング関連映像が収録されています。
テッドチャンへのインタビューから音響設計、ロゴグラムの製作過程など多数。
IMDbで下記タイトルで検索可。
• Xenolinguistics: Understanding Arrival
• Acoustic Signatures: The Sound Design
• Eternal Recurrence: the Score
• Nonlinear Thinking: The Editing Process
• Principles of Time, Memory and Language
こちらの語句で画像検索するとその他、いろいろと面白いものが… → "arrival mathematica code"
数式処理システム"Mathematica"について
(言語、図像解析に用いられていて画面に多々登場)
https://mathematica.stackexchange.com/questions/137156/where-is-abbott-how-to-make-logograms-from-the-film-arrival
【TVブロス】5月20日号。ヴィルヌーヴ監督への渡辺麻紀さんのインタビュー。監督自身が「えっ、そうなの?それは知らなかった!」と反応した『スター・トレック ファーストコンタクト』でも人類が初めて異星人と遭遇するのがモンタナだったという話をはじめ、妙にツボにはまる話が掲載されています。(「『デューン』はまだやるか決まってないよ。」なども)
メイキング映像(約15分)
Go Behind the Scenes of Arrival
https://www.youtube.com/watch?v=QOMIL_6bkiU
"WIRED"掲載のロゴグラムのメイキング記事
"映画『メッセージ』制作陣はいかにして「エイリアンの文字」をデザインしたか?"
http://wired.jp/2017/05/20/arrival-alien-alphabet/

Arrival_p
Memo3
パンフレットデザインは大島依提亜‏さん。
"Shell"の型抜きが表1、表4に施されている。
(中にはモンタナと帯広の写真。合計全12ヶ所の"Shell"出現地の写真も掲載)
A5サイズ/本文52ページ。
プロダクションノートが12ブロック。
レビューが12本。
(原作、SF映画、コミュニケーション、音楽のことなど本編に関わる要素が網羅された内容)
ロゴグラムの素敵な仕掛けがセンターに。
映画史に残るSF作品に相応しい手元に置いておきたいパンフレット。

映画『メッセージ』 | オフィシャルサイト
http://www.message-movie.jp/


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2017-04-08

"Unchained Melody"『未来よ こんにちは(Things to Come /L'avenir)』ミア・ハンセン=ラブ監督、イザベル・ユペール主演

未来よ こんにちは
Things to Come /L'avenir

監督 : ミア・ハンセン=ラブ
出演 : イザベル・ユペール
アンドレ・マルコン
ロマン・コリンカ
エディット・スコブ
サラ・ル・ピカール、他

物語・教師の夫と巣立っていった2人の子供を持ち、自身も高校で哲学を教えているナタリー(イザベル・ユペール)。高齢の母親を世話しながら、哲学書の執筆に忙しくしている状況で、夫が別に付き合っている女性がいたことがわかる。夫に彼女と生 活を共にすると告げられてあぜんとしていると、今度は母親が亡くなってしまい、さらには付き合いの長かった出版社からも契約を打ち切られる。バカンスシー ズン直前にひとりぼっちになってしまったナタリーは…(物語項、シネマトゥデイより抜粋)

Ttc1

Memo1
イザベル・ユペール演じるナタリーがスタスタスタと前を向いて歩いて行く姿が、もうとにかくカッコイイ!この姿だけで原題のL'avenirを体現している。
そしてフィルム撮影による光のゆらめきのなんと美しいこと!
室内から見える外の風景。そして樹々のざわめき。
(大好きな)『あの夏の子供たち』の時にも感じたけれど、風がフィルムに定着されている。
いろいろなシーン
・ブルゴーニュの元夫の実家に荷物を取りにいったナタリー。
携帯の電波が届かず、外へ出て海岸をペタペタと裸足で歩く姿(痛っイタタタって感じが実にもう…)
・夫か、もしくは、その彼女によるものと思われる花瓶の花を「何、これ(怒)」みたいな感じでIKEA(?)のバッグにばさばさと投げ入れ、それをそのままゴミ箱に捨てる(勢いあまって指を怪我する)→思い直したようにバッグだけゴミ箱から取り出す。何が起ころうとも動じないようようにみえたナタリーが一瞬みせる八つ当たりシーンだが、すぐに冷静になる場面)
・ナタリーがひとりで観に行く映画が、ふとしたことで夫婦を演じるふたりの話を描いたキアロスタミ監督『トスカーナの贋作』(変な男につきまとわれて最後まで観られない…と、いうことはラストの"鐘の音が鳴るシーン"は見ていない?)
ドキッとする台詞
・母親の養護施設への入所シーン。
「いやな匂い」
「死の匂いがする」
(あまりにも救急隊や周囲へ迷惑がかかりすぎることから、仕方なく施設に入れてしまったナタリーがショック気味につぶやいた台詞)
・教師としての自分の考え。
「自分の頭で考える若者をつくること」
印象的な選曲
(それは場面を伴って)
・母親の葬儀のシーン
César Franck 
前奏曲、フーガと変奏曲 Prélude, Fugue et Variation
・子供たちからは"お気に入りの"とひやかされ、ナタリーは否定しているけれど、ほのかに"いいな"と思っている教え子ファビアンが暮らすアルプス。
迎えに来てくれた車の中で流れる
「いい曲ね」
「この車、これしか、かからなくて覚えてしまった」
Woody Guthrie   
My Daddy (Files A Ship In The Sky)
・ラスト。
クリスマスに集まった娘と孫、そして息子。
孫を抱き抱えているナタリーとダイニングルームを写しつつ、カメラがゆっくりと引いていく。柔らかな暖色の灯り。
(解き放たれた自由、ピッタリの締めくくり)
Fleetwoods
Unchained Melody
そのままエンドクレジットへ。
・そして予告編などでも使われていたシューベルトの歌曲
Dietrich Fischer-Dieskau 歌唱による
Franz Peter Schubert 
水の上で歌う Auf dem Wasser zu singen
https://www.youtube.com/watch?v=m-jwCVMLQj8

Memo2
『ふらんす 2017年4月号』(白水社) に対訳シナリオ掲載。
日仏対訳のシナリオ抜粋とともに紹介する、中条志穂さんによる『ふらんす』名物コーナー。目次をよく見たら"寝るまえ5分のパスカル『パンセ』入門"という連載も。
http://www.hakusuisha.co.jp/book/?book_no=285094
アリカム、ライカレンズ、35mmフィルムによる撮影。

Ttc2

Ttc

『未来よ こんにちは』公式サイト
http://crest-inter.co.jp/mirai/

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2017-04-01

"Hello Stranger"『ムーンライト(MOONLIGHT)』バリー・ジェンキンズ監督

注・内容、台詞に触れています。
ムーンライト
MOONLIGHT

監督・脚本 : バリー・ジェンキンズ
出演 :  トレヴァンテ・ローズ
アッシュトン・サンダース
アレックス・R・ヒバート
マハーシャラ・アリ
ナオミ・ハリス
アンドレ・ホランド

物語・マイアミの貧困地域で、麻薬を常習している母親ポーラ(ナオミ・ハリス)と暮らす少年シャロン(アレックス・R・ヒバート)。学校ではチビと呼ばれていじめられ、母親からは育児放棄されている彼は、何かと面倒を見てくれる麻薬ディーラーのホアン(マハーシャラ・アリ)とその妻、唯一の友人のケビンだけが心の支えだった。そんな中、シャロンは同性のケビンを好きになる。そのことを誰にも言わなかったが…。(物語項、シネマトゥデイより抜粋)

Moonlight

※Memo1
ドキュメンタリーにならないよう、あえてスコープサイズで撮影し、すごく繊細に室内ライティング(蛍光灯の元での映像は特にドキュメンタリー色が出てしまうと思うのでカラーグレードでの調整込みで)に気を使ったガラス細工のような作品。
LGBTQ、いじめ、ドラッグ、人種などが表立って語られるわけではなく(それはレイヤーとして織りこんで)ひとりの少年の内面を通して描いていく美しさを秘めたドラマである。
幼少期( i.Little )、少年期( ii.Chiron )、青年期( iii.Black )のそれぞれ演じるのは3人の別々の俳優。
(監督が決め手としたのは"同じ雰囲気を感じさせる目")
1章、2章はかなり近い見た目だが、3章は場面が変わるなり「誰!?」と思わせるようなマッチョで金歯で、いかつい車に乗った姿で現れるシャロン(この見た目は変わっていても本質は変わらないことを体現するかのような構成とキャステイングは本当に上手い。そして、その本質の変わらなさがはっきりわかる、酷い仕打ちをしてきて「許して」という母親と交わす言葉とまなざし、態度にあらわれる)
アカデミー賞助演男優賞を受賞したマハーシャラ・アリ演じる麻薬ディーラー、ホアン。
シャロンにとって、父親代わりであり、メンターであり、手を差しのべる人でもある。冒頭、チラッと見た少年たちの走っていく姿。多くは語っていないが自身もそうだったのだろう、すぐにいじめられていると察知したのかシャロンが逃げ込んだ廃屋をみつけて、中へ入っていく。
そこで無理に喋らせないスタンスもよいし、まずは「何か、食うか?」の声のかけ方もひととなりが出ている。
(2017年3月30日放送『カンブリア宮殿』で「こども食堂」の経営者が言っていたが「子どもは自分の家のことをすぐには喋らないし、親のことを悪く言わない」ということがわかったうえでの対処って絶対あると思う。ホアンの台詞でそのことを思いだした。今年公開された荻上直子監督『彼らが本気で編むときは、』での主人公リンコが恋人の姪である母子家庭の子どもトモへも同じようなスタンスで接する姿が描かれていた)
海でシャロンに泳ぎを教えるシーン。
ホアンの台詞
「月明かりで、お前はブルーに輝く」
元となった戯曲のタイトル "In Moonlight Black Boys Look Blue"
ケビンとシャロンとの夜の海岸。
海は真っ暗で何も見えない。
(砂浜と波打ち際の境界線も見えず、画面でいうと上部だけが暗闇)
そこには波の音だけが聞こえる。
何回か繰り返される場面。
ラストシークエンス。
ケビンの営むダイナーのシーン
「シェフのおすすめ」にひとこと。
「いつからキューバ人になったんだ」
そして、「これを聴いて思い出したんだ」とジュークボックスでケビンがかけるバーバラ・ルイス(Barbara Lewis)のHello Stranger(1963)の歌詞が全てを語っている。
どんなに時が経とうとも、それがちょっと苦くつらい傷みをともなっていようとも、ふたりにとっては忘れえぬ思いでなのだ。
あの夜の海岸のできごとは。

※Memo2
美しいカラーグレード!
1章はブルー、2章は黄色み、3章はウォームトーン、そして被写界深度をあげてのクリアライトな風合い。
カラリストはアレックス・ビッケル
Color Collective
http://colorcollective.com/
‘Moonlight’ Glow:
Creating the Bold Color and Contrast of Barry Jenkins’ Emotional Landscape
http://www.indiewire.com/2016/10/moonlight-cinematography-color-barry-jenkins-james-laxton-alex-bickel-1201740402/
『ムーンライト』とウォン・カーウァイ作品を比較検証した動画
"Moonlight and Wong Kar-wai"
(TV Bros.16~17P、ファントムフィルム代表へのインタビューをまじえての記事より)
https://www.youtube.com/watch?v=66cIeb_nNO4
タイトルデザイン
使用フォント > Trade Gothic
Main-on-end titles、チャプタータイトルカード 画像
http://annyas.com/screenshots/updates/moonlight-2016-barry-jenkins/

映画『ムーンライト』公式サイト
http://moonlight-movie.jp/

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2017-03-12

『モアナと伝説の海(Moana)』ロン・クレメンツ、ジョン・マスカー監督、(Voice Cast) アウリイ・クラヴァーリョ、ドウェイン・ジョンソン、他

モアナと伝説の海
Moana

監督 : ロン・クレメンツ
ジョン・マスカー
Voice Cast : アウリイ・クラヴァーリョ
ドウェイン・ジョンソン
レイチェル・ハウス
テムエラ・モリソン
ニコール・シャージンガー
ジェマイン・クレメント
アラン・テュディック、他

Moana

Memo1
映画は見てみるまでは判らないもので(それこそ『フォレスト・ガンプ』に出てきたセリフのようだ)全く予想していたものと違った作品が眼前に繰り広げられての大拍手!
(その辺、日本版ポスターや予告編によるものだとは思うけれど、初日の観客層はおそらく女性客が7〜8割だったのでは?とパッと見の感じ)
それにしても、すごく違っていて、何この、めちゃくちゃな面白さ!
近年のディズニー作品がプリンス要らずのプリンセス独立ストーリーの趣き(昨年の『ズートピア』はポランスキー「チャイナタウン」まで匂わせつつのバディムービーだったし)が強くなっていく方向で本作もその流れ。
さらに今回は(も)ロマンス要素は、ほぼゼロ。
(なんといっても"マウイ"は半神ですし…←タトゥーが本心をビジュアルで見せ"こころの声"などというワンテンポ遅くなる表現ではないというところもアイデア)
モアナやマウイのキャラクターデザインがポスターやチラシなどの印象としてはあまりよい印象ではなかったのが、途中から俄然魅力的に。
まさに命を吹き込むアニメーション力!
先に試写で見た人がつぶやいていた"海のマッドマックスFR"(+スターウォーズ+ウォーターワールド)
ホントだ!確かに。
ココナッツ海賊"カカモラ"
(ドンドコドンドコシーンのディテール、じっくり見たい。きっといろいろ小ネタな動きをやっているに違いない)
と、なるとあいつはイモータンジョー?笑
(倒され方というか、ほとんどオウンゴール)
そして監督がインタビューで該当シーンについてジョージ・ミラー監督に言及してた!
スクリーン張りキャン、スコープサイズタイプ推奨(←勝手にそう名付けてますが、ビスタ・タイプ張りキャンだと上下黒みが出る場合が)。
これは大スクリーン案件作品!
冒頭、ちびっ子モアナがウミガメを助けて海に返してあげるシーン。
(↑葉っぱで日陰を作ってあげて、もう、ここだけでグッときましたが)
それに続く"海に選ばれたシーン"の水の表現の美しさ!
(こ、これは「十戒」や〜「アビス」や〜、とおぉぉぉっ!となった。ラストはまさに「十戒」そのもの)
モアナのペットであり友だちでもある子ブタの"プア"や、すっとぼけまくりの何をしでかすかわからないニワトリの"ヘイヘイ"らは今までのドラマセオリーだと、かなり重要な役回りになるところ、割りと小絡み(プアにいたっては海を怖がり、こころを返しに行く旅には参加せず)。
さらに(よくあるパターンである定石的ドラマツルギー)助けたウミガメの子が恩返しとばかりに登場することもないというあたりにも、今までとは違った次なる"ある種の流れの始まり"を感じてしまったりもするぐらい本作のストーリ展開はイイ!!
(字幕版に続いて日本語版も予備知識無しで見たら)タラおばあちゃんの声が夏木マリさんって…湯婆婆やん 笑
(そのタラおばあちゃんが、まさにメンターでありヨーダのようでもある)
モアナの台詞
(幾度となく繰り返される口上)
I am Moana of Motunui.
You will board my boat.
Sail across the sea.
And restore the heart of Te Fiti.


Memo2
Making of Moana
(Cast ADR / Animation B-roll / Scores)
島の粘土模型をいくつも造って、それをベースに作成していくところは驚き!(アートブックを見たらカカモラの島型戦艦の模型も!)
https://www.youtube.com/watch?v=rB5MpMDMpas

End Title Design > Brian Estrada
ロール前のタイトルカード部分。
シンプルに1点ずつ描かれた、力強さがあって本作のもつエナジーとピッタリで素晴らしい。
エンドタイトル後におまけあり。
(ロン・クレメンツとジョン・マスカーは『リトル・マーメイド』の監督ということで、このオマケにはなるほど~。そしてグラムロック・カニ"タマトア"(←笑)の日本語版キャストはROLLY←またしてもなるほどー)
そのエンドロールの一番最後に"あのキャラ"が登場(他にも隠れミッキーとか、あるらしいけれど画面では未確認)

モアナと伝説の海
http://www.disney.co.jp/movie/moana.html

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