2017-09-21

「でも、いい話ですね。それはいい話だ」『三度目の殺人(THE THIRD MURDER)』是枝裕和監督、福山雅治、役所広司、広瀬すず、他

内容、台詞、ラストに触れています。
三度目の殺人
THE THIRD MURDER

監督 : 是枝裕和
出演 : 福山雅治
役所広司広瀬すず
吉田鋼太郎、斉藤由貴、
満島真之介、松岡依都美、
市川実日子、橋爪功、他

物語・勝つことを第一目標に掲げる弁護士の重盛(福山雅治)は、殺人の前科がある三隅(役所広司)の弁護を渋々引き受ける。クビになった工場の社長を手にかけ、さらに死体に火を付けた容疑で起訴され犯行も自供しており、ほぼ死刑が確定しているような裁判だった。しかし、三隅と顔を合わせるうちに重盛の考えは変化していく。三隅の犯行動機への疑念を一つ一つひもとく重盛だったが…(物語項、シネマトゥデイより抜粋)

Sando1

Memo1
「マッチポイント」の予告編がカンヌで初めて流れたとき「あれ?誰の作品?」という空気。
最後に"監督 : ウディ・アレン"と出た際「ほぉ!」という感嘆の声があがった。本作もクレジットがなければ是枝監督の作品だとはわからないかもしれない。それほど全く異なるタイプの映画。
とはいえ、もちろん底流には是枝監督作品ならではの"目にみえないもの"といったモチーフも垣間見える。
開巻、倒叙的なシーン。
観客は、この時点で役所広司が犯人だと思って映画を見始める。
それは見ているうちに弁護士である重森と同じ気持(こころの動揺をもって)で、二転三転する三隅の証言に惑わされていく。
また、重森にも三隅にも娘がいる。そこに被害者である父親の娘がかぶさっていく。
その上で「もしかして、広瀬すず演じる娘咲江の単独犯?」
「父親を呼び出したのが娘で殺害したのは重森?」と、いかようにも捉えられるショットが挟みこまれる。
後述パンフレット記事で知ったのだが、三隅と咲江が接見室で無言で手を合わせるシーンを撮影していたそうだ。
本編ではカットされたけれど、もし入っていたら全体のトーンがまた変わっていたかもしれない。
いろいろな台詞。
(ちょっと気にかかった台詞)
・「ガソリンはどうしたの?」
「会社まで取りに行きました」
「わざわざ?」
「最初から用意していた訳じゃないんだね」
(この一回目の接見シーンの三隅発言の曖昧さで、よくわかっていないのだが実際ガソリンはどうだったのだろう?)
・事務所のデスク、服部(松岡依都美)が事件現場の写真を見てひとこと。
「当分、焼肉は無理だわ」
(と、言ったその直ぐ後に全員で焼肉を食べているシーンが 笑)
・咲江と母・美津江(斉藤由貴)の会話。
「お母さん、寂しくて死んじゃうかもしれない」
「死なないでしょ。寂しいくらいじゃ…」
この母娘の関係がよくわかる台詞だ。
最初に重森が被害者であるふたりの家を尋ねたとき、三隅の手紙をビリビリッと破る母・美津江の姿を写さない。実は…ということが判明する前に表情をとらえない厳密な演出。
・判決後の接見シーン。
「重森さんがそう考えたから、わたしの否認に乗ったと…」
「でも、いい話ですね。それはいい話だ」
「わたしはずっと生まれてこなければよかったと思ってるんです」
「こんな私でも誰かの役に立つことができる」
「駄目ですよ。重森さん。こんな人殺しの話に乗っちゃあ」
あなたは…ただの器…?」
ラストは幾重にもはられた電線。
そして十字路に立つ重森をやや俯瞰で捉えるショットで終わる。
ダンケルクがジャム。
本作はピーナッツクリーム。
さりげないアイテムが効果的。
小鳥も十字架もピーナッツクリームも…

Sando2

Memo2
瀧本幹也による撮影。
光と影。
銀残しのトーン、スコープサイズをいかした人物配置。質感も美しい。
7回ある接見シーン。
ラスト、ふたりの顔が重なりあう場面は圧巻。
『三度目の殺人』のパンフレットは見た目は通常のよく目にする版型だが、中身は写真の配置から余白まで極めて緻密。
そして掲載されている出演者インタビューも「エッ!?」と驚く初出の内容が多い (鑑賞後に読むことを大前提に編まれている)
また本編、法律監修も行った岩月泰頼「法廷におけるいくつかの真実」記事も興味深い内容が多々。
カラー44P
批評は道尾秀介森直人
アートディレクション(宣伝美術)は「そして、父になる」に続いて服部一成
(パンフレットデザイン表記は服部一成+山下ともこ)
ちなみに「幻の光」から「花よりもなほ」「歩いても歩いても」は葛西薫。
「空気人形」「ゴーイング マイ ホーム(TV)」「海街diary」は森本千絵。
『文藝別冊/是枝裕和』葛西薫特別寄稿。
以下『幻の光』パンフレットについて書かれている部分より抜粋。
"タイトルは海外版に合わせて『MABOROSI』としている。
ヘボン式ではなく日本式ローマ字表記であるべきだろうと、こだわって末尾の綴りをSHIではなくSIとしたのだった"

(ブログ記事中の敬称略)

『三度目の殺人』公式サイト
http://gaga.ne.jp/sandome/



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2016-06-07

『海よりもまだ深く』是枝裕和監督、阿部寛、樹木希林、真木よう子、吉澤太陽、小林聡美、池松壮亮、他

注・内容、台詞に触れています。
海よりもまだ深く

監督 : 是枝裕和
出演 : 阿部寛樹木希林
真木よう子吉澤太陽
小林聡美
池松壮亮
リリー・フランキー、他

物語・15年前に1度だけ文学賞を受賞したことのある良多(阿部寛)は「小説のための取材」と理由を付けて探偵事務所で働いている。良多は離婚した元妻の響子(真木よう子)への思いを捨てきれず、響子に新しく恋人ができたことにぼうぜんとしていた。良多、響子、息子の真悟(吉澤太陽)は、良多の母・淑子(樹木希林)の家に偶然集まったある日、台風の一夜を皆で過ごすことになり…(物語項、シネマトゥデイより抜粋)

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Memo1
脚本の1ページ目に書かれたという、この言葉がそのまま問いかけでもあり(しかし答えがあるわけではない)、監督のまなざしでもある。
「みんながなりたかった大人になれるわけじゃない」
かつて、夏休みにお祖父ちゃん、お祖母ちゃんのいる田舎へ帰るというと"今住んでいる場所より遠く離れた自然のある場所"をイメージしたものだが、それがいつの間にか"電車やバスに乗っていける場所"(さらに、それが団地)に変わっていったのはいつ頃のことだろう?
『海街diary』地上波放送された際に、ふと思ったこと。
CMが入って細切れになっているのだが、普通に流し見として成立すること。それも、おそらく途中から(CMとCMの間のシーンだけ)見たとしても、ちょっと見入ってしまう(入っていける)という不思議な感覚をもった。
もしかするとテレビドラマ『ゴーイング マイ ホーム』を撮った辺りから、意図的に何かそういったことをされているのかなぁ、と。
(刊行されたばかりの著書『映画を撮りながら考えたこと』の中で言及されているかは未確認)
キネ旬、川本三郎さんの連載「映画を見ればわかること」で『海よりもまだ深く』が成瀬巳喜男監督作品を想起させたことについて書かれていて、なるほどなぁ、と納得することしきり。
(川本さんの著書でも成瀬作品はとにかく情けない男とお金の話が出てくると書かれていたけれど、本作もまさに。
本作で重要な台風のシーン、『山の音』にも台風が出てきたことも(←こちらは前半、ろうそくのあかりのもと、すごく饒舌になる登場人物)
『公園対談 クリエイティブな仕事はどこにある?』(是枝 裕和、樋口 景一・著) の中にあったQ&A. 是枝監督が仕事に対する心構えや姿勢について影響をうけた映画1〜3本→ケン・ローチ『ケス』侯孝賢『恋恋風塵』成瀬巳喜男『稲妻』
(そういえば『稲妻』から受ける雰囲気と本作、ちょっと似てるかも?)
テレビドラマ『ゴーイング マイ ホーム』(主人公の名前が『歩いても 歩いても』『海よりもまだ深く』と同じ良多。演じたのが福山雅治による『そして父になる』の主人公も同名)
本作が不在(亡くなっている)であることで存在が浮かび上がる(ラストで明かされる父親の隠された部分。硯のくだり)ことに対して、こちらは父親との話。
これ、今、再放送かけられたらいいのに。
『空気人形』のロケ地として最初、団地をさがしていた話が【東京人】(2009年11月号)に 〜 「僕は公団育ちなんです。40年ぐらいたつ公団なので、今では子供も少なく、お年寄りの一人暮らしが多くなっている。子供の頃に遊んだ芝生は立ち入り禁止だし、夜もまばらにしか灯りがつかない。集合住宅なのにみんなバラバラに住んでいます」
(この部分、後述良多の台詞に)
台詞いろいろ。
(特に冒頭あたりの、何気ない会話シーンを確認したくて2回目鑑賞の際、最後列1番端の席で迷惑にならないようにメモした)
・開巻すぐ
良多の姉・千奈津(小林聡美)と母・淑子の会話。
「宛名ぐらい自分で書きなさいよ」
「手がね、ほら」
(手をぶらぶらさせる)
「やめなさいよ、ドリフじゃないんだから」
「父さん。字だけはうまかったわね」
「大器晩成ってやつじゃない」
「うちにも一人いるけど」
「ま、大きいことは大きいけどね」
・良多と母、淑子との会話。
ベランダから階下を見ている良多
「静かだなぁ」
「もう遊ぶ子どももいないから」
「俺らの子供の頃は野球するのでも芝生の奪い合いだったけどね」
・「あんた覚えてる、みかん」
「俺が高校の時、種、植たやつだろ」
「花も身もつかないんだけどね。あんただと思って毎日水やってんだよ」
(この、なんともいいようのない言い回しの上手さ)
「なんかの役にはたってんだよ」
・妹について良多の台詞
(でも、その実、妹にも借金をしにいっていたりする)
「気をつけたほうがいいよ、あいつ何考えてんだかわからないんだから」
「かじるスネなんて残ってませんよ」
・川本三郎さんが(前述キネ旬の前号)『歩いても歩いても』にも出てきた蝶々の件(くだり)についても書かれていて、そのシーンの台詞。
「この道歩いてると蝶々がね、あとをつけてくるのよ」
「お父さんかと思った」
「まだ迎えにこないでくださいよね」
・(あー、まだまだたくさんのセリフたち。きりがないのでこれぐらいで。時々、追記して、ずらりと並べるかも)
興信所、所長(リリー・フランキー)が、ポツリと言う台詞
「時代に感謝しないとなぁ、ちっちゃい時代に」
歌謡曲の歌詞から連想されたというタイトル。
いしだあゆみ「ブルーライトヨコハマ」→『歩いても歩いても』
テレサ・テン「別れの予感」→『海よりもまだ深く』

Memo2
いつも印象的に残る食事シーン。
フードスタイリストは飯島奈美さん。
前作『海街diary』がしらすカレー
本作はカレーうどん(母・淑子による隠し味手法も披露!)

Koreeda
広告美術は葛西薫さん。
ちなみに「幻の光」から「花よりもなほ」「歩いても歩いても」は葛西さんによるアートディレクション「そして、父になる」は服部一成さん「空気人形」「海街diary」は森本千絵さんによるもの。

映画『海よりもまだ深く』公式サイト
http://gaga.ne.jp/umiyorimo/



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2015-06-24

『海街diary』是枝裕和監督、綾瀬はるか、長澤まさみ、夏帆、広瀬すず、他

注・内容、台詞に触れています。
海街diary
原作 : 吉田秋生
監督・脚本・編集 : 是枝裕和
出演 : 綾瀬はるか長澤まさみ夏帆
広瀬すず、大竹しのぶ、堤真一、加瀬亮
風吹ジュン、リリー・フランキー
前田旺志郎、鈴木亮平、池田貴史
坂口健太郎

物語・鎌倉で暮らす、幸(綾瀬はるか)、佳乃(長澤まさみ)、千佳(夏帆)。そんな彼女たちのもとに、15年前に姿を消した父親が亡くなったという知らせが届く。葬儀がとり行われる山形へと向かった三人は、そこで父とほかの女性の間に生まれた異母妹すず(広瀬すず)と対面する。身寄りがいなくなった今後の生活を前にしながらも、気丈かつ毅然と振る舞おうとするすず。その姿を見た幸は、彼女に鎌倉で自分たちと一緒に暮らさないかと持ちかける。こうして鎌倉での生活がスタートする。(物語項、シネマトゥデイより抜粋)

Umimachi2

Umimachi1

Memo1
原作と同じ朝、彼氏の部屋で目覚める佳乃のシーンから映画は始まる。
(携帯からスマホに。電話はかけずにメールで父親の死を知る)
原作のかぶさるような会話部分が映画の中で再現されているところと省略されているところが絶妙のバランス。
是枝監督、傑作法事映画『歩いても歩いても』に続いて「キタァー!!」と思った法事シーン(お葬式シーン)が最初と最後と真ん中に配置された構成。
父親の葬儀、祖母の七回忌、海猫食堂店主二ノ宮さん(風吹ジュン)の葬儀。
それぞれに本作のキーポイントとなるシーンが配されている。
佳乃の性格を表す台詞
(と、いうか、これだとずっと飲んでるみたいですが 笑)
・山形、旅館に着いた途端。
「あー、あ〜、ビール~」
・海猫食堂で「あー、何にしようかな」と千佳たちが迷ってる時に、すかさず「とりあえずビール」
・「3人で話しませんか」とすずの提案に。
「あー、もうめんどくさいなぁ」「梅酒!ロックで」
メイキング特番で実際の撮影前に四姉妹そろっての顔合わせ。
実際に料理を作ったり、拭き掃除をしたり、障子を張り替えたりほんとに四姉妹で生活しているような形を体験させるところからはじまる、まさに是枝監督ならではの手法。
(障子の張替えシーンは本編にも使われた)
すずと幸、佳乃、千佳とそれぞれふたりだけになった時と四姉妹全員で話している時との会話や空気の違いが実に見事に描かれている。
(人によって話す内容が知らず知らずに変わってしまうこと、ありますよね)
・すずと幸。
キッチン(台所)に並んで料理の下ごしらえ中。
「奥さんがいる人を好きになるなんて、お母さんよくないよね」
・すずと千佳。
お祖母ちゃん直伝のちくわのカレーを食べながら
「わたし、ちっちゃかったから、ほとんど父親のこと覚えていないんだ」
「また、話せるようになったら、はなし、聞かせてね」
少し間をおいて、すずが「わたし、嘘ついてたんだ。しらす丼、よくお父さんがつくってくれたんだ。」
「あと、釣りに連れてかれた」
へらぶな釣りをやっている千佳がなんともいえない嬉しそうな顔になる
(ここは、ほんとよいシーンだなぁ)
・ラスト。
幸がすずを連れて高台へ登っていく。
鎌倉の街を見下ろす、その風景は山形ですずがよく父に連れられて登った高台の景色と同じような雰囲気だ。
「わーっ」
突然、叫び出す幸
「おとうさんのバカーっ」
「すずも叫んでみて」
一瞬、躊躇するが声を限りに叫ぶ、すず。
「おかあさんのバカーっ」
抱きしめる幸
「お母さんのこと、話していいんだよ」
「ここにいていいんだよ」
幸とすず。
どことなく似ているのは、この台詞に集約される。
あの娘、子供時代を奪われちゃったんだよ
(幸は出ていった母親のかわりに小さかった妹の世話をし、すずは父親の再婚で連子のいる継母の元気苦労が絶えない上に父親の病気の看病が重なったりと…。)
それゆえの、あのラスト。
すずと同級生の風太とのシーン。
こころにとどめている本音がちらほらのぞく台詞が何度か。
山猫亭でマスター考案のしらすトーストを食べた後、風太と歩きながら。
「お父さん、あそこの店に行ってたのかも。」
「わたし、お姉ちゃんにうそついちゃった。」
砂浜に舞落ちた桜の花びら。
「もう、終わりなんだ…。山形だとこれからなんだけれど」
そのあとの桜のトンネルへ連なる美しい流れ。
また、こんなシーンも。
「わたし、ここにいていいのかな」
「おれ、三男で、女の娘期待されていたのに、あー、男かって感じで、一番写真少ないんだ」(と、なんだか、的はずれな気もするけれど精いっぱいな励ましがすずには嬉しかっただろうなぁ、と思える、これまたいいシーン)
と、他にも母(大竹しのぶ)と幸の会話など本当にたくさんのいいシーンが四季折々の自然や空気の中に綴られた、四姉妹のまさにダイアリーなのである。

Memo2
ロケ地がお馴染みの極楽寺駅や桜橋(下を江ノ電が通る高架)など定番中の定番。ちなみに原作1巻の表紙は近年「スラムダンク」OPとして観光スポット化している鎌倉高校駅前交差点踏切。
印象的な食事シーン。
フードスタイリストは飯島奈美さん。
しらす丼、しらすトースト、ちくわカレー、おはぎ、アジフライ、そして梅酒…
四姉妹の性格、キャラクターがはっはりわかるファッション。
衣装は伊藤佐智子さん。
冒頭、父親の葬儀の際の喪服の違いまでもが如実(バッグや小物、靴にいたるまで)。話題となっていた浴衣も。
撮影は瀧本幹也さん。
(パンフレット掲載インタビューより抜粋)日本家屋を美しく描いてきた名匠たちの系譜がありますねの問いに「最初に四姉妹の座り位置を決める時、是枝さんがずっと悩んでいたのが印象的でした。円卓を斜めに向けると成瀬になる。畳に対して真っすぐに座ると小津になるって」

Umimachi3

アートディレクションは「空気人形」テレビドラマ「ゴーイングマイホーム」に続いて森本千絵さん。
パンフレットの紙質が「空気人形」と同じタイプのもの。選ばれたフォント、色彩チャート(例えば、四姉妹キャストインタビューページの紫陽花をイメージさせる四色の使い美しさ)は是枝監督作品と同じ静謐さ。これはデビュー作から脈々と続いている。
(「幻の光」から「花よりもなほ」「歩いても歩いても」は葛西薫さんによるアートディレクション「そして、父になる」は服部一成さんによるもの)

映画『海街diary』公式サイト
http://umimachi.gaga.ne.jp/




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作詞活動四十五周年トリビュート『風街であひませう』

松本隆さんの作詞活動四十五周年トリビュート盤『風街であひませう』がリリースされました。(文中敬称略)

1975年頃~1980年にかけては自分にとって、まさに吉田拓郎 - 松本隆 - 太田裕美を"見て、聴いて、追っかけて"度合いが濃密な時期だったので、今回の限定盤ディスク2「風街をよむ」での太田裕美による「外は白い雪の夜」朗読は「おぉっ!これは、あの"背中合わせのランデブー"(※)の変奏的再現ではないかぁ!」とちょっと小躍りしてしまった。
※『背中あわせのランデブー』A面吉田拓郎作曲、B面太田裕美による作詞作曲。

Kazemachi

Memo
「外は白い雪の夜」を初めて聴いたのは当時、吉田拓郎がパーソナリティだった「セイ!ヤング」(文化放送・金曜日深夜オンエア)で『ローリング30』レコーディング中、箱根ロックウェルスタジオからの生中継(1978年8月)
そこから実際に生での演奏や出来上がったばかりのピカピカのマスターテープなどがオンエアされた。
「これはレコーディングメンバー全員が大絶賛したという曲を今からやります」「えー、タイトルは"そして誰もいなくなった"というのですが」まだ曲名が「外は白い雪の夜」ではなかった。
ちなみに他にも生演奏で「旅立てジャック」「人間なんて」(「ちょっと、あれ、あれやってみようか」と少しだけ演奏)
箱根から特急便で文化放送に送っていた3曲から「君が欲しいよ」「虹の魚
ハートブレイクマンション」(「日当り良好(ひあたりりょうこう)」の部分をふり仮名間違いで「ひでりりょうこう」と歌っている間違いバージョン)が流された。
箱根ロックウェルスタジオは当時としては画期的なリゾート型レコーディング&リハーサルスタジオとして人気の高かった場所。フォーライフレコードの4人(吉田拓郎・井上陽水・泉谷しげる・小室等)による「クリスマス」アルバムもここでレコーディングされた)。
そして、不思議なめぐり合わせというか、このロックウェルスタジオは、その後原田真二が「Modern Vision」と名前を変えてオーナーとなった時期があった(今、どうなのでしょう?←すみません未確認)
そして、さらには、その原田真二デビュー作「てぃーんずぶるーす」(松本隆作詞、原田真二作曲)も箱根ロックウェルスタジオでレコーディング(確かアルバムもだったと記憶)

前述『背中あわせのランデブー』に収録されている「失恋魔術師」はシングルとは別アレンジで、これが続く「花吹雪」「」(この3曲が松本隆作詞)への流れにピッタリ。この3曲、拓郎節と言われる独特の譜割りとコード進行全開で名曲だと思う。
限定盤ディスク2「風街でよむ」ディレクターの是枝裕和監督、ブックレット掲載のコメントで知りましたが太田裕美さんのファンだったのですねー( ´ ▽ ` ) ちょっと嬉しい。初めて買ったレコードが中学1年の時の「木綿のハンカチーフ
ブックレットが130ページ。これだけで独立した書籍の趣き。
(もちろん本文縦組み)
風街でうたう、集う、よむ、撮る、創る、語る、思う。
それぞれに応じた内容で綴られる、アルバムや購入者特典の限定公開是枝裕和監督ディレクターズカット「風街でよむ」など全体通して、これ以上ないのではないかと思える至極の仕上がり。

風街であひませう
http://www.jvcmusic.co.jp/kazemachi45/


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2013-10-11

是枝裕和監督、福山雅治、尾野真千子、リリー・フランキー、真木よう子『そして父になる(LIKE FATHER, LIKE SON)』

注・内容、台詞に触れています。
第66回カンヌ映画祭審査員特別賞を受賞した是枝裕和監督最新作『そして父になる』出演は福山雅治尾野真千子真木よう子リリー・フランキー樹木希林夏八木勲、他

物語・学歴や仕事、良き家庭と順風満帆な人生を勝ち取り歩んできた良多(福山雅治)が、ある日、6年間大切に育ててきた息子が病院内で他人の子どもと取り違えられていたことが判明する。血縁か、これまで過ごしてきた時間かという葛藤の中で、それぞれの家族が苦悩し……。

Soshite

Memo1
類型的に描かれたふたつの家族。おそらく、この辺は意図的にステレオタイプ化(※)して周りに起こる微細な出来事から、いろいろな想い(観客の)が浮かび上がるように構築しているように思える。※例えば財布。かたや普通に黒の札入れ、かたやマジックテープ仕様(いつから使っているのだろう)の古い財布と、ここまでハッキリと分ける必要がないところまでやっている。軸としては本当の親子とは(遺伝的な)「血」か(育ててきた)「時間」か、ということになるのだろうけれど答えとしてハッキリと打ち出さない締め括りとなっている。(鑑賞してからの時間経過で見る側の考え方も変わりそうである)
井浦新演じる人口の森(林)を管理する研究員との会話
「ここまでになるのにどれぐらいかかるものなんですか」
「15年ぐらいで」
「15年も」
ちょっと「んっ」という表情の研究員。
このシーンの後、結構すんなりと状況を受け入れる良多
(ここでの「時間」は、かかるもの、或いは「時間」が、かかるというものという部分が転換点)
「知ってる?スパイダーマンって蜘蛛なんだよ」実の父である斉木(リリー・フランキー)から聞いた話を良多に話す慶多。なにげないやりとりだが、こういった部分こそ何年か経って、ふと思いだしたりするいいところだと思います。
ラストは何処か吹っ切れた主人公。どちらの親でもいいじゃないか。変な拘りを捨てそれまでの6年間は慶多の父親でもあったのだから。
子どもはよく親の事を見てるし時に顔色をうかがって、あまり好きではないピアノを習ってみたりもする、そんな些細な表情や仕草の捉え方は是枝監督ならでは。
染み入る台詞
「いいか、血だ。これからどんどんその子はお前に似てくるぞ。そして慶多は逆にどんどん相手の親に似ていくんだ」良多の父、良輔(夏八木勲)が告げる台詞。ぎくしゃくした親子関係が浮かび上がるやり取りがあった後だけにドキッとする。
「俺も家出したんだ。母に会いたくて」(自分の気持を吐露することによって、人の気持がわかるようになってきている。或いは人の気持がわかるようになってきたからこそ自分の心を外に向かって出せるようになったのか…)
「5年間はパパだったんだぞ。出来損ないだけどパパだったんだ」上下ふたつの歩道はやがてひとつに交わり"そして父になる"はじまりの物語を告げる。

Memo2
全体的なカラー質感はクールトーン。(暗部もつぶれ気味)いつもより暗めかなぁ、と思っていたら後半になるにしたがって明度が増していき(前述の)ラストショット、親子が上下に分かれた歩道を歩くシーン、見事に陽が射していて
画面から受ける空気感がいつもと少し違うのは撮影が山崎裕さん(「空気人形」は李 屏賓)ではなく写真家・瀧本幹也さん(「空気人形」スチル写真)によるものからきていたのか、と納得。
音楽にはクラシック楽曲が使用されバッハの「パルティータ」やグレン・グールドによる「ゴールドベルグ変奏曲」アリア(エンディングで流れている楽曲)などが映画の静謐感を強調する。
是枝監督というと「幻の光」から「花よりもなほ」「歩いても歩いても」に至るまでの葛西薫さんによるアートディレクション(タイトルワークや宣伝制作)が有名ですが本作「そして、父になる」のポスター、パンフレットデザインは服部一成さんによるもの。(「空気人形」は森本千絵さん)。全てを並べてみると是枝監督作品の空気感がそのまま表されていてグッとくる。

映画「そして父になる」公式サイト
http://soshitechichininaru.gaga.ne.jp



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2011-06-18

"いま 生きているということ"『奇跡』是枝裕和監督、前田航基、前田旺志郎、オダギリジョー、夏川結衣、他

注・内容、台詞に触れています。
奇跡を信じた子供たちと、彼らを見守る大人たちを描く『奇跡』。
監督は「誰も知らない」「歩いても歩いても」「空気人形」の是枝裕和
出演は本作が映画初主演となるお笑いコンビ“まえだまえだ”の前田航基前田旺志郎。両親をオダギリジョー夏川結衣。他に阿部寛長澤まさみ原田芳雄大塚寧々樹木希林
音楽/主題歌はくるり

物語・両親の離婚で福岡と鹿児島と離れ離れに暮す兄弟、航一(前田航基)と龍之介(前田旺志郎)。ある時、九州新幹線開業の朝、福岡からのつばめと鹿児島からのさくらの1番列車がすれ違う瞬間に奇跡が起きるという噂を聞いて…。

Kiseki1

客席が孫を見守るような空気でホンワカしていた。ちょっと久々に感じたオーディエンス巻き込んでの映画体験

子供たちの人数が7人っていうのがいい。そして背丈のバランスも。横一列に歩くと、とてもいい感じ。兄弟の性格の違いも楽しい。

ちょっと小姑っぽい細かさのある航一
桜島の火山灰に対して、しきりにつぶやく台詞
「意味わからんし」
(それ故に熊本から帰ってからのラスト、桜島への挨拶 「行ってきます」が効いている)
逆にちゃっかりした弟の龍之介
ゴミ出しも友達付き合いもチャッチャとしてる。
笑えたのが→タコ焼きのタコだけ取って御飯のおかずw

かるかんと観覧車アミュラン
光一と祖父(橋爪功)が観覧車の中で有名店の「かるかん」を試食。
その後、祖父の作った「かるかん」を食べての台詞
「なんや、ぼんやりした味やなあ」
さりげない台詞だけど後々まで繋がっている。

図書室で憧れの三村先生(長澤まさみ)を見て
「裸足や」
「裸足やったな」
「ちがうでナマ脚って言うんや」

7人が新幹線を見るためにやってきた熊本で出会った(危うく補導されるかもしれないところを助けてもらった)夫婦
実は「奇跡」はそこに起こっていた。
孫娘そっくりの有吉恵美(内田伽羅)を見て。
「もう十分かなえてる」
髪をとかすシーンが素晴しい。
翌朝、新幹線が見られる場所まで送ってもらっての台詞
「あの人たち、いい人すぎるから
振り込み詐欺にあいませんように」

思い出しただけで、こんなにいろいろな台詞が思い出される映画は久々かも(他にも大人たちの反応などいいシーンがいっぱい)

Memo : 是枝監督がインタビューで→劇中出てくる谷川俊太郎「いま 生きているということ」と新幹線がすれ違うときにフラッシュで思い浮かべるシーンは対になっているそうです。

映画『奇跡』公式サイト
http://kiseki.gaga.ne.jp/

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2006-06-15

花よりもなほ・是枝監督と葛西さん・追記

前述「花よりもなほ・是枝裕和監督と葛西薫さん(2006-06-08)」で記載した葛西さんのアートワークの中で是枝監督作品(「幻の光」「ワンダフルライフ」「DISTANCE」「誰も知らない」)が取り上げられているムック本があります。「デザインノートNo2・特集アートディレクターが魅せる文字・ロゴ・フォント(誠文堂新光社・刊)」現在No7が最新刊ですが大きい書店だとバックナンバー扱いで常設している場合が多いと思いますので、機会があればご覧下さいね。(この特集号、他の方のアートワークも大変参考になります)

追記の追記
前述(2006-06-13)「雪に願うこと」の原作「鞍馬」の作者・鳴海章のもう一本映画化された小説が「風花」(相米慎二・監督、小泉今日子、浅野忠信)。こちらの広告美術も葛西薫さんによるものです。

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2006-06-10

花よりもなほ・美術と衣装

是枝裕和監督・岡田准一・宮沢りえ主演の「花よりもなほ」。美術が故・黒澤明監督の「羅生門」などに携わった馬場正男さん、衣装が長女の黒澤和子さん(パンフレットに衣装スケッチが掲載されています)と時代劇に関しての超豪華布陣(実際、長屋のセットの見事さ、衣装のおさえた色調の中、各キャラクターに合わせた見立ての素晴らしさはフィルムの中で、いかに映るかを熟知された方のプロのお仕事の見本)で制作された「お話」が「クソをモチに変える話」というところが、なんとも痛快でステキ。ちなみに、黒澤和子さんはこの秋公開の「武士の一分」も担当されています。

追記1
キネマ旬報6月上旬号「花よりもなほ」特集の中で黒澤和子さんの手がけた衣装が解説付きのカラー写真で紹介されています。

追記2
(ここから一瞬、ネタばれ)ラストショットは岡田准一ファンも納得の「いい感じ」のワンショットで終わっていますよね〜
 

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2006-06-08

花よりもなほ・是枝裕和監督と葛西薫さん

現在公開中の是枝裕和監督・岡田准一・宮沢りえ主演の「花よりもなほ」(仇討ちという、きな臭いプロットが、なんだか楽しいお話に変わっていく、いい感じで花咲く傑作)。その広告美術を担当したのがサンアドの葛西薫さん(サントリー「ウーロン茶」やユナイテッドアローズの端正な広告を生み出した人)です。「花よりもなほ」以前の是枝監督作品「幻の光」「ワンダフルライフ」「DISTANCE」「誰も知らない」の広告全般も葛西さんによるもの。全てを並べてみると、その美しい文字組にドキドキしてしまいます。(「花よりもなほ」のプレスシートも当然キレイ!!)

花よりもなほ
http://www.kore-eda.com/hana/

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